道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑬

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考  「コミュニケーションツール」を使って より良い構造物の実現を目指す

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.11.22

素直に物づくりの楽しさを実感できる
 「次はもっと上手にやろう」

 ――こうした取り組みの魅力はどのように感じますか。
 手間本 素直に技術者として物づくりの楽しさを実感できる、ということです。施工の主体はあくまで施工者です。私たち監督官は施工状況の確認や把握のほか、良いものを作る為に施工者から相談を受けたり、問題に対しての判断をします。監督官が現状を理解し、問題意識を持って施工者と向き合うことができれば、共に良いものを作ろうとする対話が生まれます。技術者として共に考え対話をすることで新しいアイディアが生まれ、次はもっと上手にやろうとする意欲が湧いてきます。いい物を施工者と一緒に作りたいと思う気持ちとそのプロセスが、私にとっては非常に魅力的で、ほんの少しの工夫でも上手くいった時はワクワクします。
 ――成功事例をいくつか教えていただければ。
 手間本 コンクリートの打込み時に型枠を叩くってのは昔から言われるじゃないですか。
 ――具体的な現場はどこですか。
 手間本 小佐野高架橋A2です。一番最初にやった時は、ただ叩いてました。


小佐野高架橋A2橋台

同橋台の概要

 ――ただ叩く。
 手間本 バイブレーターを50㌢間隔でいつもどおりにかけて、じゃあ、型枠叩こうかっていって、ただ叩いたんです。しかし、ただ叩くだけでは、気泡は余り抜けませんでした。
 (ちょっと話は変わりますが、)現在、東北地方整備局東北技術事務所と共同で、施工の良し悪しによる耐久性の変化を確認するため、1立方㍍(1×1×1㍍)の供試体を3つ作っています。丁寧に作った物、標準、わざと悪くした物を製作しました。丁寧に作成した供試体は、普通にバイブレーターをかけた上に、更にかぶりの中にバイブレーターをかけて、その後に型枠を叩きました。標準的に締固めをした供試体は、かぶりにはバイブレーターをかけませんが、同じく型枠は叩きました。その供試体の表面は目視評価の点数でいけば、多分標準的な施工をした供試体では気泡で2.5点(4点満点中)くらいです。
 小佐野高架橋A2施工時に、何も考えずに叩いても、意味を成さないというのがわかり、3回くらい打込みをして、やっと3.5点くらいに上げられるようになりました。

 ――それはいつ行ったのですか。A2の施工の前ですか、後ですか。
 手間本 A2を作りながら行いました。A2のフーチングで練習しながらなぜ気泡が抜けないのか試行錯誤していました。
 ――それで、3つ供試体を作って、締固め、型枠の叩き、などの方法を変えて。
 手間本 そうですね。
 ――目視評価で効果を見て。
 手間本 それをやってるのが今です。
 ――供試体の目視評価ですか。
 手間本 供試体です。
 ――A2が出来た後も継続して行っているわけですね。
 手間本 昨年1年間、細田先生たちと話をしながらやってきた取組みの効果を実現できるかっていうのもありました。
 ――私が執筆した目視評価の解説文にも、小佐野高架橋A2のことを書いたのですが、気泡が4点満点中3.0点なんですね。それをつけた理由が、4点ではないけど3.5点をつけるよりは自分たちでもう少し挑戦したいんだと、という思いを監督官と施工者さんが話し合った結果、あえて3.0点にした。そういう文言をレポートに書きました。すごい対話だと思います。その後ですよね。その3.0点をつけた現場で、実構造物の施工が終わったあとにさらに勉強したってことですよね。
 手間本 そうですね
 ――すごいですね。私はテラの現場(小佐野高架橋A2)の菊池さんを知っていますが、どうしてその現場では良い雰囲気になっていったんですか。その辺、手間本さんの分析とは。
 手間本 年が近いというのもありました。こういうのを試したいんだけど、という提案に、良いですよ、やってみましょうかっていう感じで。
 ――小佐野といえば、今日も私は三陸国道の勉強会で紹介する予定ですけど、ひび割れ抑制を相当頑張られましたね。そこにどういう物語があったのでしょうか。
 手間本 あれは小佐野高架橋A2で23㍍の横幅の橋台を作ろうとする前にですね、別の現場で橋台の打込みを見た時に、誘発目地が入っていたんですよ。それが打込みのときにグニャっと曲がってしまって。曲がっているけど大丈夫? という話をしたら、直しますから大丈夫です、と。反対側から打てば戻るんで、というような話でした。
 施工に関して言えば目地って邪魔だなと思っていましたし、施工者から上がってくる温度応力解析を見ると、BB(高炉セメントB種)がN(普通ポルトラントセメント)に変わっちゃう、という話もありました。
 ――ひび割れ抑制が目的になっちゃってですね。
 手間本 やはりBBの塩分の抑制効果というのもやっぱり捨てがたいっていうのがあります。
 ――捨てがたいですね。ASRも抑えますから。
 手間本 橋台は、性能としてそういうものを持ったものがやっぱり欲しいなっていうのがありました。(徳山高専の)田村先生に相談したところ、山口県の既設構造物のデータベースに基づく手法を紹介されました。少しデータも見ていただき、この構造物規模であれば、これくらいの鉄筋量を目安にすればいいのではという話をされたんで、じゃあやってみようかと。ただし細かいひび割れは入る、とまず一番最初に言われました。有害なひび割れになるかどうかをコントロールすれば良いんじゃないですか、という話でした。

ひび割れ抑制対策、鉄筋の追加を選択
 温度応力解析より安い

 ――具体的には手間本さんと田村先生がやり取りされて、追加鉄筋の配筋などを決めた。
 手間本 私が一回、田村先生にご相談をして、考え方や方法を教えて頂いて、その内容をテラさんにお渡ししました。実際その施工の主体はテラさんなので、施工の可否も含めてテラさんの方で配筋を考えて頂くことが大切だと思いましたので。
 ――ひび割れ抑制対策、鉄筋の追加はそれなりに費用がかかると思いますが、発注者側で負担されたのですか。
 手間本 負担しました。
 ――その場合は、設計変更ではなくてどういう見方をするんですか。
 手間本 設計変更です。抑制鉄筋は設計時の鉄筋量+αですので、増量分のお金を計上するという形です。
 ――そんなに難しくなく対応できるものなのですか。
 手間本 温度応力解析すれば何百万もかかりますから。

 ――解析と変わらないくらいのお金で、対策はできちゃう、と。
 手間本 小佐野高架橋A2に関していえば、解析より安いですね。解析の場合その費用プラス対策費用がありますから。解析をして、たとえば結果として膨張材や誘発目地が欲しいという話になれば、ひび割れ抑制鉄筋よりは高くつきます。
 ――なるほど。実際に見ましたが、全体的な品質も抜群で、ひび割れも全く入っていないリフトもあるし、入ったとしても有害でない0.2㍉幅に到達しないようなものに抑制されていました。事務所や地方整備局等の評価はどういう感じですか。
 手間本 まだ工事が終わってないので、結果が完全には出ていないですけど、今の状況は良いかな、とされています。


ひび割れ抑制鉄筋の効果

品質の確保と効率的な施工の較量
 全体のレベルの底上げができるような構造物をつくる

 ――逆に、もうちょっとできた点、ご苦労された点は。
 手間本 「もうちょっとできた」っていうのは多分、私よりも実際に施工している人たちのほうが思っているかも知れません。
 ――なぜでしょう。
 手間本 やればやるほどどうしても手間がかかるじゃないですか。手間をかけると、当然施工性も悪くなります。だから、そこは一概に何かもう少しやればよかったとも言い切れないですね。品質に差が出てこない範囲だとすれば、その中で一番効率的にやるべきだと思います。
 ――どこまで目指すべきなんでしょう。特に品質とか耐久性に関する発注者側の要求レベルというのは、必ずしも技術的基準の中で定められているともいえない中で、一つ大きな課題だと思うのですが。例えば取り組みの発端になった山口県で仕事をされていた二宮さんは、国と県は事情が違うかもしれませんけど、(取組前は)本来あるべきレベルに達していなかった、と話しています。二宮さんは発注者の求める80点っていう言い方をするんです。80点というのは工事成績評定で80点がつくようなレベル。そこに必ずしも到達していないと。だから基本事項の遵守をみんなでやろうという風になりました。手間本さんはまた少し事情の違う、国だとか復興道路で見ておられて、どういう印象を持たれますか。
 手間本 私たち発注者は、工事の監督と検査を行い、そのための技術的基準が定められています。それらに基づいて施工された構造物ではありますが、数年で劣化するものも中にはあるという現状です。品質確保・耐久性確保の取組みは、施工の基本事項を遵守し「長持ちする、いい物を作る」ということですが、その方法・程度については各現場で試行錯誤をしている段階です。
 「その手間に見合った効果があるのか」「その費用に見合った効果があるのか」について長寿命化の観点から検証が不可欠で、必要最小限度の労力とコストで品質確保・耐久性確保と生産性向上の両立を目指すことが重要と思います。
 つまりは、やろうと思えばどこまでも細かく丁寧に時間をかけられますが、できあがった物の品質に差がなければ、そこは省いても良いのでは無いか、ということです。ただ、今はまだ、全体のレベルの底上げを図っているのかな、という気がします。
 ――私もまだそういう段階だと思います。素晴らしい品質のものももう出てきましたが、未だに補修を必要とするようなものも、確かにあります。
 手間本 こうした現場は、上を目指すお手本になると思います。当然手間もかかるので、一律にはできないかもしれない。しかしここまで行かなくても全体的なボトムアップにつなげるための見本にもなります。そういうの(指標になるような構造物)を作るのも一つかな、という気がしますね。

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