道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ⑱架け替えか補強が妥当かのせめぎ合い

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員 

髙木 千太郎

公開日:2016.10.01

はじめに―豊洲新市場考―

 9月1日に「何とも可笑しな、そして可哀そうな橋・その2」がネットで流れた前後から「小池新知事が豊洲市場の移転を先延ばしするのでは?」との報道が巷に流れ始めた。小池知事が記者会見した当初は小池知事の分が悪く、『小池都知事の築地移転延期。まずいな、政治戦略・戦術としては失敗するだろう。延期したことによる混乱を上回るだけの落としどころにならない。・・・築地市場移転問題は、まずは移転を進める。市場内業者による会議体を作って建物の使い勝手をよくするための協議を行い修正するところは修正する。これまでの建設を巡る違法・不適切さの原因究明をする。環境問題はほぼクリアー・・・』との意見が主流であった。今年の11月7日に予定されていた築地市場の豊洲新市場への移転は、確かに反対派も多くいたが、現在の築地市場の劣悪な環境から考えれば致し方のないとの意見が多く、ほぼ本決まりの状態であった。であるから、知事選で他を圧倒して勝利した小池知事とはいえ分が悪く、何故移転を延期するのか、決まった移転案を延期するのは理解もできないし、当然移転賛成派の猛反対を受けることとなった。私自身も、築地市場エリアを地下で通過し、隅田川をアーチで渡河する環状2号線の計画や設計などに一部関与していたこともあり、なぜこの時期に移転先延ばしなのか腑に落ちない思いであった。
 ところが、予想もしない事態が発覚、急速に流れが変わったのである。その理由は、東京都がホームページで公表している豊洲新市場の情報に大きな誤りが発覚したからである。私も東京都のホームページを何度も確認したが、各市場棟の地下部分(限りなくグレーゾーンの表示)が東京都執行部のこれまで議会等で答弁、公表していた内容や説明とは明らかに違っているのである。行政組織に身を置いた立場から言わせてもらえば、最悪のシナリオである。それも、東京都中央卸売市場(東京都行政組織)における過去から現在までの技術担当責任者や技術担当者には私の知っている職員が多く、私に頭を過るのは「何故だ? 初歩的なミスではないか・・・」技術者として弁解の余地も無い事実であった。私の知っている先に示した関係者の多くは、これまでの私が関係した業務における執行能力から判断すると、優れた技術力と適切な能力を持ち、これからの都政を担う優秀な人材と評価していたのである。豊洲新市場を建設する埋め立て地が有害物質によって汚染された土壌であったことや土壌改良(汚染土の撤去入れ替え)と盛土構造とすることが実行されてなかったことは大きな問題であるかもしれないが、偽りの情報を流していたと判断されたことは技術者倫理的に言えば、どのように優れた技術力があっても倫理観が欠如している技術者評価は限りなくゼロに該当するのである。
 今回の豊洲への移転に関する重要な問題は、土壌汚染対策である。一般的な土壌汚染対策の考え方を示すと土は大気、水と並んで環境を左右する主要な要素である。大気や水と比較すると土壌汚染には、以下の特徴がある。①人が関係する諸活動は、土が何らかの生態学的な結びつきを持っている。人の生物的活動にも関係を持つ土壌汚染は、原材料の漏出や廃棄物の処分によって直接的に汚染されることによって起こる。さらに、土壌が汚染することは、大気汚染や水質汚濁の結果として間接的に汚染する場ともなる。②土の組成は、水や大気と比較すると複雑であることから、有害物質を保持する容量が極めて高い。また、土に混入した有害物質は、長く続く大気や水の汚染源となる可能性が高い。③土壌汚染の特徴として汚染の範囲が狭く、局地的な環境条件の影響を受けやすく、土は大気や水と比較して移動性が小さく空間的な混合や平均化を受けにくいため、汚染された位置によっては汚染の程度が著しく変動する。④土壌汚染の有害物質の多くは土に安定的に保持されるために、一度汚染すると有害物質の地層への排出や負荷の状態が改善されてもその影響が長期化しやすい。ここに示すような特徴を持つ土壌汚染は、大気汚染や水質汚濁と比較して、より抜本的で総合的な対策が必要となるのが一般的である。特に今回のような人工化学物質による汚染の場合は、汚染土壌の一部入れ替えやその上に盛り土対策を行ったとしても、何らかの方法によって常に関連する土壌の状態を確認することが必要となる。今回各市場棟の下に空間を設置したことは別にして、土壌汚染物質の広がりや汚染対策の効果を確認するモニタリング空間を持つことは常識なのである。私は、今回の問題に関連している行政技術者は、自分の考え行った施策に対して自信を持ってなぜ説明ができないのか、厳しい周囲の状況は分かるが非常に歯がゆい思いなのである。
 豊洲新市場問題がどのような結論となるのかは別にして、一連の騒動は東京都に関係した技術者の一人として屈辱的な感と失望感を感じる重大な事象である。豊洲新市場についての話はここで止めるとして、今回は、今回話題となったエリア豊洲に隣接する道路橋について話題を提供することとする。対象となる道路橋は、今から約20年から架け替え対策と補強対策をキャッチボールした事例として良くある橋梁の話である。

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