4. 品質確保の実践
4.1 施工の基本事項の遵守
トンネル覆工コンクリートの品質確保を達成するための方策は幾通りもあるであろうが、筆者は東北地方整備局と協働で取り組んでおり、その基礎に、施工の基本事項の遵守を据えている。既往の標準設計・仕様を用いて、施工の基本事項を遵守することで抑制できる不具合と、それでは抑制できない不具合を分別していくことで、既往の標準設計・仕様の十分でない点も明らかにできるからである。単に品質確保を達成することのみが目標ではなく、必要に応じて標準を見直していくことで、将来的に発注者も施工者も様々な観点でWin-Winの関係になると考えているからである。
施工の基本事項の遵守のために、二つのツールを整備した。一つは、筆者らの品質確保の取組みの原点である山口県の品質確保システムで開発された施工状況把握チェックシート5)である。施工状況把握チェックシートは、発注者の監督職員が施工状況の把握の際に用いるシートであり、示方書等の規準類に記載されている施工の基本事項で重要なものを厳選して記載したものである。施工者は、このシートを施工計画や適切な事前準備に活用する。復興道路では、覆工コンクリート特有の打込み方法も考慮した施工状況把握チェックシートが開発され、活用されている。施工目地部の不具合を抑制するための、つま部でのブリーディングの排除等の項目も包含されている。
もう一つは、目視評価法である。目視評価法は、コンクリート表層に施工中に生じる不具合を項目に分け、4段階のグレーディングで評価するものであり、現場でのPDCAに活用される6)。田老第六トンネルの施工で覆工コンクリート用に開発された目視評価シート2)が改善され、東北地方整備局管内で活用されており、ほとんどの現場でPDCAによる品質向上の効果が確認されている(図-4)。
施工の基本事項の遵守を達成するためのこれらのツールの、品質確保の手引きにおける取扱いについては、本連載の第12回で詳しく紹介する。
4.2 施工目地部の不具合の根絶に向けて
図-5に、筆者らの推察する施工目地付近での不具合の発生メカニズム7)を示す。後打ちコンクリートの打込み後、コンクリートの温度や収縮による体積変化により、後打ちコンクリートと先打ちコンクリートは離れる方向に変形する。図-6は、復興道路の実際のトンネルの二つの施工目地をまたぐ形で設置した標点間250mmのコンタクトゲージで計測した目地の開きである。二つの目地ともに同様の挙動を示しており、打込み後20日程度で2~3mm程度の開きを示した。このときに、既設コンクリートと後打ちの新設コンクリートの間に付着が存在する場合、弱点部に沿ってひび割れが発生し、浮きにつながる可能性を考えている。
図-5の概念図においては、既設コンクリートの側に不具合が生じる状況を描いている。強度がより発現しているはずの先打ちの既設ブロック側に不具合が生じる目地部が、現場においては少なくない。その理由として、筆者らは先打ち部のつま部に、コンクリートの品質が低い部分が生じる場合があることによる可能性を考えている。
図-5 施工目地部に不具合が発生する機構の推察
図-6 実構造物で計測した打込み後の目地の開き
この施工目地部のひび割れ・浮きを防止するために、目地部にビニールシートを設置し、既設のコンクリートとの縁を完全に切り、拘束を無くす対策が開発された7)。開発したのは、鵜住居第二トンネルの施工現場の監理技術者を務めた西松建設の河内正道氏である。この対策の概念図を図-7に、現場での施工状況を図-8に示す。
図-7 ビニールシートによる対策の概念図
図-8 ビニールシートによる対策の現場施工状況(打込み状況)
使用したビニールシートは厚さ0.2mmの薄手のフィルムシートであり、安価で、特殊な化学組成等も必要としないので入手も容易である。セントル脱型後、既設の覆工コンクリートのつま部に貼り付ける。このとき、新設のコンクリートが既設のコンクリートに直接触れることの無い様、つま部を完全に覆うように取り付ける必要がある。ビニールシートの端部は目地に沿わせてセントルの外部へ出し、新設のコンクリートに巻き込まれないように配慮した。
この対策を施した現場においては、基本的に呼び強度24N/mm2でW/Cが51%、セメントは高炉B種のコンクリートを用いた。目地部の変状の有無を確認するために目視調査を行った。図-9のグラフには、目視評価の合計点(6項目で24点満点)と変状が確認されたスパンに○印を記載しており、ビニールシートによる対策工の開始時期も示した。ビニールシートによる対策工の実施前は、施工の基本事項の遵守の努力をしても目地部の不具合は根絶はできていない。しかし、ビニールシートによる対策を開始して以降は、目地部に変状は発生していない。
一般的なコンクリートを用いて覆工コンクリートの施工目地部の不具合を根絶するためには、施工の基本事項の遵守のみでは不十分であり、本稿に示すような対策を別途施す必要がある。
図-9 目視評価の結果(24点満点)と施工目地部の対策の効果
4.3 トンネル坑口の養生
施工の基本事項を遵守したとしても、厳しい環境作用のもとで供用されるトンネルの場合、坑口の凍害が懸念される。凍結抑制剤がスケーリングを促進させることが分かっているからである。東北地方整備局では、凍害が懸念される範囲のコンクリートに対して、十分な耐久性を発揮するために必要なコンクリートの緻密性が得られるよう、適切に養生を行うこととしている。必要な養生の仕様はまだ十分に明らかにはされていないため、コンクリートの緻密性は表層透気試験や表面吸水試験を活用して評価し、施工記録に残すこととしている。
4.4 ひび割れ抑制
2章の田老第六トンネルの事例で示したように、品質確保の取組みにより、覆工コンクリートのひび割れは抑制される方向にあると感じている。筆者も、西松建設の小槌第一トンネルにおいて、機器を埋設して行った温度、応力、ひずみの計測により、数値解析の検証を行っており、精度の高いひび割れ数値シミュレーションが可能となっている。インバートに拘束される側壁部、および天端部のひび割れ抑制システムをなるべく早く確立し、実構造物にフィードバックしたいと考えている。また、品質確保の取組みによるひび割れ抑制効果は、今後の点検結果の分析により明らかにされていくであろう。
5. おわりに
復興道路におけるNATMトンネルの覆工コンクリートの品質確保の取組みについて紹介した。品質確保の手引きが活用されることにより、さらなる水平展開が図られることを期待している。品質確保の取組みの効果は、今後の点検結果等により明らかにされていくものと思われる。結果を適切に分析し、PDCAにより手引きを含む仕組みの改善も行っていきたいと考えている。本稿が日本全国や世界で建設されるNATMトンネルの覆工コンクリートの品質確保の参考になれば幸いである。(次回は9月中旬に掲載予定です)
参考文献
1) 細田 暁:復興道路における新設コンクリート革命,コンクリートテクノ,34巻,4号,pp.70-76,2015.4
2) 伊藤忠彦,細田 暁,林 和彦,西尾 隆,八巻大介:覆工コンクリート品質向上の取り組みと表層品質の評価, トンネル工学報告集 24巻 I-4号,pp.1-9, 2014.12
3) 岩間慧大,細田 暁:NATMトンネル覆工コンクリートの変状に関する点検データの分析,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.2,pp.1501-1506,2016
4) 国土交通省:総点検実施要領(案)【道路トンネル編】,2013.2
5) 細田 暁,二宮 純,森岡弘道,阿波 稔,田村隆弘:施工状況把握チェックシートによるコンクリート構造物の品質確保と協働関係の構築,コンクリートテクノ,34巻,5号,pp.63-82,2015.5
6) 坂田 昇,渡邉賢三,細田 暁:目視評価に基づくコンクリート構造物の表層品質評価手法の実績と調査結果を反映した表層品質向上技術,コンクリート工学,52巻,11号,pp.999-1006,2014.11
7) 宮田和実,目崎浩二,河内正道,細田 暁:NATMトンネル覆工コンクリートの施工目地近傍の変状の抑制対策と効果,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.1,pp.1623-1628,2016
シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」
①寺小屋から全国へ それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」
② 山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-
③「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
④「施工状況把握チェックシート -品質確保の効果と協働関係の構築-」
⑤「目視評価法 -品質向上の必殺技-」
⑥山口県の品質確保システムの課題と今後の展望 -地道な取組みを続ける-
⑦寒中コンクリートを用いる構造物の品質確保
⑧復興道路の耐久性確保の土壌づくり -施工状況把握チェックシートと目視評価を活用した試行工事-
⑨「コンクリート構造物の品質確保の手引き(一般構造物編)の制定 -走りながら考える-」
⑩「コンクリート構造物の表層品質評価法-表面吸水試験や表層透気試験の活用方法と留意点-」