道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑪

復興道路の覆工コンクリートにおける品質確保

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.08.22

1. はじめに

 筆者はコンクリート工学を専門としているが、2013年の秋ごろまで、トンネル覆工コンクリートについて関わったことはほぼ皆無であった。しかし、それ以降、東北地方整備局の復興道路、復興支援道路の数多くのトンネル工事で覆工コンクリートの品質確保、ひび割れ抑制に関わることとなり、実践的に学び続けている。2016年5月にトンネル覆工コンクリートを対象とした品質確保の手引き(案)が東北地方整備局により制定され、通知されたが、筆者もその作成に深く関わった。本稿では、短いながらも濃密な経験により学ばせていただいた内容を、少しでも現場での品質確保に役立てていただけるように執筆する所存である。なお、トンネル覆工コンクリートの品質確保の手引きについては、本連載の第12回で紹介する。

2. 覆工コンクリートの品質確保の進むべき方向性

 筆者が最初に関わったトンネルのプロジェクトは、田老第六トンネルであった。2012年の末に東北地方整備局が復興道路等のコンクリート構造物の品質確保の新たなチャレンジに取組む方向に舵を切った後、2013年度に構造物群での試行工事が始まることとなった1)
田老第六トンネルは、東日本大震災後に復興道路において最初に貫通したトンネルであり、品質確保の大きな動きが起きようとする胎動期に、施工を行う西松建設から筆者に相談があった。「長期保証の観点で5年以内に0.3mmを超えるひび割れ幅に至った場合、施工者の責任で補修しなくてはならず、これまでの経験からするとこのルールは非常に厳しいものであると思うが、どう対応すべきであろうか?」という相談であった。
 一般構造物のひび割れ抑制にはそれなりの技術的感覚を持っていた筆者も、天端部も含む覆工コンクリートについては感覚が全くなく、「それだけ難しいのですね。それでは、国交省の仕様で工事を行い、これ以上できない施工管理にチャレンジし、施工の努力を数字で示し、それで0.3mmを超えるひび割れが出た場合は、国交省の仕様がおかしいのだから、私が文句を言ってあげますよ。」ということになり現場でのチャレンジがスタートした。
 この現場の若い監理技術者が筆者の教え子であったこともあり、様々な議論を重ね、当時にその現場ででき得る品質確保のための工夫をすべて実施した。詳しくは4章で説明するトンネル覆工コンクリート用の目視評価法もこの現場で開発し、施工の事前の段取りを確実にするためのチェックシートも整備し、吹上げ口からの加圧充填も含む高品質覆工コンクリート打設工法を用いた。さらには、打込み中や脱型後の保温・保湿の養生も行い、その効果を筆者らの開発した表面吸水試験(SWAT)で確認することとした。これらの取組みの詳細と結果は、既報にて公表している2)
 その結果、竣工検査時点でひび割れは一切確認されなかった。2016年3月4日に前述の当時の監理技術者も一緒に田老第六トンネルを訪れた。打込み後2年以上経過している坑口付近の厳しい環境作用にさらされる部分においてですら、0.05mm程度のヘアクラックがインバート上の側壁部に分散して発生している程度であった。坑口部はひび割れと直交する方向の鉄筋費が0.3%以上と大きく、ひび割れ幅は冬に大きくなる傾向があるため、筆者は田老第六トンネルのひび割れが5年で0.3mmを超える可能性は非常に低いと思う。田老第六トンネルは坑口のブロックには設計上の理由で30N/mm2の呼び強度のコンクリートが使われているが、一般部は18N/mm2の高炉B種セメントを用いたコンクリートである。膨張材も短繊維も用いていない。ひび割れ抑制という観点からは大成功と言ってよいであろう。
 田老第六トンネルの結果を踏まえ、筆者は覆工コンクリートの品質確保、ひび割れ抑制は高いレベルでチャレンジできる課題である、との感覚を持った。高速道路会社のように短繊維を含んだ中流動コンクリートを標準とする方向性もあるとは思うが、筆者らは東北から覆工コンクリートの品質確保、ひび割れ抑制の方向性を発信したいと考えている。そのエッセンスを4章で述べる。

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