-分かってますか?何が問題なのか- ⑮ 「アセットマネジメント、予防保全型管理について」
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
3.行き詰る「予防保全型管理」の推進
「アセットマネジメント」について持論を展開したが、併せて「予防保全型管理」についても現状の大きな課題を示しておく。平成19年以降、国の「橋梁長寿命化修繕計画策定事業」、「インフラ長寿命化基本計画」、「公共施設等総合管理計画」・・・などインフラに関係する計画策定は手を替え品を替え目白押しである。その実態は、本当に機能しているかである。
ある地方自治体でつい先日、種々な現状を聞いている過程で驚愕の実態が明らかとなり、大きな衝撃を受けた。当の自治体は、先に示した国の示す全ての計画策定をものの見事に創り上げ、公表しているのである。ここまで完了している自治体は、見たことも無い、お手本となるべき組織と当然考えた。しかしその実態は、私の最も嫌う「絵に描いた餅」計画であったのである。鉄道を跨ぐ道路橋が未だ対策未実施の状態を診た(見たではない)時である。架設後数十年が経過、周囲は住宅街で歩行者も多く、車両の通行もかなりある跨線橋である。しかし、利用者の安全を守る高欄の高さは遠い昔の旧基準の規定90㌢、地覆に乗れば70㌢である。家族連れの多い歩行者が通り過ぎるのを見て、橋梁上から線路を覗く姿に「ぞっ」とした。それだけではない。鉄道区域内の橋脚、上部工も耐震補強が全くなされていない危険な状態で放置(言い方は悪いが)しているのである。私が以前、国内の点検方法に異論を唱え、遠望目視から近接目視への転換と点検の法制度化のきっかけづくりを行った。その時も、多くの地方自治体が計画策定で安心し、「絵に描いた餅」の計画を後生大事に抱えることに対し警鐘を鳴らしたはずである。忘れられようとしている「熊本地震」の橋梁崩落に跨道橋があった。跨線橋が崩落すれば、公共交通を止めるだけでなく、多くの犠牲者を産むことになることを理解していないのである。インフラマネジメントは、機能してこそ当たり前、機能しなければ米国・ミネアポリスの道路橋崩落事故と同様な悲惨な事故が起こり、技術者が報道のターゲットとなることを肝に銘じなければならない。
今回の最後に、私としては非常に残念な事ではあるが、東京都に存在した新たな橋梁を建設する唯一の専門組織「橋りょう建設課」が廃止され、今年度からは工事課に吸収されてしまったことがある(写真-4 最後のプロジェクト築地大橋の建設)。
写真-4 「橋りょう建設課」最後の現場「環状2号線・築地大橋」
それ以上に衝撃を受けたのは、私が苦労して立ち上げた管理部門の組織名称が「道路アセットマネジメント」(当時、カタカナの名称を組織に使うのはほとんどなかった)から「橋梁予防保全」に変わったことである。日本を代表する首都東京から機能するマネジメント、「アセットマネジメント」を実行する組織と認められるような実績が今まさに必要な時期である。舛添要一前都知事が止めざるを得なくなったきっかけとなった海外視察や中止となったリオリンピック・パラリンピック議員視察における多額な費用は、全て国民からの血税である。財政豊かな自治体の「驕る仕事」と批判をされないように、また、「絵に描いた餅」計画づくりが上手だけど実態が伴わないね? と非難されない組織であることを期待するし、先進的なメンテナンスマネジメントを実行する責務がある。住民の声は、時代が進むのと合わせるように日増しに多くなり、そして強くなる。これまでも、「アカウンタビリティ(説明責任)」の重要性が如何に大事であるかを多くの技術者は嫌と言うほど実感しているはずである。組織防衛や定数確保も重要かもしれないが、財政が危機的な状況を予測する今、組織枠や費目を超えた適切な投資を行うことが可能な「アセットマネジメント」、「ファシリティマネジメント」に今一度取り組むべきではないだろうか。
髙木千太郎氏報文シリーズ
⑭ 「災害復旧と仮橋の位置」
⑬「有事に機能する真の技術者集団とは―現場で得る知識は100の技術書を読むより有益―」
⑫「モニタリングの現状と課題―持続力と議論が必要―」
⑪「想像力と博打根性」
⑩「橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願い」
⑨「私見 勝鬨橋再跳開の可能性とその効果」
>⑧点検はこれからが勝負
⑦PC桁の欠け落ち損傷
⑥溶接構造の品質保証について
⑤橋と景観
④独創のコツ、なぜ研修制度は機能しないのか
③「道路メンテナンス会議」は本当に機能し始めたのか
②「道路橋の変状と架け替え」について大きな疑問
-分かってますか?何が問題なのか-①