シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑩
「コンクリート構造物の表層品質評価法-表面吸水試験や表層透気試験の活用方法と留意点-」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
助教
小松 怜史 氏
5. 表層コンクリート緻密性の評価の目安
一般構造物(橋脚、橋台、函渠、擁壁)、覆工コンクリートにおいて、使用されるコンクリートのW/Cは、45%~55%程度の範囲にあり、大きくばらつくわけではない。筆者らは種々のコンクリート構造物におけるSWATおよび表層透気試験の計測結果から、均質かつ密実で一体性のあるコンクリート構造物で、適切に養生をした場合であれば、表層透気試験では1(×10-16m2)以下、SWATでは0.5(ml/m2/s)以下の緻密性を達成することは難しくはないと考えている。こうしたデータをもとに東北地整はコンクリート構造物品質確保の手引き(一般構造物編、覆工コンクリート編)に緻密性の目安となる数値を記載した(表-3)。東北地整の手引きにおいては、これらの評価手法は決して検査に用いているのではなく、品質向上のための努力を評価するために用いている。緻密性の評価の結果が表-3の指標を上回って、低い品質であると評価されたからと言って、補修を行わなければならない、という短絡的な判断をするのではなく、まずは施工記録に残し、次に施工する際により緻密なコンクリートを目指すための対策を考えるきっかけにしていただければと期待している。
6. 最後に
コンクリート構造物が供用期間に渡って十分な耐久性を発揮するために必要な、初期品質としての表層コンクリートの緻密性は明らかになっていない。現実の構造物の耐久性は、コンクリートの品質も重要であるが、環境作用の影響を非常に大きく受けるからである。施工の基本事項の遵守がなされた構造物の施工記録が、表層品質の評価結果も合わせて適切に積み重ねられ、これらの構造物群が実際に供用された結果の検証を適切に行っていくことにより、様々なことが明らかにされていくと期待している。
コンクリートは正直な材料であると教えられ育ってきたが、その通りだと思う。廣井博士や仁杉博士などが造りあげたコンクリート構造物がほぼメンテナンスフリーで、現役で活躍をしている。一方で、建設後数十年で補修や架け替えを余儀なくされているコンクリート構造物を見ると、人間の何らかの落ち度が原因で生じた変状という名の悲鳴が発せられているようにしか思えない。先人たちと先人たちの遺してくれた構造物に敬意を払い、厳しい環境作用下においても十分な耐久性を発揮する構造物群を構築するためのシステムを築いていくことが、われわれ世代の務めなのだと感じている。
最後になるが、第一大戸川橋梁を手掛けた仁杉巌博士が昨年12月に亡くなられた。満100歳であった。第一著者が仁杉博士をお見かけしたのは、昨年6月の土木学会定時総会が最初で最後となった。100歳とは思えない、非常に元気なお姿を拝見していたので、お亡くなりになったと聞いたときは非常に驚いた。直接お話しできなかったことが悔やまれてならない。謹んでご冥福お祈りいたします。
参考文献:
1) 廣井勇:築港前篇,丸善株式会社,1914
2) 仁杉巌:支間30mのプレストレストコンクリート鉄道橋(信楽線第一大戸川橋梁)の設計,施工およびこれに関連して行った実験研究の報告,土木学会論文集第27号,1955.7
3) 土木学会:構造物表面のコンクリート品質と耐久性能検証システム研究小委員会(335委員会)成果報告書およびシンポジウム講演概要集,コンクリート技術シリーズ80,2008.4
4) 林和彦,細田暁:コンクリート実構造物に適用できる表面吸水試験方法の開発,コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,pp.1769-1774,2011
5) R.J.Torrent: A two-chamber vacuum cell for measuring the coefficient of permeability to air of the concrete on site, Materials and Structures, Vol.25, pp.358-365, 1992
6) British Standard, BS1881, Part 5, Methods of testinghardened concrete for other than strength, 1971
7) Concrete Society Working Party: Permeability Testing of Site Concrete – A Review of Methods and Experience, Concrete Society Technical Report, No.31, pp.1-95, 1987
8) 横山勇気,細田暁:測定角度が表面吸水試験に及ぼす影響の分析,土木学会論文集【投稿中】
シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」
①寺小屋から全国へ それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」
② 山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-
③「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
④「施工状況把握チェックシート -品質確保の効果と協働関係の構築-」
⑤「目視評価法 -品質向上の必殺技-」
⑥山口県の品質確保システムの課題と今後の展望 -地道な取組みを続ける-
⑦寒中コンクリートを用いる構造物の品質確保
⑧復興道路の耐久性確保の土壌づくり -施工状況把握チェックシートと目視評価を活用した試行工事-
⑨「コンクリート構造物の品質確保の手引き(一般構造物編)の制定 -走りながら考える-」