シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑨
「コンクリート構造物の品質確保の手引き(一般構造物編)の制定 -走りながら考える-」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
3. 品質確保の手引きが創られる過程
東北地整の品質確保の取組みにおいては、施工状況把握チェックシートと目視評価法の活用が根幹に据えられている。国道事務所等で何度も行ってきた講習会では、これらのツールに関する文献3)、 4)を配布もした。施工状況把握チェックシートに関する文献は2つの論文集で採択されず、結果的にコンクリートテクノに掲載していただいた。筆者は論文集に掲載されるために論文を書いているつもりはなく、少しでも実際のコンクリート構造物の品質が向上するために、この論文を書いたつもりである。コンクリートテクノ誌には本当に感謝している。
何度も実施した産官学の協働の講習会等で、施工状況把握チェックシートと目視評価法のエッセンスや活用法は現場に伝わり、適切に実践されてきたと思われるが、品質確保の手引きとして文書にとりまとめる段階がやってきた。
2015年8月下旬に品質確保の手引きの作成を佐藤和徳氏が決断し、その初稿のお披露目を2015年11月7日に土木学会講堂で開催された350委員会の中間ワークショップで行う宣言をした。手引きの名称は、「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」 とした。手引きの文章を実際に作成するのは、南三陸国道事務所の復興道路・復興支援道路の事業促進PPPのメンバー(梅沢武人氏、齋藤孝雄氏ら)が担当し、佐藤氏ら東北地方整備局と、350委員会の中核メンバーがアドバイス、文章の添削を行い、作り込んで行った。写真3は2015年10月4日(日)に仙台で、手引きについての最初の大掛かりな編集会議を実施した様子である。
手引きの作成においては、東北の品質確保の取組みで共有されている哲学を盛り込むための議論を重ねた。なぜ、品質確保が必要なのか、構造物の劣化の実態を点検結果の分析に基づいて説明し、コンクリート構造物の耐久性は、打込みの一日で決まると言っても過言でないこと、その一日にどれだけ事前の適切な準備を行えるかにかかっていること、が記載されている。そして、施工状況把握チェックシート、目視評価法はあくまでツールであり、工事に関わる関係者が協働的なコミュニケーションをすることで、少しでも品質の向上を目指そうという考え方が記載されている。さらに、コンクリート構造物の耐久性には養生の影響も極めて大きいが、厳しい環境作用のもとで十分な耐久性を発揮するために必要な養生の方法・期間については明らかになっていないことも多いため、現場の諸条件を勘案して標準的な養生に加えて追加養生を行う努力を行い、その効果を表層透気試験や表面吸水試験も活用して評価する仕組みも先進的に取り入れた。