道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑧

復興道路の耐久性確保の土壌づくり -施工状況把握チェックシートと目視評価を活用した試行工事-

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.05.01

3. 品質確保の試行工事の開始

 

 東北地整は、コンクリート構造物の品質確保の試行工事を実施することを決断した。第一弾の試行工事は、2013年6月24日にWTO対象の一般競争入札を公告した国道47号古口地区下部工工事(山形県)である。品質確保の試行工事では、特記仕様書に施工状況把握チェックシートと目視評価法を活用することが明記された。仙台塩釜道路の橋脚の品質調査の結果や、既設の構造物の劣化状況を踏まえ、まずは新設構造物で施工の基本事項の遵守に取組むこととしたのである。
 山口県では、2005年に開始した実構造物での試験施工を契機に、施工の基本事項の遵守の徹底に取り組み、その結果、ひび割れ抑制システムの構築につながった。東北ではどのような展開になるかは神のみぞ知る、であったが、その基礎に施工の基本事項の遵守を据えるべきであるという筆者らの信念は揺るがなかった。しかし、膨大な数の工事で施工状況把握チェックシートの活用のみで施工の基本事項の遵守を達成することは「神業」であろう、と佐藤和徳氏は直観し、東北地整の試行工事では、施工状況把握チェックシートと目視評価法の併用でチャレンジすることとなった。
 施工状況把握チェックシートは、基本的には監督職員がコンクリートの打込みの際に活用するシートである。もちろん、施工者の施工計画や打込みの事前準備の改善にも大きく影響するシートであるが、官が主導で始まろうとする取組みにおいて、施工状況把握チェックシートが上手く機能するか、佐藤和徳氏は不安に感じていた。
 一方で、目視評価法は基本的に、型枠の脱型後はいつでも誰でも行うことができる。構造物の表面に施工中に生じる不具合が発生していたとしても、次の打込みのための改善の議論を工事の関係者で行うことができる。この目視評価法の取っ付きやすさと即効性に、佐藤和徳氏は大きな期待を抱いた。
 2013年9月3日に東北地方整備局にて、管内のほぼ全事務所から監督官等の職員が参加する形での2時間の講習会が開催され、筆者が講師を務めた(写真6)。講演のタイトルは「復興道路の品質確保のための目視評価と施工状況把握チェックシート」であった。筆者はとにかく、東北での品質確保の試行工事がスムーズにスタートするように、という一心で講演を行った。新たな仕事が増えることは誰にとっても気持ちの良いことではないが、スタートした先に産官学の協働の創造的な状況が待っているであろうこと、逆にそうならなければ再び大量の構造物が早期劣化に陥るであろうことを、持てる情報を駆使して伝えた(写真7)。
 古口地区下部工事で実際にコンクリートの打込みがなされたのは2014年度に入ってからであったが、9月3日の講習会を契機に、現実には「試行の試行」が数多くの現場でなされ、多くの現場で施工状況把握チェックシートと目視評価法が活用され始めることとなった。こうして、復興道路の耐久性確保の土壌ができ始めたのである。


写真6 2013年9月3日の品質確保の講習会(東北地方整備局)

写真7 2013年9月3日の講習会の内容

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」
①寺小屋から全国へ それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」
② 山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-
③「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
④「施工状況把握チェックシート -品質確保の効果と協働関係の構築-」
⑤「目視評価法 -品質向上の必殺技-」
⑥山口県の品質確保システムの課題と今後の展望 -地道な取組みを続ける-
⑦寒中コンクリートを用いる構造物の品質確保

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