道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑦

寒中コンクリートを用いる構造物の品質確保

八戸工業大学
工学部土木建築工学科
教授

阿波 稔

公開日:2016.03.16

6.寒中コンクリートにおける施工の留意点と工夫例

 青森河川国道事務所での試験施工を通じて検討されてきた寒中コンクリート用施工状況把握チェックシートは段階的に改良が加えられ(表-2)、昨年末に東北地方整備局で取りまとめたコンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)の一部として復興道路(三陸沿岸道路)等でも導入されている。現在、寒中コンクリートの品質確保の取組みは、土木学会「コンクリート構造物の品質確保小委員会(350委員会)」(委員長:田村隆弘)や日本大学 岩城一郎・教授からの激励も受けて組織した日本コンクリート工学会東北支部「寒中コンクリートの品質確保に関する研究委員会」(委員長:筆者)の活動として鋭意展開されている。橋脚や橋台、ボックスカルバートを主な対象として、これまでの取組みの過程で得られた寒中コンクリートに関する主な留意点や工夫例を以下にまとめる。
 ① 初期凍害の防止、養生温度・期間の管理
・外気温、雪寒仮囲いの内の温度、コンクリート中の温度を計測・記録する。そして、養生温度を適切に管理するとともに、脱型時期および養生期間終了の判断の目安とする。
・コンクリートの凍結が予想される場合は、給熱養生を検討する。しかし、過度な給熱養生は、コンクリートを乾燥させひび割れの発生や表層品質の低下を招くことになる。よって、給熱養生を行う場合はコンクリートの乾燥防止に配慮することが大切である。
・打込み開始時の外気温が低下し、所要のコンクリートの温度が保持できない場合は、アジテータトラック(写真-9)や圧送管(写真-10)等の輸送設備の保温対策も有効である。

 ② 丁寧な運搬・打込み・締固めの実現
・寒中コンクリートにおいても施工の基本事項の遵守を目的としたチェックシートによる施工状況把握が「より良い品質のコンクリート構造物」をつくる意識を醸成するきっかけとなる。
・雪寒仮囲いを実施している現場では、屋根の開閉作業、圧送管の移動作業等が必要となり、通常期よりも施工時間が長くなることを想定した施工計画を検討する。また、作業が長時間に達する場合には、作業員の負担を考慮して交代制を採用する。
・雪寒仮囲い内では作業スペースが限られていることから、人員や機材を効率的に配置する。

 ③ ブリーディングの抑制あるいは施工時の確実なブリーディング処理
・寒中コンクリートでは、一般にブリーディングが生じやすい傾向にあることから、なるべくブリーディングの少ない配合設計を行うことが望ましい。打込み時にブリーディング水が表面に集まってきた場合に備えて、それを取除く人、場所、方法を事前に計画・周知する。

 ④ 脱型後の保温・保湿対策の有効性
・脱型後にコンクリートが急激な温度変化や乾燥を受けないように考慮する。これによりコンクリートのひび割れ抑制や表層部の緻密性の向上が期待できる。復興道路等の現場では、脱型後、直ちに保温・保湿対策としてプチプチシート等で追加養生(写真-11)を行うケースが増えている。その場合、コンクリートやシートの表面を軽く散水してから密着させるとよい。

7.おわりに

 コンクリート構造物の品質確保の取組みに関わり始めてから現場で勉強させていただく機会が飛躍的に増えた。コンクリートの製造・施工段階の立会いや新設時の表層品質調査、ひび割れ調査等である。これまで耐久性や維持管理の研究の過程で経年変化したコンクリート構造物を診る時機は多かったが、製造・施工時および新設時のコンクリートを見るのは少し感覚が異なる。それは、そもそもコンクリート構造物は単品個別製造であることから、維持管理段階では環境作用によって希釈され感じ得ない構造物の根源的な個性を新設時にはより強く把握できるからではないかと考えている。また、このような製造・施工時や新設時において構造物を見る目を養うことは、経年変化した構造物を診る時の情報収集力の向上にも関与するだけでなく、コンクリートに係わる人と人とのつながりをより豊かにし、これからの方向性を示唆するものともなると確信している。山口県から持ち帰った熱が情熱となって伝え広がり青森あるいは東北の復興を照らす大きな明かりとなることを願ってやまない。

参考文献
1)土木学会:構造物表層のコンクリート品質と耐久性能検証システム小委員会第二期(335委員会)成果報告書およびシンポジウム講演概要集,コンクリート技術シリーズ,No.97,2012.
2)日本コンクリート工学会:データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・シンポジウム論文集,WG2報告書,2013.
3)長谷川 明,阿波 稔,上原子 晶久,佐々木 正昭:青森県の橋梁長寿命化への取組,プレストレストコンクリート,Vol.55,No.6,pp.18-23,2013.
4)阿波 稔,迫井裕樹,長谷川明:「青い森の橋ネットワーク」の活動状況-青森県内のコンクリート構造物の長寿命化と品質確保に向けて-,コンクリートテクノ,Vol.33,No.4,pp.9-15,2014.
5)長谷川明,竹内貴弘,阿波 稔,金子賢治,鈴木拓也,迫井裕樹:地域の産官学連携による土木系教育に関する研修会活動:土木学会論文集H,Vol.70,No.1,pp.13-27,2014.
6)細田 暁,二宮 純,森岡弘道,阿波 稔,田村隆弘:施工状況把握チェックシートによるコンクリート構造物の品質確保と協働関係の構築,コンクリートテクノ,Vol.34,No.5,pp.63-82,2015.
7)川邊清伸,阿波 稔,須藤昌二,大森祐一:寒中コンクリート用施工状況把握チェックシートを活用したコンクリート構造物の品質確保の取組,コンクリート工学年次論文集,Vol.37,No.1,pp.1285-1290,2015.
8)国土交通省東北地方整備局:コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)、http://www.thr.mlit.go.jp/road/sesaku/index.html、2015.

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