道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑪「想像力と博打根性」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2016.03.01

1.工事費算定も想像力が必要

 それでは、私がこれからの技術者に最も必要と考えている「想像力」について話題を提供することとする。想像力とは、何か。想像力、Imagination、大辞林によれば「想像する能力やはたらき」、想像とは「既知の事柄をもとにして推し量ったり,現実にはありえないことを頭の中だけで思ったりすること」としている。私が重視しているのは現実にはありえないことを・・・ではなく、既知の事柄をもとにして推し量る方である。具体的に言えば、既に公表されている種々な事柄、世にある多くの学ぶべき事柄、既に起こっている種々な事象等を如何に多く知り、自分の知識として蓄え種々な場面で活用できるかである。
 それでは、想像力がどのような場面で機能するか事例を基に考えてみる。
 まずは、橋を新たに建設するために工事費算定の場面である。ビッグプロジェクトで橋を架ける、私の経験した東京港連絡橋(現在のレインボーブリッジ)臨海新交通システム(現在のゆりかもめ)建設室に勤務していた時の話である。
  東京港連絡橋は、下部構造、上部構造とも自分の過去に経験した事の無い巨大構造物群であった。中央径間の吊り橋部は当時の首都高速道路公団の設計・施工であったことからコメントはできないが、芝浦側と台場側の取付け部及び新交通システム全線の設計・積算に関与したので一部紹介する。まず第一に設計・積算を開始したのは、お台場側のアンカレージ直近に位置する橋脚と芝浦側陸上部の橋脚である。対象となる下部構造は、最上段に首都高速道路、中間に新交通システム、下段に臨港道路の三層構造(台場側は新交通システムと臨港道路が並走することから2層構造ではあるが)であることから当然規模も大きくなる。
 さらに、過去に経験したことの無い新たな構造である連続地中壁基礎、鋼管矢板井筒基礎、鋼殻ニューマチックケーソン基礎である。設計コンサルタントが作製した図面を見ても対象構造物のイメージが全く湧かない。そもそも地上から30㍍~50㍍に路面のある橋を設計したことがないこと、鉄道と連行バスの中間的存在である新交通システム(中量軌道輸送システム)を全く知らないこと、道路と鉄道の兼用工作物の設計・施工に関する経験がないことから、自分が関与しなければならない構造物がどのような物なのか全く想像できないのである。
 確かに設計図書には対象構造物の計算結果と各断面の寸法は記述されているが、頭の中で3次元に展開することが出来ない。連続地中壁基礎は、1970年代から首都高速5号線では採用されていたが、社会人となったばかりの自分には他団体の行っている工事を知るすべもなく、それから十数年経過した後であるにもかかわらず連続地中壁とは「何ぞや」から始まった。
 場所が岸壁に近いこと、工期を短く低騒音・低振動で行えることなどから連続地中壁の採用を決めたとしているが、施工機械として採用する回転式多軸式BW掘削機やエレメントの施工手順も首都高速道路公団に教えを受けたが、積算を行う自信が全くない。工事発注の期限は来る、いい加減な設計、積算を行えば、その後に来る工事監査や会計検査で苦労するのは明らかである。困った、周囲の同僚や上司も私と同様にこれらに経験がないので相談もできない。周囲は私に対し、橋に関係する種々業務に多くの知識がある、専門家と聞いている当然知っているはずだ、私に聞けば分かると思っている。
  恥を忍んで今まで関係してきた橋梁業者等に依頼し、関連しそうな工事現場を幾つか見せてもらい、担当する技術者に幼稚な質問をし、これから発注しなければならない工事のイメージづくりから始めた。下部工関連で特に苦労したのは、連続地中壁の壁体継手、掘削中の孔壁の保持とスライム処理、エレメント鉄筋かごの建込みに使用するクレーンの規模と鉄筋かご左右上下の継手処理、鋼管矢板の嵌合継手と止水モルタル、頂板と鋼管との結合部(モーメント鉄筋とせん断鉄筋)などである。
 設計は、基本的な構造力学の知識があれば指針や参考資料を基に何とかなる。しかし、積算はそうはいかない。当時の積算は、現在のように任意仮設はほとんどなく、全て指定仮設として積み上げで積算することから外形だけでなく、施工法の知識もなければ、施工機械の選定や労務費の積み上げもできない。要は、対象構造物、使用する工法の知識と施工環境においてどのように工事を進めるかについて想像できなければ、積算どころか工事を監督する監督員にも工事内容を説明ができないことになる。
 このような試行錯誤、業者からの教えを受ける過程を経て設計照査、積算を無我夢中で行い、ようやっと工事発注にたどり着いた。余談ではあるが、都市博開催を数年後に迎え、組織として初めて発注する大規模橋梁工事及び経験の無い技術集団からの発注には、対応する業者側も容易に受注行為を行わない。
 第六台場に近接する海上の鋼管矢板井筒基礎であるP27橋脚は、多くの大手ゼネコンが受注を「お手並み拝見」と見送る中、マリコンのT社がようやっと受注、胸をなでおろす結果となった。しかし、当然工事開始後は設計変更の嵐となった。また、芝浦陸上部の連続地中壁基礎であるP5~P9の橋脚は、工事を分割して発注することとしたが、現状では指名参加願いを提出する会社がいないことが判明、慌てて起工作業後の翌土日を使って再度全ての積算をやり直し、何とか滑り込みで請負会社が決定した。
 要は、設計・積算する行政側の手腕を見届けるまで危険な(損益となるような)工事には手を出さないのが大手ゼネコンの常識のようである。その後の工事発注は、順調に軌道にのって行い、下部も上部も発注過程でその都度多少の問題が起こりはしたが全ての工事が完了し、高速11号台場線、臨港道路及び臨海新交通全線開通を無事迎えたことは私の誇りでもある。お分かりと思うが、先に示した紆余曲折を経て発注した工事以降のほとんどの工事は、大手ゼネコンと大手ファブリケータ一色の受注状況となったのは言うまでもない。

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