3. 今後の展望(「会いに行ける模範的構造物」について)
品質確保システムによって、ひび割れが補修不要となる範囲に抑制され、表層のコンクリートが均質で緻密に仕上がった構造物は、耐久性の高いインフラとして維持管理に重い負担をかけずに長く使用できる。
これが品質確保システムの本来の目的であるが、品質確保が達成できた構造物は、その後の施工のわかりやすい模範・手本となるという効果がある。実際、2.1で述べた2014年度から行っている既設構造物を用いた研修では、品質確保が達成された構造物は、講演や写真よりも強い説得力を持っている。
コンクリート構造物は、施工後に近接して観察できないものも多いが、近接して観察が可能な構造物で、施工時の詳細な記録が保存され、かつ品質確保が達成されているものは、「会いに行ける模範的構造物」として、有効な研修題材になると考えている。
その事例として、2014年度に施工したボックスカルバートを写真3および4に示している。施工者が施工状況把握チェックシートの各項目を満足するように様々な工夫を行うなど、積極的な品質確保の取組みを行った結果、ひび割れの発生がなく、その他の不具合も生じていない優れた施工結果が得られており、2015年9月に開催した技術講習会(第9回)において施工者が工事報告を行った。講習会で発表した資料は、山口県のホームページ10)に公表しているので、だれでも自由に閲覧やダウンロードすることが可能であり、施工者の取組みを詳細に把握することができる。また、このボックスカルバートは何ら制限なく見学可能な場所に立地しており、構造物の出来ばえを随時確認できる。
さらに、「会いに行ける模範的構造物」は、長期にわたり耐久性の変化を安全に・容易に・高い精度で調査することができることから、構造物の耐久性に関する有用な研究材料にもなりうるので、これから土木学会350委員会において仕組みつくりなどを議論していきたいと考えている。
ここで、先ほど触れた技術講習会について紹介しておきたい。山口県では、産官の各団体で共催する講習会を2006年度からほぼ年1回の頻度で開催している(写真5)。産は、山口県建設業協会・山口県土木工事管理技士会・山口県生コンクリート工業組合・山口県建設設計測量協会(2009年度から参加)の4者、官は山口県・山口県建設技術センターの2者である。
毎回、各団体から受講者が参加しており、参加者の合計は300人から600人規模となっている(図9)。
講習会の講師についても、産学官の協働によるシステムであることから、図10に示すように産学官で構成しており、基調講演はコンクリート研究者に依頼し、これ以外の演題は各団体の技術者が講師を担当している。
これまでの講習会のプログラム及び講演資料は、山口県のホームページで公開している11)。この中では、第9回以外にも、施工者が工事報告を行ったものがあり(第3、4、5、6、8回)、どれも積極的にひび割れ抑制や品質確保に取り組んだ独自の工夫が紹介されているので、ご興味を持たれた読者の方は是非お読みいただきたい。
写真3 「会いに行ける模範的構造物」の事例
写真4 「会いに行ける模範的構造物」の事例(内部)
写真5 技術講習会の様子
図9 講習会参加者の推移(左)/図10 講習会の講師の推移(右)