-分かってますか?何が問題なのか- ⑩「橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願い」
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
2016年(平成28年)も開けて、いよいよ東京でオリンピック開催まで残すところ4年となった。オリンピック競技各会場の工事が続々と発注となり、オリンピック開催機運が国内外において否が応でも盛り上がってきた、と言いたいところであるが・・・オリンピック関連の報道や景気の動向を見て感じることは“昔と大きく違うな”である。揉めに揉めた東京オリンピックメイン会場となる新たな国立競技場のデザインも無難な外観と機能に落ち着き、「夢」、「挑戦」でなく、「現実」、「保守」となったのは日本の今日の姿であるかもしれない。
先日も、都内の中小企業の技術者、経営者を指導する機会があり、今後のインフラ関連事業で役立つアイディアについて種々な提案を聞いたが『大きな夢』を感じられる斬新なアイディア案件が少なかった現実に、驚愕するような新たな提案に巡り合うことに期待し、期待外れの現実に大きく落胆する自分がそこにいた。大手企業と異なって制約の無い自由な発想、儲けを抜きにした奇抜なアイディア、持てる創造力を最大限発揮している未来を変えるよう技術を期待して積み重ねた検討会を行ったにもかかわらず、各社の提案はいずれも常識を覆すような考えには達していなかった。使う材料の限界を超え、どうやって設計し、どうやったら創れるのと思うアイディアこそ『下町のロケット・中小企業の姿』ではないであろうか?
昨年、秋から冬に放映された『下町のロケット』は、私を含めた多くの視聴者が毎週、今回の展開はどうなるのか、担当している技術者はどう対応するのかと胸を弾ませ、テレビの前に釘付けとなったのは事実である。多くの視聴者が期待したのは『佃航平』を演じた『阿部寛』の名演技であったかもしれないが、私が期待したのは技術に対する公正・公平な評価に関する番組の展開であった。ロケットに使われる高精度な弁、わずかな傷が大きな損傷、爆発につながる事実、データの改ざんとそれを発見する「コツコツ」事実検証を積み重ねる技術者の姿など番組内で放映され感動した場面はあげたらきりがない。さて、雑談はこのくらいにして、今回執筆する内容は私の専門外と感じられる方も多くいると思われるが橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願いを述べる。形式選定に関する資料と私の個人的な考えを基に思うがままに進めるが、個人的な見解であることと理解され最後までお付き合いいただき、私の私見に対し多数の反論をお待ちする。
1.橋梁形式選定の流れと形式決定
道路橋の定義をおさらいすると、「河川、運河、海峡などの水をこえるために、あるいは水のない谷、凹地、または市街地、他の交通路上をこえるためにけた下空間の制限をうけて架けられる構造物を総称して云い、支間2.0m以上のものとする。」と『道路基準』に示されている。ここに示すような目的で架設される橋を分けると、目的別には①河川、湖沼などを渡る橋、②跨線橋、③跨道橋、④高架橋、材料別には①木橋、②石橋、③鉄橋、④コンクリート橋、⑤鋼橋、⑦アルミニウム橋、⑧複合橋、路面の位置で分けると、①上路橋、②中路橋、③下路橋、④多層橋、支承条件で分けると、①単純橋、②ゲルバー橋、③連続橋、橋梁形式で分けると、①床版橋、②桁橋、③トラス橋、④アーチ橋、⑤ラーメン橋、⑦斜張橋、⑧吊橋、平面形状で分けると、①直橋、②斜橋、③曲線橋、④ばち橋以上のように区分されている。さて、橋梁形式を選定する行政技術者は、このように分類される橋梁を具体的に頭の中でイメージできるであろうか?これから建設しようとする橋梁に関して、架設地点の種々な条件をクリアーし、親子三代使われ、親しまれるように橋梁を区分、形式を選定することになる。 ここで橋梁形式選定について、図‐1に流れを示すが、写真-1に示すような架設現地や周辺、前後に架かる橋梁等を自らの目、耳など五感で実査した後に、計画条件を決定する。計画条件とは、道路の区分、道路の線形、幅員構成、橋梁架設位置の決定である。次にこれらを基に管理者協議を行い、その後建設しようとしている橋梁の計画・設計・施工条件を決定する。ここで示す条件とは、橋台、橋脚位置、路面高さ、桁下高さ、施工及び架設条件及び橋に添架する物件等の決定である。以上が終わるといよいよ素案を7~8案程度作成し、一次比較選定で3案程度に絞り込み、二次比較選定を経て最終の形式決定となるのが一般的である。ここからが今回私が取り上げる形式選定時の考えてもらいたい問題である。形式選定を進める対象橋梁の位置づけとして2種類ある。一つは、外観や質が大きく取り上げられるような、ランドマーク的な存在を求められる学識経験者等を含む委員会によって形式設定が行われる場合である。もう一つは、道路や街路の線上の点として扱われ、形式選定が重要な要素とはならず、比較的安易に形式選定が行われる場合である。大きな問題を抱えていると感じているのは、二番目に示した形式選定状況における行政技術者の考えと委託設計についてである。新たな橋梁(架け替えも含む)を設計する場合、一般的には基本設計(概略設計)、詳細設計とを分離して設計コンサルタントに委託発注することになる。二番目にあげたような状況下において、果たして基本設計を外部委託することが必要であろうか?戦前の橋梁形式選定ではほとんどの場合、行政側の技術者が種々な条件を考え、建設される橋梁を創造し、設計・施工を自らの手で行っている。賛美もあれば非難もあり、それら全てを受け、対応してきたのは当時の行政技術者である。今現在、昔と同様に、それは無理であるし意味もない。外部学識経験者を入れた形式選定委員会を開催せざるを得ない状況は外部的な多くの理由があることも分かっている。それほど形式選定が重要な要素でもない状況下で、今までの慣例として基本設計、詳細設計外部委託発注の流れを容認し、技術者として安易な道を歩んでいるのではないだろうか?行政技術者が積算マシンとなり、創造力を失い、魅力の無い状況下とした具体的な要因の一つとして橋梁形式選定を全て外部発注し始めたこの状況が問題と感じている。さてここで、行政技術者でも橋梁形式選定が十分可能であると考える根拠を示し、話題提供を行うこととする。事例は、市街地において道路橋の形式選定する場合、単純な桁形式、トラス、アーチ、斜張橋について費用を算出し、意見を述べることとする。