5.専門技術者に必要なもの
今回は、2016年(平成28年)のスタートにあたって私が関わって思い出深い勝鬨橋を題材に話題を提供した。勝鬨橋は、竣工時は東洋一の双葉跳開橋として話題を提供、開橋セレモニーには花電車ならぬ花船舶に築地花街の綺麗どころを乗せて通ったそうである。豊洲に移転する現在の築地市場を通る環状2号線も勝鬨橋を架け替えて通す案が20世紀末に浮上した際に『名橋・勝鬨橋は2度と建設できませんよ!残すことが最善の策、21世紀に貴重な遺産を残しましょうよ、K部長』と言って架け替えを強力に阻止したこと。清洲橋、永代橋、勝鬨橋の3橋を同時に国の重要文化財にするために文化庁・文化財担当である北河氏に日参し、浜渦副知事の反対(当時は、お手紙で説明、封筒表に朱書きで絶対ダメと記述された)を4年の長きに渡り日本橋や萬代橋の事例を持って説得、5年後に浜渦参与(種々な問題で副知事から離れざるをえなかった)と石原知事に承諾を得て、晴れて文化財指定を勝ち得たこと。これらは、全て日本有数の優れた技術者魂を後世に残すために行ったことである。
米国には数多くの可動橋がある。昇降式、回転式、引き込み式そして勝鬨橋と同様な跳開式等と多種、多様である。長期に渡って機能を保持するために手厚いメンテナンスを構造と設備に行っている状況を何度も目にしている。最悪、物理的、経済的、機能的な面で寿命と技術者が判断すると当然のごとく周辺住民や利用者に状況を説明し、理解の基に新たな可動橋に架け替える事例もニューヨーク市交通局やシカゴ市交通局等に直接面談した経験から数多く知っている。
ニューヨーク市マンハッタンの中心Broadwayに面している可動橋の設計やメンテナンスを手広く行っているコンサルタントであるHardesty & Hanover, llPの技術者は、私が持参した勝鬨橋の設計図書、現況図面及び現況写真を詳細に見て、『非常に魅力的な可動橋である。』、『我々の過去の経験から再跳開は十分可能であるし、何の問題も見いだせない。』との発言であった。その際に、米国内外で可動橋のメンテナンス事例の説明を受けたが、専門技術者の持つ技術力の高さと可動橋に対する彼らの熱き想いを強く感じた。最後に『日本に呼んでください。是非我々の技術力で再跳開、その後の長期供用を手助けします、一緒にやりましょうよ髙木さん。』と言われた時には胸が熱くなった。
隅田川の永代橋、清洲橋で採用した潜函井筒(ニューマチックケーソン)技術は、3人の米国人を招聘したことから事故もなく十分な耐力を持つ基礎構造として完成し、その後の日本の基礎技術に活かされている。我々国内の技術者は、海外への技術提供も良いが、積極的に海外専門技術者と交流し、ギブアンドテイクの姿勢を持つことが必要な状況でないだろうか?
笹子トンネル事故から3年経った12月に千葉県の道路トンネルで補強中の内壁が崩落した事故を聞き、「内弁慶」、「井の中の蛙」状態が現在の国内技術者の姿ではないのかと心配になる。勝鬨橋が再跳開することは初夢で終わってもよいが、是非、平成28年こそ世界に誇る日本の技術者としての評価を国内外から得たいものである。