技術者に必要なもの
第一に技術力、第二に想像力、第三に倫理観
2.近接目視点検を行うことは良いが考え方が間違っていませんか?
ある団体の修繕計画の策定に関わったことがある。法制度化された以降の点検であることから、当然近接目視点検を行い、その結果から診断し、修繕計画策定を策定する一般的な流れである。まずは、点検・診断結果を見て驚いた。支承モルタルにひび割れがあると原因を確かめもせずに全て支承交換と決めている。支承モルタルのひび割れは、単なるモルタルの乾燥収縮によるものなのか、支承自体の不具合で機能不全となっているのか、下部構造の移動や不同沈下によるものなのか等原因は種々考えられる。支承モルタルのひび割れを確認するだけでなく、車両通過する際に異音や振動が無いか等を確認することが最低限必要なはずである。
私の経験から支承に関連した重大損傷を事例として紹介する。定期点検結果を確認中、支承周辺のモルタルが損壊しているのを発見、現場確認を行うこととした。対象は都内の幹線道路に架かる高架橋である。桁下で主桁や落橋防止システムを目視で診ているとき、車両通行時に伸縮装置周辺、特定の支承付近から異音がするのを発見した。どこの支承からするのか確認したところ点検結果を見た支承モルタルがひび割れ、近くによって確認するとわずかに主桁が上下動しているが明らかとなった。主桁が動いているということは、当然取りついている横桁に負荷がかかり疲労亀裂発生の可能性を考え、周辺を注意深く見ると横桁上フランジのコーナーに微細な溶接割れとさび汁を確認した。当然、直ぐに上下動している支承部付近を仮支えし、亀裂発生部を当て板補修、支承交換を行うことで横桁の破断を防ぐことが出来た。私が優れた技術者であるわけではなく、種々な経験と周囲から提供された種々な情報でより注意深くなったことによってここにあげた疲労亀裂を発見できたことにある。
写真9 モルタルがはく離し、主桁が上下動していた支承(左)/写真10 案の定、疲労亀裂が発生した横桁上フランジ(右)
技術者に必要なのは、第一に技術力、第二に想像力、第三に倫理観である。特に、橋梁等構造物に関係する技術者は想像力が必要不可欠である。