シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」③
「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
4. 良質の施工記録の活用の可能性
品質確保システムの研究や、表層品質と耐久性の関係についての研究は現在も活発に行われている。私の研究チームでも、2011年12月26~28日に、山口県の構造物群の表層品質を表面吸水試験(SWAT)で調査した(写真6)。この調査の目的は、コンクリート施工記録を活用することにより、表層品質に影響の大きい施工要因の抽出を試みることであった。
写真6 四十八瀬川橋の橋台での表面吸水試験の様子
土木学会のコンクリート構造物の耐久設計指針(案)2)を用いて、構造物の表層品質(緻密性)に影響を与えると考えられる、コンクリート材料、コンクリート、コンクリート工に関するポイントを算出した3)。基本的には山口県のコンクリート施工記録を参照し、一部、材料供給者や施工者にもヒアリングをしてポイント算出の根拠とした。図3が、算出した耐久性ポイントを足し合わせたものである。一つのリフトで膨張材が使われていたことにより、コンクリート材料のポイントが大きくなっているが、それ以外は、コンクリート工で差が付く結果となった。
図3 調査した構造物の各リフトにおける耐久性ポイントの和3)
図3で求めた耐久性ポイントの和と、表面吸水試験の計測結果の相関を図4に示した3)。危険率5%で負の相関が確認された。耐久性ポイントの和が大きいと、表面吸水試験による緻密性が向上する結果となった。この研究においては、「1箇所の打込み口からの最大打込み速度」の表層品質に与える影響が大きいという知見を得た。打込み速度が小さいと、種々の要因で丁寧な施工につながると推察している。
施工の基本事項が遵守された構造物の施工記録が適切に蓄積され、分析されることで、将来、高耐久な構造物を造るための様々なノウハウが得られるものと期待している。
図4 耐久性ポイントの和と表面吸水試験の結果の関係
第4回は12月内に掲載予定です。
参考文献
1) 日本コンクリート工学会:データベースを核としたコンクリート構造物の品質確保に関する研究委員会報告書・シンポジウム論文集、WG1報告書、p.15、2013.9
2)土木学会:コンクリート構造物の耐久設計指針(案)、コンクリートライブラリー82、1995.
3) 細田 暁、二宮 純、田村隆弘、林 和彦:ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上、土木学会論文集E2、Vol.70、No.4、pp.336-355、2014.