シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」③
「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
3. 山口県の構造物の表層品質の本格調査
4月の予備調査の結果を受けて、7月の本格調査に向けた準備を開始した。調査の計画は、私の研究室が主導して行い、山口県と相談しながら進めた。山口県のひび割れ抑制システムにおいては、コンクリート施工記録が各リフトに整備されており、HPから誰でも閲覧することが可能である。予備調査の対象構造物を含め、ひび割れ抑システムの前後の構造物を、橋台とボックスカルバートそれぞれに対して選定し、アクセスのしやすさ等も勘案して、丸二日間の調査行程を決定した。2010年7月28日と29日に調査した構造物の一覧を表1に示した。大学や研究所等の335委員会のメンバーを中心に、数多くの調査機材を積んだチームが何台もレンタカーで現場に乗り込み、手分けをしながら調査を行った。非常に暑い時期の調査で熱中症も懸念され、一方で表層品質調査の大敵でもある雨天も事前には心配されたが、調査の二日間は日差しも強すぎず、何とか無事に調査が完了した。連携、協力しながらの調査(写真5)により一体感も増したように感じた。
2日間の調査を終えた翌日、2010年7月30日の午後に、山口県の技術講習会が開催された。これは、ひび割れ抑制システムの立ち上げ以降、開催されている講習会の第6回目に相当するものである。図1は、この講習会のプログラムである。表層品質に関する研究の最新動向、山口県のひび割れ抑制システム、2日間の調査結果の速報、土木学会コンクリート標準示方書の改訂等に長年主導的に関わってこられた石橋忠良博士の特別講演等の充実した内容であった。調査結果の速報も踏まえ、産官学からの登壇者によるパネルディスカッションも行われ、ひび割れ抑制や品質確保の進むべき方向について活発な議論がなされた。
写真5 ひび割れ抑制システム運用前の橋台の表層品質を調査する様子
図1 山口県の第6回技術講習会のプログラム(2010年7月30日)
2日間の調査の後、若手研究者たちは寝る間を削ってデータ整理を行い、講習会での発表に備えた。調査団を代表して、私と335委員会の蔵重副委員長が調査の目的、内容と結果の速報を発表した。図2は、リバウンドハンマーで計測した基準反発度と、表層透気試験で計測した透気係数の関係を示している1)。基準反発度は硬さ、もしくは強度と関連した指標であり、透気係数の縦軸は上に行くほど緻密であることを示している。このグラフにプロットした構造物に用いられたコンクリートの呼び強度はすべて24N/mm2か27N/mm2である。山口県では、セメント種類の変更等のコンクリートの配合に頼ることなく、施工の基本事項の遵守を軸にひび割れ抑制を達成していったため、システム運用後の構造物(図中の赤印)は、基準反発度では運用前と大きく変わらないのに、明らかに透気係数が小さくなる傾向を示していた。特に、橋台、ボックスカルバートと構造物ごとに見るとその傾向は明らかであった。
図2 基準反発度と透気係数の計測結果1)
この調査結果速報により、山口県のひび割れ抑制システムの方向性に賛同する人が多くなり、表層品質の研究や、品質確保システムの研究が活性化する大きな転換点になったと、現在感じている。