2.コンクリート欠け落ちの原因と分析
第一に、対象PC軌道桁の全長をモデル化し、解析プログラムを用いて3次元弾性解析を行うこととした。モノレール車両による活荷重の載荷状態における軌道桁の内部応力を計算し、応力の発生状況を把握するとともに、コンクリートの許容引張応力との比較を行った結果は以下である。
図-3 欠け落ち損傷の発生したPC軌道桁応力図
欠け落ち損傷が発生している箇所(支承端部付近)において、引張応力が集中する結果となった。しかし、同応力は、線路方向に作用しており、「鉛直方向のひび割れ」を発生させる作用方向であるが、剥落を起こす作用方向ではないことが分かった。また、引張応力は、許容引張応力以下であることから破壊となる状態とは言い切れないが、当該部分が脆弱状態となっている場合は、ひび割れの要因になり、最終的には欠け落ちる可能性があることも想定された。
ここで、他のPC軌道桁に同様な損傷の発生、発生の予兆が無いか調査したところ写真―5に示すような0.2㍉を超えるひび割れが、他のPC軌道桁支承(モノレール桁ではラーゲルと呼ぶ)部周辺に確認された。
写真-5 PC軌道桁端部のひび割れ発生状況
発生しているひび割れは、上沓プレートのほぼ端部位置(桁端から12㌢前後)に発生しているひび割れ、上沓プレートの桁への埋込み部で断面が変化する位置(桁端から16㌢前後)に発生しているひび割れ、沓の定着アンカー位置(桁端から24㌢前後)に発生しているひび割れの3種類に分類される。いずれのひび割れも、支承アンカーフレームが大きいことから、かぶり厚が不足する傾向にあり、それらを原因として発生したものと結論づけた。
3.竣工図書が竣工時の状態を表していない真実
モノレールPC軌道桁は、国内外で多く採用されている信頼の高い構造であるはずである。これまで説明してきた標準構造を種々な箇所で使われているとしたら、欠け落ち損傷やひび割れ損傷が多発し、事故事例として公表されるはずである。なぜ、標準構造にも関わらず当該路線にこのような損傷が発生したかである。
写真-6 欠け落ち損傷の発生した状況
写真-7 欠け落ち部分の異様な模様
もう一度欠け落ちたコンクリート塊を確認してみよう。一般的に、コンクリートが剥落した面を確認すると、骨材やセメント質が一様に確認されるはずである。しかし、当該箇所の欠け落ち面には、繊維、型枠、異物のような跡が目視でも確認される状況である。そこで、当該路線のPC軌道桁を製作した会社にヒヤリングした結果が以下の表である。要は、桁端部の支承付近はかぶり厚が十分でないことからある段階で炭素繊維の補強シートを入れているとの結論である。
表-1 施工会社へのヒヤリング結果
私が、これで良いのかと言いたいことは、補強のために炭素繊維シートをなぜ当初から入れなかったのかと言うことでなく、竣工図書には、このような記述や図示が全く無かったことである。上表に示す5社にヒヤリングして明らかとなったことは、発注者側に炭素繊維補強シート等の変更を申し出たところ、「設計変更は、増額となるので不可能である。そもそも設計変更理由になじまない。」と一掃されたとのことである。さらに、「今回変更した部分(PC軌道桁端部以外もある)等の図面は全て破棄し、当初設計図書を竣工図書として納品すること。」と指示されたと聞いたときは、腰が抜けるほど驚きが走ると同時にこのような事態が多くの竣工図書にあるのではと多くの竣工図書を疑った。