4. ひび割れ抑制システムの効果2)
山口県のひび割れ抑制システムは、図-5に示す三本柱からなる。試験施工等の結果から、夏季に打ち込む場合や、年度末や年末の慌ただしい時期に打込む場合にひび割れの発生確率が高い傾向が認められた。また、夏季に発生したひび割れは気温の変化に伴い、冬季にはひび割れ幅が拡大する傾向も実構造物での計測により明らかとなった。
そのため、三本柱の一つ目として、設計・発注時に適切な工程を検討すること、施工段階でひび割れ抑制に配慮した工程を検討することを据えている。
三本柱の二つ目は、現場で確実な施工を実施することである。前述の「施工状況把握チェックシート」を携えた監督員が現場で施工状況をチェックする仕組みの開発に加え、施工の基本を学習できるe-learningの教材の開発と活用、県が主催する講習会の実施などを行っている。
三本柱の三つ目は、材料等による適切な対策方法(表-1)を採ることである。施工の基本事項を遵守しても、無害なひび割れに抑制できない場合があり、その場合は、施工実績に基づいて適切な対策を設計段階から検討する。例えばボックスカルバートの場合は、誘発目地による対策を採ることとしており、断面欠損率30~50%程度の目地を、打込み時期を考慮して適切な間隔で設置する。橋台のたて壁の場合は、ひび割れ幅を抑制するための補強鉄筋の追加が最有力の選択肢である。橋台の胸壁の場合は、補強鉄筋の追加に加えて、膨張材の使用も検討する。
現状では、施工実績に基づくひび割れ抑制対策が品質確保ガイドに取りまとめられ、対策の検討に活用されている。採用された抑制対策は、構造条件、材料、打込み等の記録、ひび割れ発生状況とともにコンクリート施工記録に記載される。抑制対策の効果が毎回の施工において検証され、記録されるシステムである。
図-7 材料等によるひび割れ抑制対策が不要と判断した場合の有害なひび割れ発生率(左)
図-8 材料等によるひび割れ抑制対策を行った場合の有害なひび割れ発生率(右)
図-7と図-8には、山口宇部道路の橋台の建設現場における平成17年度から20年度までのひび割れ発生状況を示した。図-7は、設計段階で材料等によるひび割れ抑制対策が不要と判断した場合で、図-8は材料等によるひび割れ抑制対策を行った場合である。竣工検査時に貫通ひび割れで0.15mm以上の有害なひび割れが発生した場合と、0.15mm未満の無害なひび割れ(ひび割れ無しも含む)に抑えられた場合の割合を示している。
平成17年度の試験施工の開始以降、設計段階で材料等によるひび割れ抑制対策を講じない場合に、無害なひび割れに抑制できる確率が非常に向上していることが分かる。施工の基本事項の遵守がシステムとして機能してきたことが理由の一つとして考えられる。また、施工実績が蓄積されてきたことで、設計段階でひび割れ抑制対策を講じる要否の判断が適切になされるようになってきたことも重要な理由であると考えている。
一方で、設計段階でひび割れ抑制対策を講じる場合は、試験施工の平成17年度に比べると、その後は無害なひび割れに抑制できる確率が向上しているが、平成20年においては、有害なひび割れが発生する割合も依然として多い。材料等によるひび割れ抑制対策の確立には、今後も施工実績の蓄積と分析が必要であると考えている。
なお、施工実績が蓄積してきた現在、設計段階で種々の条件を考慮しながらひび割れ抑制設計を行うスキームについても改善を重ねている。この連載の後続の回において、ひび割れ抑制設計の最新の状況についても解説をする予定である。
次回は、山口県がひび割れ抑制システムを構築する過程で、かぶりの品質(表層品質)が大きく向上していたことについて、実構造物での調査結果も含めて紹介する。山口県の構築したシステムが、いわば総合品質確保システムであったと関係者が気付いたことが、東北の復興道路の品質確保等へと大きく発展する道を開くこととなる。
参考文献:
1) 細田暁、二宮純、森岡 弘道、阿波 稔、田村 隆弘:施工状況把握チェックシートによるコンクリート構造物の品質確保と協働関係の構築、コンクリートテクノ、 34巻 5号、pp.63-82、2015.5
2)細田暁、二宮純、田村隆弘、林 和彦:ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上、土木学会論文集E2、70巻 4号、pp.336-355、 2014
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