道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」②

山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-

山口県
土木建築部
審議監

二宮 純

公開日:2015.10.08

施工由来のひび割れがほぼ根絶

2. 実構造物での試験施工の効果
 平成17年度に、実構造物で種々のひび割れ抑制対策の効果を調べる「試験施工」が始まった(図-1)。ここでは、施工の基本事項を遵守することの重要性が浮き彫りになったことが大きな成果の一つであった。実構造物での試験施工が始まった途端に、ある種のひび割れがほぼ根絶されたのである。
 例えば、山口県で施工されていたボックスカルバートの、頂版の下面に観察される構造物の軸線方向に発生していた非貫通のひび割れ(写真-1)は、温度応力解析等によってもその発生原因は十分に解明できていなかったが、試験施工が始まった直後からほぼ根絶されてしまった(図-2)。頂版にひび割れが発生した2件は、溶接金網、FRPの補強材を配置したものであり、従来どおりの設計で施工した頂版にはひび割れが発生しなかった。ここに示したボックスカルバートのデータは、形状寸法が類似したものであり、設計も同様に行われたものであるが、試験施工が行われた平成17年度に施工のレベルが向上したことのみが相違点であると言える。発注者がひび割れ問題に真剣に取り組む緊張感のある雰囲気の中で、材料供給者、施工者が丁寧に役割を発揮した結果、「施工由来のひび割れ」がほぼ根絶されたのである。
 図-3には、ひび割れ抑制システムを構築する前の平成12年に建設された橋台のひび割れ発生状況を示した。水色で示したいわゆる温度ひび割れ以外にも、丁寧に施工されていないことに起因すると思われる、傾いた打重ね線に沿ったひび割れや、隅角部の大きな沈みひび割れ等が発生している。これらも、システム運用開始後にはほとんど見られなくなった「施工由来のひび割れ」と言える。





図-3 ひび割れ抑制システム前(平成12年)に施工された橋台のひび割れ発生状況

かぶりの品質も向上

 試験施工の結果は、いくつかのことを我々に教えてくれる。まず、山口県において、平成17年度の試験施工が始まる以前は、施工の基本事項が必ずしも遵守されていなかったということである。施工由来のひび割れが存在していたのである。これが、発注者が施工者に責任を問う拠り所である。以前の山口県が特殊な事例であったとは思えず、全国各所で、施工の基本事項は必ずしも遵守されておらず、施工由来のひび割れは無数に発生してきたのであろう。この連載の後続の回でも論じていくが、山口県のひび割れ抑制システムは、ひび割れの抑制だけでなく、かぶりの品質(表層品質)も向上させていたことに筆者らは気付く。それが、東北の復興道路を始めとする、日本各地の品質確保に展開していくわけであるが、日本各地の構造物の表層品質を透気や吸水試験により計測する過程で、これまでに我が国で造られてきたコンクリート構造物の表層品質がいかにばらつきの大きいものであったのか、実構造物の結果から体感することとなる。現在および将来の日本において、施工の基本事項が遵守される仕組みをいかに構築するかは、コンクリート構造物の品質確保のみならず、人財育成の観点からも大きな課題である。

ひび割れ防止は発注者にも責任

 次に我々が知るべきは、「施工由来のひび割れ」がほぼ根絶されたとしても、ひび割れの発生する構造物が存在する事実である。通常のコンクリートを使う限り、施工の基本事項を遵守して、いかに丁寧な施工を行なっても、すべてのひび割れを防ぐことはできず、ある種のひび割れは発生するのである。このようなひび割れを防止したり、無害なひび割れに抑制するためには、設計段階で十分に検討する必要がある。発注者の責任である。決して、施工者の努力だけに期待すべきではない。
 山口県のひび割れ抑制システムは、施工者の努力で根絶すべきひび割れと、発注者も積極的に関与して設計段階から抑制を検討すべきひび割れとに仕分けをすべきであると明示した点が特筆すべき特徴である。この非常に重要な点に、実構造物の結果を皆が見ることで、納得できたことが試験施工の最大の成果であった。

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