道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑥溶接構造の品質保証について

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2015.10.01

技術者の倫理感なき不良は言わば人災

3.専門技術者のプライドとは

 下フランジの溶接不良個所は一応対策を完了しているが、他の同様な溶接部分は調査が出来ずに終えているので、多くの内在する不良部分を抱えた橋梁の将来は不安一杯であると感じているのは私だけかもしれない。非破壊試験による調査は、試験機器が使え、確認できる箇所のみに絞られていることから当該橋梁は傷を抱えた人間と同様である。主要幹線に架かる橋梁、なぜかコンクリート床版も抜け落ち事故を起こしているなど多難の橋梁でもあることから、要注意な橋梁とも言える。その後、製作・架設会社の技術者との会話の中で、「大量に製作した橋梁の中で、溶接技能を理解せずに種々な技術者に溶接を任せた結果である可能性が高い。」との発言には、日本の信頼する技術力も地に落ちたと感じた。誰の責任か? 発注者と受注者が注意深く、先に示したように優れた溶接技術者が倫理観を持って行えば、このような事態は回避できるはずであり、言わば人災である。

 同様な経験が他にもある。私が工場に製品検査に行った時、箱桁の重要な部分(横桁、ダイヤフラム等の溶接個所)に多くの未溶接個所を発見し、指摘した事実である。請負会社は、船舶も製造する大手のM社である。工場検査開始時にまず検査用の梯子の提供を依頼した時、「なぜ、梯子が必要ですか?過去の同様な検査では梯子による溶接個所確認は行っていないので、今回も必要ないのでは。」との説明、唖然とした。製品検査の必要項目と内容を詳細に説明し、梯子の提供を無理やり行ったのは検査する立場として当たり前であるが、それを見越した手抜き工事を行うとは・・・。行政側からの発注を定期的に受けられることを前提に仕事をこなし、儲けのみに走る企業には未来は無いと思っているのは私だけであろうか?技術が進歩し、作業員の負荷も減らす環境の提供を行っているにもかかわらず倫理上の問題は減ることは無く、増加の一途である。隣国中国や韓国の製品や製作技術の低さを棚に上げての議論が多くあるが、最も悪いのはプライドの無い技術者と経営者、行政技術者ではないか?

 フォルクスワーゲンは、国内において約30年前にディーゼルエンジン車・ゴルフを販売し、数多くのユーザーを獲得していたのは事実である。国内では、大型車両の排気ガスによる環境汚染からディーゼルエンジンを搭載した車両への厳しさは増しディーゼルエンジン乗用車は減少したが、近年クリーンディーゼル化が進むことで、メルセデスベンツ、BMW、マツダも、ディーゼルエンジン車両を販売開始したこの時に今回の事件は大きな痛手である。一度失った信頼を回復するにはかなりの時間を要するが、技術のドイツブランド回復のためにも是非頑張ってもらいたいと期待をしている。それよりも、多発する社会基盤施設、長期耐久性と安全性を要求されている橋梁に信頼を失う事故が多発するのは残念でならない。次回は、鋼橋でなく、コンクリート橋に起こった同様な事例を紹介しようと考えている。

(次回は11月1日掲載予定です)

【関連記事】 これでよいのか専門技術者シリーズ

⑤橋と景観

④独創のコツ、なぜ研修制度は機能しないのか

③「道路メンテナンス会議」は本当に機能し始めたのか

②「道路橋の変状と架け替え」について大きな疑問

-分かってますか?何が問題なのか-①

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム