沖縄県の離島架橋の整備状況とコンクリート構造物の耐久設計・品質確保 に関する取り組み
琉球大学工学部
環境建設工学科(土木コース)
准教授
富山 潤 氏
4.フライアッシュコンクリートの使用実績および今後の展開
沖縄県では、伊良部大橋建設後、多くの重要コンクリート構造物において、フライアッシュの使用が検討され、使用実績も増えつつある。ここでは、沖縄県におけるフライアッシュコンクリートの利用促進について、沖縄県での取り組みおよび沖縄総合事務局での取り組みを簡単に紹介する。
4.1 沖縄県のフライアッシュの産出量および品質等
沖縄県では、3か所の石炭火力発電所が稼働している。そのうち2箇所は沖縄電力(株)管理、残り1箇所は電源開発(株)管理である。
沖縄電力(株)の平成24年度の石炭発生量は、約10.2万㌧である。その処理として、セメント原料やリサイクル資材としての再資源化に9.9万㌧、残りは土地造成材として公有水面の埋め立てに利用されて、再資源化率は100%となっている13)。しかし、将来的には埋め立てが不可能になる可能性もあり、別の再資源化を考える必要があると思われる。ところが、沖縄電力には、コンクリートの混和材などに使用できるJISに定められた灰を採取する設備(分級設備)がなく、現状では、生産された灰をそのままコンクリートに利用することはできない。
一方で、電源開発(株)石川石炭火力発電所は、分級設備があり、コンクリート材料に使用可能なJIS灰が生成され、琉球セメント(株)では、このフライアッシュを用いてB種のフライアッシュセメントを生産している。
また、沖縄県生コンクリート工業組合でもいくつかの工場においてフライアッシュコンクリートのJIS認証を受けており、今後もJIS認証工場の拡大を予定している。
未燃カーボンを再燃焼した高品質のフライアッシュの製造を目的とした事業所が平成24年1月に県内に整備された。その高品質のフライアッシュを配合したフライアッシュコンクリートが県内公共建築工事や民家住宅に使用された実績もある。
このように沖縄県では、フライアッシュをコンクリートに使用するための環境が整ってきており、日本コンクリート工学会の特集でも「沖縄県におけるフライアッシュコンクリートの利用促進について」が取り上げられている14)。
4.2 フライアッシュコンクリートの利用促進に対する取り組み
(a) 沖縄総合事務局の取り組み
沖縄総合事務局では、平成26年度に「コンクリート構造物の長寿命化に関する検討業」務として、コンクリート構造物の長寿命化に関する劣化因子やその対応方法の基礎資料を作成している。その資料では、コンクリート用混和材としての高炉スラグ、フライアッシュ等の適用性と使用範囲などについて検討を行っている。作成した基礎資料に基づき、混和材を使用した長寿命化に関する沖縄県版の活用指針(案)を作成している。なお、混和材として、高炉スラグとフライアッシュの性能に大差はないとしているが、沖縄県内生産拠点の有無や、県産品の有効利用の観点から現時点ではフライアッシュを優先的に検討し、有効利用の促進を図ることが望ましいとしている。
ここで高炉スラグについて少し触れておく。沖縄県における高炉スラグの利用実績として、NEXCO西日本管理の沖縄自動車道の架替橋梁のプレテンションPC床版が挙げられる。このプレテンションPC床板は九州の工場で製作され、沖縄に搬入されている。九州地区では、過去に九州大学、新日鐵高炉セメント㈱、㈱安部工業所(現㈱安部日鋼工業)の3者の共同研究において、実規模のプレテンションPC桁を製作し、収縮およびクリープ特性、耐荷性能の検討を行っている。その結果、高炉スラグ微粉末6000を用いた技術が新技術情報提供システムNETISに登録(QS-980177-V)に登録され、多くの実績がある。沖縄自動車道の架替PC床版はその一例である。
(b)沖縄県の取り組み
沖縄県は、将来の社会基盤設備の維持管理の負担軽減のために、今後建設される構造物の耐久性向上を図ることの重要性を認識し、フライアッシュコンクリートの利用促進を検討している。その一歩として、耐久性の求められる重要な道路構造物に対して、フライアッシュコンクリートの利用を積極的に検討するよう、平成26年1月に事務連絡により各出先機関に通知している。
4.3 沖縄県のフライアッシュコンクリートの採用実績および使用検討事例
ここでは、沖縄総合事務局管理および沖縄県の管理構造物ごとにフライアッシュコンクリートの採用実績および検討中の構造物を紹介する。
(a) 沖縄総合事務局管理構造物
沖縄総合事務局管理のコンクリート構造物で、耐久性向上等を目的にフライアッシュコンクリートが使用されたコンクリート構造物および検討中のコンクリート構造物の概略を以下に示す。
・佐手橋(国頭村、国道58号線):架替に伴い、耐久性向上を図り、上部工に内割配合10%としたフライアッシュセメントB種(プレミックス)を100%使用している。また、上部工の主部材である主桁には、塗装PC鋼より線仕様プレテンションPC桁が採用されている(写真-1、2:大城武琉球大学名誉教授より提供)。
写真(左) 建設中の佐手橋(その1)/写真(右)建設中の佐手橋(その2)
・東風平高架橋(八重瀬町外間、国道506号空港自動車道):上部工には細骨材に砕砂100%が使用されており、流動性の観点から、フライアッシュを外割り20㌔/立方㍍使用している。
・豊見城高架橋(豊見城市上田、国道331号):上部工には細骨材に砕砂100%が使用されており、流動性の観点から、フライアッシュを外割り20㌔/立方㍍使用している。
上記以外に、現在建設中の港川高架橋下部工(下りP6、P7)に伊良部大橋下部工に使用された配合を参考としたセメント置換20% (内割65㌔/立方㍍)と細骨材置換(外割25㌔/立方㍍)が併用された耐久性の高いフライアッシュコンクリートが使用されている(写真-3、4、R&A風間洋氏提供)。
写真(左)港川高架橋P6打設の様子 写真(右)港川高架橋P6配筋(塩害対策としてエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用)
(b) 沖縄県管理構造物
沖縄県管理のコンクリート構造物で、耐久性向上等を目的にフライアッシュコンクリートが使用されたコンクリート構造物および検討中のコンクリート構造物の概略を以下に示す。
・伊良部大橋(宮古島市):上部工には、遅延膨張性を示す台湾花蓮産骨材や新川沖産海砂によるASRのリスクを排除するために、細骨材には、本部産石灰岩砕砂のみを使用している。この場合、細骨材の粒度分布が悪くなり、ワーカビリティが悪くなるため、流動性改善の観点から、細骨材置換(外割)22㌔/立方㍍のフライアッシュを使用し、施工性を改善している。また、下部工には、塩分浸透抑制、ASR抑制、温度応力抑制の目的で、設計基準強度27N/平方㍉配合には、セメント置換(内割20%)65㌔/立方㍍、細骨材置換(外割)25㌔/立方㍍の計90㌔/立方㍍のフライアッシュコンクリートを、設計基準強度36N/平方㍉配合には、セメント置換(内割20%)80㌔/立方㍍、細骨材置換(外割)20㌔/立方㍍の計100㌔/立方㍍のフライアッシュコンクリートを使用している(写真-5、写真-6(R&A風間洋氏提供))。
写真(左)建設中(セグメント)/写真(右)供用開始後の伊良部大橋
・新本部大橋(本部町、国道449号):下部工に伊良部大橋下部工と同じ配合のフライアッシュコンクリートが採用されている。施工には、内割・外割分のFA量を考慮したフライアッシュセメント(C種相当)として、県内セメント会社に製造してもらっている。なお、上部工は、鋼桁で、Al-Mg溶射にフッ素樹脂塗装を重ねた防食対策が行われている。
新本部大橋の下部工
・桃原橋(伊計平良川線):桃原橋は、塩害による劣化が顕著であるため(写真-7)、架け替えが予定されており、下部工に伊良部大橋の配合(内割・外割)を参考としたフライアッシュコンクリートを使用することが決まっている。
写真(左)桃原橋下部工の劣化状況/写真(右)劣化部の拡大写真
・那覇大橋(3・2・4号那覇内環状線):本橋梁は、昭和45年度の建設から既に44年(平成26年5月時点)が経過し、幅員構成が現行の道路構造令(平成16年改訂版)に適合していない状況に加え、平成18年度の補修検討調査では床版の応力度不足、耐震性能不足、鋼材の腐食等の老朽化が進行していると判明したことから、掛替が行われており、下部工に伊良部大橋を参考とした配合(内割20%・外割16㌔/立方㍍)のフライアッシュコンクリートの使用が検討されている。
・南部東道路(地域高規格道路):南部東道路は、ハシゴ道路の一環として、南風原町から南城市までを結ぶ延長約8.3㌔の地域高規格道路で、本島南東部地域からの連結強化に資する建設中の道路である。その道路に架かる橋梁下部工にフライアッシュコンクリートの使用が検討されている。
・県道20号線の橋梁(沖縄市泡瀬、泡瀬工区):沖縄県は、沖縄市比屋根の泡瀬干潟上に建設が進められている人工島(東部海浜開発事業)にアクセスするための道路橋として伊良部大橋と同様の塩害対策が施された長大PC橋の建設が計画されており、使用するコンクリートは、上部工・下部工ともに伊良部大橋と同様のフライアッシュコンクリートの利用が検討されている。
・浦添西原線の橋梁(西原町翁長、翁長~嘉手苅工区):国道329号からゆいレールの延伸部第四駅(浦添前田駅)の近くにある坂田交差点までの約3㌔の延長で、勾配がきつく蛇行している現況道路について、947㍍の長大橋梁を含むバイパス道路を建設する予定している。現在、コンクリート材料を選定中であり、フライアッシュコンクリートの利用を検討中である。
・渡久地橋(本部町渡久地地内):架替を予定し、現在設計中である。下部工にフライアッシュコンクリートを利用することを検討している。なお、北部土木事務所は、本部大橋をはじめ、重要構造物に対してフライアッシュコンクリートの利用促進を図る方針としている。
・沖縄都市モノレール軌道桁(延伸区間):伊良部大橋上部工と同様の理由で、遅延膨張性を示す新川沖産海砂によるASRのリスクを排除するため、細骨材として本部産石灰岩砕砂のみを使用するとしているが、流動性改善の観点からフライアッシュの外割配合使用が検討されている。