沖縄県の離島架橋の整備状況とコンクリート構造物の耐久設計・品質確保 に関する取り組み
琉球大学工学部
環境建設工学科(土木コース)
准教授
富山 潤 氏
3.伊良部大橋の耐久設計
3.1 耐久性に関する取り組み(対策)の概要
まず、図-3に伊良部大橋側面および地質断面図を、表-1に伊良部大橋に用いられた材料、構造、施工における耐久性に関する取り組み(対策)の一覧を示す。表より伊良部大橋には、あらゆる面から耐久性を考慮した設計が実施されていることがわかる。本稿では、特に表-1に示したコンクリート配合と下床版かぶり部に配筋したCFCC筋について示し、これまであまり注目されていない海中道路の取り付け橋梁の耐久設計についても示す。
図-3 伊良部大橋の地質断面図
表-1 伊良部大橋コンクリート部の耐久性に関する取り組み(対策)一覧
3.2 コンクリートの配合設計の考え方(フライアッシュコンクリートの必要性)
伊良部大橋のコンクリート材料の選定は、伊良部大橋コンクリート耐久性検討業務において検討されている。その概要は文献3)で報告されている。以下にその概要を述べる。
当時の宮古島ではコンクリート用骨材として、台湾花蓮産川砂利および同川砂が一般的に用いられていたが、それらの骨材に遅延膨張性のASRの問題が生じたため、伊良部大橋で用いる骨材は、台湾産骨材を排除し、沖縄本島本部産石灰岩砕石および同砕砂、新川沖産海砂を用いる方針とした。
しかし、細骨材として用いる予定であった沖縄本島新川沖産海砂にも台湾花蓮産骨材と同様の遅延膨張性ASR を示す隠微小質石英や微小質石英などの反応性鉱物が含まれていることが明らかとなり、ASR抑制効果のあるフライアッシュの使用が検討された。フライアッシュは品質にばらつきがあるため、各種配合試験を行い、その結果、下部工には、ASR抑制に加え、塩分浸透抑制、温度応力抑制等の目的で、設計基準強度27N/平方㍉配合には、セメント置換(内割20%)65㌔/立方㍍、細骨材置換(外割)25㌔/立方㍍の計90㌔/立方㍍のフライアッシュコンクリートを、設計基準強度36N/平方㍉配合には、セメント置換(内割20%)80㌔/立方㍍、細骨材置換(外割)20㌔/立方㍍の計100㌔/立方㍍のフライアッシュコンクリートを使用している。
また、上部工に関しては、ASRに起因したひび割れのリスクを出来るだけ小さくするため、海砂を完全に排除し、細骨材には本部産石灰岩砕砂のみを使用している。この場合、細骨材の粒度分布が悪くなり、ワーカビリティが低下する。このため流動性改善の観点から、細骨材置換(外割)22㌔/立方㍍のフライアッシュを使用し、施工性を改善している。
なお、遅延膨張性の骨材は、JISのASR試験(化学法、モルタルバー法)では安全な骨材と判定される。また、沖縄県で生じている海砂に起因したASRは、限定的かつ軽微であることや、県内の骨材事情などから、コンクリート用骨材として海砂の使用を簡単に禁止することはできない。このため、ASR抑制効果のあるフライアッシュなどの混和材の利用に関する検討が必要であることを追記しておく。
3.3 フライアッシュコンクリートの配合(内割・外割))
伊良部大橋下部工に用いられているフライアッシュコンクリートは、多くの検討がなされ決定されている。特に、沖縄の環境作用から塩害抑制、骨材事情からASR抑制、マスコンクリートの水和発熱問題から温度応力抑制の検討が行われ配合が決定されている。参考のため、図-4に下部工(27N/mm2)の最適配合フローを示す。詳細は文献3)を参照のこと。
図-4 最適配合フロー3)
また、上部工においては、3.2に示したように細骨材に石灰岩砕砂のみを使用した場合は、流動性が悪くなることから、外割配合(22㌔/立方㍍)のフライアッシュコンクリートが使用されている。このような上部工で、海砂を排除した外割配合のフライアッシュコンクリートの使用実績が増えてきている。
3.4 箱桁下床板のひび割れ対策
伊良部大橋は、主航路部以外の上部工はPC箱桁橋である。この形式は同県内池間大橋(平成4年2月竣工)や古宇利大橋(平成17年2月竣工)でも用いられている。この池間大橋や古宇利大橋では、既往の調査により、主桁下床版のPCケーブル定着部付近に下床版中央の橋軸方向のひび割れが確認されている(図-5)。このため、耐用年数100年としている伊良部大橋では、これらのひび割れを防止する目的で、図-6に示すようにPC定着部付近のPC箱桁(以下、セグメントと呼ぶ)下床版にかぶり30㍉でカーボンロッドのメッシュ筋(以下、CFCC筋と呼ぶ)を配筋し、ひび割れ抑制のための補強を行っている。
図-5 箱桁下床版で確認されたひび割れの事例
図-6 ひび割れ抑制のため配筋されたCFCC筋
文献4)ではCFCC筋の効果を確認するとともに、下床版のひび割れ発生時期を特定するために、PCセグメント(箱桁)製作ヤードにおいてセグメント下床版にひずみゲージを貼り付け、架設・PC緊張に至るまでの連続測定を行い、下床版に発生するひずみ挙動を確認している。その結果、セグメント下床版にはアウトケーブル緊張後に横断方向に引っ張るひずみが確認でき、ひび割れ発生時期を予測することができた(図-7参照)。しかし、今回の計測では、ひび割れは発生しなかった。これはCFCC筋のひび割れ抑制効果が発揮され、ひび割れが生じなかった可能性を示唆している。
図-7セグメント架設状況とアウトケーブル緊張時に生じるひずみ発生イメージ
CFCC筋のひび割れ抑制効果を確認するため、文献5)では、箱桁の下床版のみを模擬したCFCC筋なしとCFCC筋ありの床版を製作し、曲げ破壊試験を実施している。さらに、有限要素法(FEM)による曲げ破壊試験の解析を行い、実験および数値解析の両アプローチからCFCC筋のひび割れ抑制効果の検証を行っている。図-8に実験および解析概要を示す。その結果以下の結論を導いている。なお、有限要素解析には、midas_FEA6)を用いた。
(1)曲げ載荷試験および非線形有限要素解析の結果から、ひび割れ発生荷重に対するCFCC筋の効果は小さい。
(2)ひび割れ発生以降の挙動をみると、CFCC筋無しに比較して、有りの曲げ剛性が高い。
(3)床板下面のひび割れ発生本数は、CFCC筋有りが無しに比較して多いが、ひび割れ幅はCFCC筋有りの方が小さい。
(4)CFCC筋無しでは、ひび割れ発生直後に主鉄筋のひずみが急激に増加するのに対して、CFCC筋有りではひずみの増加が抑えられていたことから、CFCC筋の主鉄筋への補助効果が確認できた。
図-8 CFCC筋のひび割れ抑制効果の確認5)
3.5 取り付け橋梁部材の高耐久化(塗装PC鋼より線仕様プレテンションPC桁))
伊良部大橋の海中道路取り付け橋梁の主部材には、プレテンションPC桁が使用されている。塩害対策として、緊張材であるPC鋼より線にエポキシ樹脂被覆PC鋼より線(以下、エポキシストランド)を使用している。エポキシストランドをプレテンションPC構造に使用する際に問題となるのは、蒸気養生の温度管理と付着性能である。これらの問題についての検討は、文献7)において、蒸気養生温度履歴、プレストレス導入時の有効プレストレス、耐荷性能などについて検討されており、その結果、蒸気養生時およびプレスレス導入時のコンクリート中の温度をコントロールすることで、普通PC鋼より線仕様のプレテンションPC桁と同等の耐荷性能を有することを確認している。また、その後の発展研究として、文献8)、9)では、プレテンションPC桁に、エポキシストランド仕様に加え、内割フライアッシュコンクリートを用いる検討が行われている。関連研究として、蒸気養生を受ける内割配合のフライアッシュコンクリートの強度発現特性に関する研究も行われている10)。この結果より、蒸気養生温度および養生時間のコントロールにより、初期強度をコントロールすることができ、上部工に対しても内割配合のフライアッシュコンクリートの使用が可能であることが見い出している。図-9にそれらの研究概要を示す。
図-9 高耐久性プレテンションPC桁の研究概要
ここで注意が必要なのは、エポキシストランドには、図-10に示す内部充填型エポキシ樹脂被覆PC鋼より線11)と全素線エポキシ樹脂塗装PC鋼より線12)の2種類があり、それぞれで付着性能が異なることである。このため、エポキシストランドをプレテンションPC桁の緊張材に使用する際は、それぞれの付着性能を考慮した設計が今後必要となる。
図-10 エポキシストランド
(左)内部充填型エポキシ樹脂被覆PC鋼より線/(右)全素線エポキシ樹脂塗装型PC鋼より線