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道路橋の維持補修 ――「床版防水」その1

(一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所 
研究第二部 部長

谷倉 泉

公開日:2015.04.01

ドイツ 三位一体の床版防水
熟練者により念入りな施工

2.国内外の防水層
 橋面に降り注いだ雨水や凍結防止剤を含んだ融雪水を如何に橋の外に排水させるかという防水、排水の方法については、1987年に日本道路協会が床版防水設計・施工資料を制定して以来、これまで防水層の種別や性能はもちろんのこと、排水設備の構造と配置、路面の線形と勾配(横断、縦断)、舗装の種別と機能の改良等に至るまで、様々な工夫と改善が図られてきている。しかし、それでも現状では完全な床版防水は成し遂げられていないのが現状のように思われる。
 以前、前述した松井先生らと海外の床版防水の実態を知る目的で欧州数か国を訪問した。その際、特にドイツは早くから防水層の重要性を認識しており、防水層そのものの性能に加えて、下地となる床版上面コンクリートには遮水性ならびに防水層との付着性能を、防水層上に施工される舗装基層には不透水性(グースアスファルトの採用)を求め、これらによる三位一体(下地処理+防水層+舗装基層)のシステムとして防水に取り組んでいることに驚かされた。さらに施工は熟練者を擁す専門業者が念入りに行っており、さすがにマイスター制度の残る国だと感じると同時に、基本を大事にしてより良い成果を得ようとする姿勢が印象的であった。
 欧州では、1970年~1980年代にRC床版やPC床版において版の上部での塩害が顕在化して問題となったことから、1990年にはドイツ連邦道路局から補修・補強事例集が出版され、注意を喚起するに至っている。防水層そのものの適用はそれよりかなり古くから行われてきていたが、これを機にさらに防水層の性能評価基準や施工管理方法も重要視され、ひび割れ開閉試験等による耐久性の評価が行われるようにもなってきている。現在は瀝青系シート防水と樹脂系塗膜防水が中心に使用されており、その比率は全体で 8:2、ベルリン市内に限ってはこの比率が逆転しているとのことであった。
 スイスも基本的にはドイツの規準を踏襲したような内容であり、多くの場合、舗装の基層にはグースを用い、採用する防水層の種別(塗膜、シート)や道路規格等に応じて8パターンの舗装構成としている。シート系防水層は、路線の規格に応じて1層と2層で施工する場合がある。イギリスにおいては、舗装の基層にはHRA(ホットロールドアスファルト)が用いられる場合が多いが、SMA(砕石マスチックアスファルト)が用いられることもある。さらに、舗装厚が10㌢以下の場合には、独自の防水層の保護層として厚さ20㍉のサンドアスファルト(アスファルト量10%、最大粗骨材寸法6.3㍉)層を設けることもある。防水層には瀝青系シート防水と、ウレタン、エポキシ、アクリル等の樹脂系塗膜防水が用いられている。

 防水施工これからの橋梁も

 我が国の床版を見てみると、先達である欧州の経緯を辿っているように思われることから、なるべく早く適切な防水対策を講じて将来の維持管理コストの縮減を図るとともに、構造物の安全性を高めて災害にも強いインフラを構築していくことが重要と思われる。しかしながら、現状では防水層の設置が規定されたものの、地方をはじめとした橋では維持管理コストの不足などから防水層の設置をこれから計画するというケースも多く、予防保全の観点からは早期の対応が望まれる。現在のところ、欧州と同様に瀝青系のシート防水とウレタン等の樹脂系塗膜防水が多く使用されているが、供用されて初めて知る損傷事例も散見され、その原因の解明と対策が課題となっている事例もある。
 なお、これまでに設置されている比較的初期の瀝青系の塗膜防水層については、追跡調査の結果、破損に伴う漏水が生じているケースも多いという報告が見られる。これは、道路橋への防水層の設置が規定された2002年以前は、瀝青系防水層に比較的多く発生していたブリスタリングのような膨れ現象に対する理解が十分ではなかったように思われる。すなわち、膨れた部分をやむなく切開してガスや空気を排出せざるを得ず、その上に舗設を行っても切開部にはアスファルトが溶け込み、なんとかなるだろうとの話が聞かれた例もあるように、最初から破損していた可能性もある。その頃からまだ10年少々の経過であるが、この間の防水層の性能の向上は目を見張るほどである。しかし、過酷な交通荷重や自然環境に晒され、人手やコスト不足等の制約がある中でいかに床版を守っていくか、防水層および排水設備に対する期待は非常に大きい。参考までに、国内外の防水層に関する基準類の変遷を図-2に示しておく。
 以降は、防水層に求められる性能と評価方法、防水層に生じる変状およびその原因と対策等について述べたい。また、昨年10月に藤野先生(横浜国大)や内閣府の方々と訪問した米国における橋梁床版の現状にも少し触れたい。(続く)


      図-2 各国の防水規準の変遷  

〔参考文献〕
1) 松井繁之:移動荷重を受ける道路橋RC床版の疲労強度と水の影響について、JCI第9回コンクリート工学年次講演会論文集、PP627-632、1987
2)(社)日本道路協会;道路橋示方書・同解説、2002.3<
3) 社団法人日本道路協会道路橋床版防水便覧、2007.3
4)(公社)土木学会;道路橋床版防水システムガイドライン(案)、2012.6
5)(株)高速道路総合技術研究所、(一社)日本建設機械施工協会施工技術総合研究所、(一財)災害科学研究所:欧州床版防水システム調査報告書、2009.3
6)2000欧州土木構造物補修・補強調査報告書、(社)日本建設機械化協会施工技術総合研究所、2001.3
7) 紫桃他:床版防水の性能向上に関する検討、日本道路公団試験研究所報告Vol.39、2002.11

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