東日本高速道路　維持管理リレー連載①

高速道路における橋梁の劣化と維持管理の課題を考える

東日本高速道路㈱
建設・技術本部技術・環境部
構造物専門役

木水隆夫氏

東日本高速道路　維持管理リレー連載

公開日：2014.11.16

　技術開発は急務
　施工方法や工期短縮

　４．大規模更新・大規模修繕に向けて
　今年の1 月に「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会（委員長：藤野陽三東京大学大学院工学系研究科総合研究機構特任教授（当時））」より構造物の長期保全・更新のあり方について提言をいただいた。高速道路ネットワークの機能を長期にわたって健全に保ち、永続的に活用していくために、構造特性、供用環境、劣化状況等に応じて大規模更新や予防保全的な観点も取り入れた大規模修繕が必要とされた10）。委員会の検討を踏まえた概略計画では、ＲＣ床版の更新・修繕のウェイトが大きいものとなっている11)。
　現在、事業化に向けた準備中であるが、今後も継続的な点検により劣化の進行状況を把握するとともに詳細調査等により個々の構造物の状態を的確に診断して実施していく必要がある。また、実施に当たっては交通規制による渋滞などの社会的影響が避けられないが、これらの影響を最小にするための、施工方法や工期短縮等の技術開発は規制計画などのソフト対策と合わせて急務である。

　修復を繰り返しながら大事に使う

　5．おわりに
　昨年中国の盧溝橋を訪れる機会があった。1192年の金代に建設され、かつてマルコ・ポーロも訪れ、その美しさを絶賛したといわれる橋である。既に800年以上経過しているが、今も現役である。自然界の材料であることや、構造的に床版や伸縮装置が無く、圧縮部材で成り立っているなど、現代の橋との違いはある。しかし、欄干の柱頭部に作られた獅子像を見ると、色が微妙に違っていた。尋ねると、長い歴史の中で、損傷した欄干をその都度取替えてきたことによる時代の違いによるものと説明された。
　長く生きている橋は、人の手が加えられ、修復を繰り返しながら大事に使われてきたのであろう。

写真-3 盧溝橋

　現代の鋼とコンクリートを主材料にできている橋梁は、生い立ちや環境によってもその寿命は様々である。この50年の間に架け替えられた高速道路橋も数橋存在する。拡幅によるもの、地震によるもの、塩害によるものなど理由も様々である。橋梁の劣化状態を継続的に把握し、部材単位の取替はあっても橋全体を架け替えすることなく、長く安全に道路構造物としての機能を果たせるよう維持管理していくことが、われわれ技術者の使命である。
　劣化状態の把握は現場点検が基本となる。ＩＣＴ（センサーやロボット技術等）を活用した現場点検の効率化、高度化、確実性の向上は今注目されているテーマの一つであろう。
　50年の維持管理の経験とそのデータから将来を予測し、最適な時期に最適な対策を実施することでＬＣＣを最小化し、かつ安全・安心・快適・便利な高速道路ネットワークを永続的に維持していく技術を更に確かなものにしていきたいと考える。

【参考文献】
1）小川篤生、青木圭一：高速道路の橋梁の変遷、橋梁と基礎 2014-8
2）青木圭一、木水隆夫、酒井秀昭、福永靖雄：高速道路における橋梁の損傷状
況と維持管理方針、ＰＣ工学会第42 回ＰＣ技術講習会（2014年）
3）国広哲男：道路橋床版の問題点、橋梁と基礎 1968-6
4）日本道路公団試験研究所コンクリート試験室：橋梁床版損傷の実態、試験所
技術資料第409号 1983-3
5）松井繁之、大田孝二、西川和廣：ＲＣ床版とその損傷、橋梁と基礎 1998-5
6）公益社団法人土木学会鋼構造委員会：道路橋床版の維持管理マニュアル
2012.6
7）松井繁之：移動荷重を受ける道路橋ＲＣ床版の疲労強度と水の影響について、
コンクリート工学年次論文報告集9-2 1987
8）東日本・中日本・西日本高速道路㈱：設計要領第二集建設編
9）〃：構造物施工管理要領
10）〃：高速道路資産の長期保全および更新のあり方に関する技
術検討委員会報告書 2014.1
11）〃：東・中・西日本高速道路株式会社が管理する高速道路に
おける大規模更新・大規模修繕計画（概略）2014.1