新たに発刊した「道路橋防食便覧」のポイント
②耐候性鋼材と緻密なさび
公益財団法人 東京都道路整備保全公社
一般財団法人 首都高速道路技術センター
髙木 千太郎 氏
環境条件を的確に評価する必要あり
耐候性鋼橋の設計、施工、維持管理のポイント
耐候性鋼材は、緻密なさび層が板厚の減少を緩やかに抑えることが特徴であることから、緻密なさび層形成が防食の観点から重要となる。したがって、耐候性鋼橋の耐久性を満たすためには、架橋地点が要求される防食性能を発揮できる適用環境条件であることを適切に評価し、設計、製作、架設に対する配慮と適切な維持管理を行うことが耐候性鋼橋の性能確保において重要である。耐候性鋼材の防食上重要な緻密なさび形成において、マイナスの最大要因となる外部から供給される塩分量が重要なファクターとなる。そこで、耐候性鋼橋の適用可能地域として「飛来塩分量が0.05mdd(mg/dm2/day)以下の地点」としている。また、設計実務における利便性に配慮し、飛来塩分量測定を省略することが可能となるように、地域区分ごとに海岸線からの距離で適用可能地域を示した。耐候性鋼橋の架設を計画した場合は、所定の要求性能を発揮させるために必要な事項と流れを表-1に取りまとめたので参考にするとよい。耐候性鋼材が所定の性能を発揮するためには、緻密なさび形成に適切な環境で使われなければならない。適切な環境の設定時に忘れてはならないのは、架橋地点の地形による影響、さらに桁端部など橋の部材と地形との関係、部材そのものによってつくり出される局部的な環境などがある。ここにあげた事例は、対象となる部位や部材がそれぞれどのような環境におかれるかを個別に考慮することで所定の耐久性確保が可能となる結果となるので注意が必要である。ここで、耐候性鋼橋の適用環境を下記のように整理したので参考にするとよい。
表-1 耐候性鋼橋の防食設計の流れ
①地域環境;架橋地点を代表し、橋全体の飛来塩分量を主とした環境。
②地形環境;架橋地点の地形と橋との関係によってつくり出される地形環境のことで、具体的には、水面からの距離や凍結防止剤を散布する路線にあって橋と地山との地形関係や並列する橋との位置関係などである。
③局部環境;部材そのものによってつくり出されるような局部的な狭い範囲の環境において、橋の部材へ局部的に影響を及ぼす状況を指し、具体的には、桁端部の湿気などが対象となる。局部環境は、細部構造の工夫によって環境改善を図ることで回避が可能である。
耐候性鋼橋の計画時には、凍結防止剤散布の影響を考え、他路線からの飛散の影響を受ける位置や跳ね返りの影響を受ける斜面や山と接近した位置を避けること、又は飛散の影響を受ける部位に他の防食法を採用することなどの検討を行なうことが必要である。
近年、これまで使われてきたJIS 耐候性鋼材に比較して耐候性を向上させる目的で合金元素を多く含有させたニッケル系高耐候性鋼材が開発されている。当該鋼材は、主にニッケル(Ni)の含有量を多くし耐塩分性を高めた耐候性鋼材である。しかし、当該鋼材を飛来塩分量の多い地域や凍結防止剤散布地域に適用した場合、期待する防食機能が確実に確保されている資料及び当該地域における実績も少ないことから、適用にあたって十分に検討することが必要である。同様に、耐候性鋼用表面処理剤は、耐候性鋼橋から流出したさび汁によって周辺を汚すことを抑制する機能があるとの理由等で開発された材料である。耐候性鋼用表面処理剤の基本機能は、鋼材表面の緻密なさび層の形成を助け、架設当初のさびむらの発生やさび汁の流出を防ぐことが目的である。ここにあげた材料の使用に際した留意点としては、対象とする橋ごとにその使用目的に応じて検討するのがよい。塩分過多な地域において、耐候性鋼用表面処理剤を耐候性鋼材に塗布しても緻密なさび形成が可能となることはないので注意が必要である。
適切な細部の構造設計が必要
耐候性鋼橋の構造設計時においては、橋全体の腐食に対する耐久性を均一化させるため、腐食環境の厳しい特定の部位に他の防食法を採用することで、橋全体の耐久性を確保するように配慮する必要がある。具体的には、桁の端部は環境条件の悪い箇所であることから、耐久性に優れた塗装系などを適用するのがよい。また、箱桁の内面は、閉鎖された空間であり結露も生じやすいなど厳しい腐食環境であることから、内面用塗装仕様のD-5塗装系を適用する。鉄筋コンクリート床版を持つ箱桁の上フランジ上面は、上フランジと床版との間にできる空間が狭あいかつ閉塞されていることから、維持管理を行なうことが不可能である。したがって、該当する上フランジ上面には、箱桁内面と同様にD-5塗装系を適用するのがよい。
耐候性鋼橋に期待する所定の性能を発揮させるには、以下の項目に留意して細部の構造設計を適切に行う必要がある。
①土砂、じんあいが堆積しにくいこと
②滞水を生じないこと
③湿気がこもらないこと
④同じ場所で雨水等の水分の滴下や跳ね返りの影響を受けないこと
以上である。