道路橋の維持補修
「水を制するー既設橋の桁端部」
(一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
研究第二部 部長
谷倉 泉 氏
4.点検を考慮した桁端構造の例
最近の桁端部の構造に関しては、氷点下(-20℃)での疲労試験等による性能確認により、耐久性の高い非排水性の伸縮装置も徐々に開発されてきている。その他、簡便な部材取換えを前提にした構造、多層の排水構造を設けて桁下への漏水が生じない構造としたもの、各種型埋設ジョイントや延長床版など、多岐にわたるものが開発されてきており、桁端構造に対する注目もかなり向上していると感じられる、
海外における桁端構造の例として、図―1に示すドイツの事例のように、橋台の中(前面)に点検作業や補修作業が可能な十分な空間を設け、伸縮装置や支承の近接目視および桁内点検のための進入を容易にした構造がある。我が国でも橋台と主桁との狭隘部での点検や補修の作業性を高めるために、背面空間を若干広めに確保する設計事例が最近見られるようになってきている。これは従前から比較すると多くの制約の中での努力が求められると思われるが、維持管理を担当する関係者にとっては大変喜ばしい変化ではなかろうか。
図-1維持管理を考慮した桁端構造(ドイツ) (長崎大学長寿命化インフラセンター:上阪氏提供)
5.終わりに
伸縮装置は、支承とともに交通荷重による衝撃や温度変化に伴う伸縮に耐え、桁同士、あるいは桁端部と土工部を滑らかに接続させる重要な部材である。それだけに少しの段差があるだけで大きな衝撃が生じ、壊れやすいことも事実である。しかし、この部分から生じた漏水は桁端の主桁や支承、橋台などに補修の難しい損傷を生じさせる原因となるため、少しでも漏水が見つかった場合には、状況に応じて早期対応による予防保全対策を講じることが望ましいと言える。狭隘な空間しかない既設の橋梁については補修もなかなか難しいが、対応が遅れて大掛かりな対策をする必要が生じないように、また、伸縮装置や主桁に起因した大きな事故が起こらないような点検管理を心掛けるべきである。
現在、機能や性能について様々な改良、工夫が凝らされた伸縮装置や桁端構造が開発されてきている。今後はそのような製品や構造が新設橋ならびに既設橋の改良工事で適用されていくものと思われるが、既設橋については大規模な構造変更が出来なければ、現状の構造でうまく活用していくしかなく、そのニーズに適した新材料や補修工法の開発が望まれる。桁端部の漏水を防止することは、橋の維持管理の合理化に寄与するだけでなく、交通の安全確保にも重要な役割を果たしている。
なお、熊本県川走川に掛かる国道325号線の奥阿蘇大橋(鋼アーチ、耐候性鋼使用、橋長360m)は1989年に架設されており、この橋では桁端に下写真に示すようなコンクリート製の排水、防水構造が設けられている。このことは最近知ったのであるが、当時、地方の橋でも水処理(漏水、排水)に対する配慮をしていた設計関係者がいたことを嬉しく感じた次第である。
写真-1 奥阿蘇大の桁端部の排水構造 (川金コアテック:宮原氏提供)
(次回は12月16日に配信予定)