道路構造物ジャーナルNET

道路橋の維持補修

「水を制するー既設橋の桁端部」

(一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
研究第二部 部長

谷倉 泉

公開日:2014.09.29

3.既設橋の桁端部の課題と対策

狭隘でやっかい
 桁端部は橋体を支える支点部であり、落橋防止構造などが設けられる耐震性能上も重要な部位であるが、漏水に関してはこれまであまり抜本的な手を加えられることがなかった、あるいは手を加えてもなかなか良い結果が得られなかったケースが多い。それは橋梁技術者の多くが知っているとおり、重要な部位であることがわかってはいても、非常に狭隘な空間であることが一般的なため、点検も補修も極めて困難な場所となっていることが一因である。そのために高湿度や塵埃の堆積などの影響で腐食環境が厳しい場合が多く、局部腐食や異常腐食が進行しやすい環境に置かれている。さらに、伸縮装置は交通荷重による衝撃や異物の目詰まり、材料劣化等によって破損しやすいために漏水も生じやすく、橋を維持管理する上でのボトルネックとなっている。
 また、橋の総数の多くを占める地方の中小橋の場合、桁端の作業空間がほとんど無いケースも多く、大規模な構造変更は費用対効果の面でも難しいため、既設の伸縮装置を延命して使わざるを得ないことが多いことも課題である。

確実な点検も難しい
 点検に関しては、狭隘部と言うこともあって、伸縮装置,支承、桁端ともに近接目視が難しいのが一般である。このため、ファイバースコープや非破壊試験装置の利用、あるいは各種センサーの取り付けによるモニタリングなどの手法の適用によって健全性を確認する必要がある。伸縮装置については、フェースプレート背面のボルトの疲労き裂を探傷する超音波センサーの適用事例(底面に固定させてモニタリング、摺動させて検査)がある他、溶接部については簡易に点検するためにファイバースコープや渦流探傷法を適用することも考えられ、最近ではかなりこれらの非破壊検査による点検精度もかなり向上してきている。将来的には簡便なモニタリング手法や遠隔操作できる点検装置(ロボット)の開発が期待される。

漏水、排水対策
 伸縮装置部からの漏水は、一般に装置の下方に設置されている排水設備(樋)の破損やこの上に堆積した土砂周りからのものが多いため、雨天時に漏水が発見された場合には迅速に損傷部材を交換することや、耐久性の高い材質のものに取り換えて破損しにくくするなどの対策が重要である。最近はこのような漏水に対する2重の排水構造を設けた設計施工もなされてきており、伸縮装置を交換する際には、予算に応じて採用する手だてもある。交換が難しい場合には土工部や橋の路肩部に排水設備を設置することなどの応急対策によって、路面の水が伸縮装置部へ流入することを防ぐことが効果的であり、欧州などでは簡便な構造で排水を促している例もある。

狭隘部の補修と予防保全
 桁端部の構造については、新設の橋では点検補修を踏まえて様々な改善がなされてきているが、既設の橋では、これまで点検のみならず補修さえも困難な状況に置かれている。例えば、塩害でコンクリート中に塩化物が浸入して鋼材の腐食とコンクリートのひび割れが顕著になっている場合には、高濃度の塩化物が含まれる部分を除去して断面修復する必要があっても補修作業を行う空間が確保されないことがしばしばである。しかし最近では、変状を生じている狭隘な部分を専用冶具に取り付けたウォータージェットではつり取り、先端の曲がった曲がりノズル等を用いてモルタルを吹付ける断面修復による補修も可能になってきている。この断面修復工法は主桁の下面や端部、橋台の壁面の補修だけでなく、支承交換時の沓座周りの補修にも採用できる。このような補修箇所では、さらなる損傷の再発生を防ぐための表面保護工が実施されるケースも増えてきており、これは予防保全対策としても有効である。


桁下面のはつり状況(谷倉泉氏提供)


桁下面のはつり装置(谷倉泉氏提供)

 さらに、橋台等の水掛かり部においては、塩害だけでなく漏水に伴うアルカリシリカ反応(ASR)による変状も増加している。漏水に伴う変状の進展が懸念されると判断されるような場合には、表面保護工などによって水を遮断する必要がある。シートの貼り付けや塗膜を吹き付ける場合は、コンクリートとの十分な付着を確保して耐久性を高めるための下地処理が非常に重要である。ASRを生じている場合には、壁体背面からの地下水の浸透についても配慮する必要がある。
 また、桁端のコンクリート中の鋼材の腐食を防止するための電気化学的対策として、電気防食工法を用いて腐食の進行を抑える手法も採用されてきている。この対策は初期投資に若干コストがかかるがランニングコストは非常に少なく、鋼材の腐食の進行を抑える意味で極めて効果が高い。桁の架け替えやアウトケーブル補強のような大掛かりな対策ではなく、通電に必要な微小な電流を流す電源の確保と配線が必要となる。  桁端部の扱いで最も大切なことは、このような損傷を生じないように伸縮装置からの漏水を防ぐことであり、それが維持管理コスト縮減に大きく寄与することを認識しておく必要がある。

桁端上面は滞水している可能性が高い
 桁端部のRC床版上面は、伸縮装置との境界部を最深部として雨水を溜めた状態であることが多く、その状況は舗装がなされていない場合に確認することが出来る。これはすなわち、舗装後も常に水が床版上面に留まる可能性を示しており、衝撃の大きな部位の排水構造としては舗装、床版の耐久性を確保する上で好ましくない。特に橋の縦断勾配が大きく近くに排水孔が無い場合は、伸縮装置に雨水が流れ込みやすくなる。  桁端部の排水孔位置は、既設の橋梁の排水孔位置などから知ることができる。伸縮装置の近くに排水設備が設けられていない場合は、床版の鉄筋を傷めないように鉄筋位置を探査し、必要に応じて床版端部に直径5cm以下程度の削孔を行って排水管を設置し、雨水を外に逃がす対策が有効である。このくらいの径であれば、床版の疲労に対する影響も軽微と考えられ、床版上の舗装にポットホールが頻出する箇所への対策で効果を挙げている例もある。排水設備も接合部が緩まないように配慮した配管、取付け構造とし、目詰まりしないような径、材料を用いる必要がある。路肩部に排水溝を切削して設けることも排水を促す簡便な対策となる。
 また、床版防水層もコンクリート内部への雨水の浸透を防止する上で効果的であるが、その上面に雨水が滞水している場合には、交通荷重や凍害の影響によって舗装のはく離、損傷に繋がる恐れがあるので注意が必要である。

支承部のメンテナンスフリーは不可能
 橋梁付属物として取り扱われている支承については、狭隘で点検補修の難しい設置環境に置かれていることもあってメンテナンスフリーが求められているが、これまでの経験からすると、橋梁の他の部材と同様にメンテナンスフリーとすることは難しく、逆に細かな点検による気配りが必要なケースが多いのが実情であると思われる。実際に、腐食して回転や摺動等の機能を損失した支承部に関しては、ブラスト後の潤滑油の注入や金属溶射によって機能回復、防食する方法も効果を挙げてきている。鋼製支承そのものに発生する疲労き裂やゴム支承の劣化も経年とともに増加してきていることから、今後これらの支承についてはなるべく手がかからないように、50年、100年の耐久性を保証できるような製品の開発が望まれるところである。
 なお、土砂等によって目詰まりしている伸縮装置や土砂が堆積している支承周りは、点検時等にエアブローや高圧水等によって清掃し、乾燥状態に保っておくことが鋼材の腐食およびASRの進行を予防する上で重要である。誰にでもできる簡単な方法ではあるが、この方法で大きな成果が挙がっているという報告も見られる。

耐候性鋼材へ及ぼす漏水の影響は深刻
 桁端部で最近よく目にする腐食対策として、耐候性鋼材の塗装がある。もともとは塗装不要なことが耐候性鋼材の利点であるが、その橋に採用している伸縮装置や壁高欄の構造、橋の設置環境によっては、この方法も予防保全策として有効と思われる。逆に、そこまでの対策が必要なほど桁端部の扱いは難しいと考えることができる。伸縮装置部からの漏水により、主桁のウェブと下フランジ間に著しい断面欠損を生じている例もあり、特に地方で多く見られる中小の橋梁ではこのような損傷事例を見損じないようにすることが必要である。
 この他、漏水が生じている桁端部の構造として、伸縮装置以外に壁高欄の不連続部とひび割れが誘導される目地部(メナーゼヒンジ等)がある。壁高欄の不連続部は,温度変化や伸縮装置の伸縮に伴って間隔が増減するが、間詰め材の耐久性によっては短い期間で漏水を生じる事がある。そのため、最近は様々な工夫を凝らしてなるべく外に雨水が漏れにくくしている構造も見られるが、完全に漏水を防ぐ止水は難しいかもしれないと感じている。現状に対し、水が漏れても大丈夫な構造設計、漏水対策を期待している。  さらに細かく目を配ると、目地材が詰められている壁高欄のひび割れ誘導目地部では、その基部に必ずと言って良いほどひび割れが生じ、ここを伝わった漏水が床版や鋼桁に腐食を生じさせていることがある。ひび割れ幅は大きいもので1ミリを超えることもあることから、特に耐候性鋼材を用いている場合には、景観のみならず安定錆の形成や耐久性にも影響を及ぼすと考えられる。床版端部に水切りを設けていても、壁高欄と床版が一体化していればひび割れを水が伝うので、主桁にまで水が浸透して腐食が生じることもあり注意が必要である。漏水に凍結防止剤の塩化物イオンが含まれる場合にはその影響が甚大となるため特に留意しなければならない。
 その対策例としては、目地の下方をウレタン等の伸縮性のある吹付け塗膜で被覆してひび割れに雨水が浸透しないようにする方法や、床版および壁高欄全体を一体化して被覆(防水)する方法などが有効と考えられる。もともと湿気の多い我が国においては、架設環境に応じて耐候性鋼材の採用についてよく検討する必要があると思われるが、上述したような排水対策がなされていれば、部分的ではあるが有害な水の影響は少なくなるものと考えられる。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム