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落橋防止装置などの鋼製部材溶接不良問題

92橋中72橋で不良が見つかる

公開日:2015.10.09

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 久富産業が製作した耐震補強・補修工事用鋼製治具の溶接不良について、問題はさらなる広がりを見せている。10月7日に国交省が発表した資料によると、過去5年間に同社が製作した治具を使用している橋梁は国・高速道路会社所管分だけで92橋が判明したが、そのうち72橋で勧進橋と同様の不正行為があったと推定される不良品が発見された。


国土交通省発表資料より①

 過去6年以上前の同社製品でも7日現在において26橋で不良が発見されるなどとめどがないため、国交省では同社の全製品について検査を実施していく方針。その数は少なくとも(2日時点で)国交省管理114橋、高速道路会社管理8橋に及ぶことが確認されている。

 地方公共団体においては、56団体199橋において同社の製品が使用されていることが判明しており、これも国と同様の点検、対策が行われる方針だ。


国土交通省発表資料より②

久富産業以外でも溶接不良

 一方、国土交通省では、久富産業以外の製品もサンプリング調査を進めていたが、このうち、浜松河川国道事務所が所管する国道1号久能高架橋橋脚補強工事(元請:中村建設(浜松市))において、多数の溶接不良箇所が見つかったと発表した。同工事は27年3月に完了した案件で、内容は耐震補強(変位制限装置、落橋防止装置、橋脚巻立工)、橋脚補修など。溶接不良箇所は全366部材のうち、実に80%に達する291部材に及んでいる。同事務所は本工事において溶接不良の報告を受けていなかった。

浜松河川国道事務所発表資料より①

 同事務所によると一次下請はKAMIYA(袋井市)、鋼製治具の製作は八十八工業(静岡市)、溶接検査は清水検査サービス(静岡市)がそれぞれ担当している。

浜松河川国道事務所発表資料より②
久能高架橋の案件が単なるチェックミスか不正であるかは調査中だ。今後、詳細調査を行い、原因究明を行うとともに、早急に補修方法などの対応方針について検討していく。

 今回、久富産業以外でも不良が見つかったという事実は大きい。今後こうした事態を防ぐために国土交通省では10月末までを目途に、溶け込み溶接において不適切な行為により落橋防止装置等を製作している会社の特定を進める。加えて、原因究明及び再発防止策等を検討するため、13日に有識者委員会を設置することにした。
 有識者委員会では改めて、コンプライアンスの確立、技術者倫理の向上について議論されることになるであろうが、その一方でコスト、工期面の課題や、下請けや品質の管理を担う検査会社がどのような状態にあるのか? などコンプライアンスや技術者倫理を守ることができなかった理由について、様々な角度から検討することが必要かもしれない。耐震補強は地震国日本にとって安全安心の要である。一業者の責任を問うだけでは済まされない瀬戸際にいる認識が必要ではないか、と感じる。

 こうした問題が起きた以上、こうした鋼製治具の溶接検査について、何らかの検討が必要かもしれない。新設の鋼橋で複数のファブが技術提案しているように2社以上の検査会社を使うことを半ば義務付けるか、インハウスエンジニアもしくは発注機関の指定した検査会社が最終的に必ず検査、それも抜き打ち的かつランダムに対象を選択する形でを行うか。ちなみに旧運輸省系での構造物ではそうした対応に港湾空港総合技術センター(SCOPE)などが当たっており、非常に厳しい検査で知られている。

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