発注者の施工管理体制、受注企業の施工体制共に大きな課題
NEXCO中日本 中央道を跨ぐ橋梁の耐震補強工事施工不良に関する中間とりまとめと当面の再発防止策を発表
中日本高速道路は、中央道を跨ぐ橋梁の耐震補強工事施工不良に関する中間とりまとめおよび当面の再発防止策を発表した。杉山俊幸山梨大学副学長を委員長とする調査委員会がまとめた中間とりまとめでは5つの調査すべき項目のうち、優先して工事の施工に関する管理(発注者・受注者の調整状況等)及び検査状況などの調査と契約の適正性(契約経緯や変更契約額等)に関する調査が進められ、その調査概要と確認された事実関係、考えうる課題(問題点)、さらなる調査・検証が必要な事項などが示された。それを受けて、NEXCO中日本は28日、工程表の提出期間の短縮と義務化(月間→週間)、自主検査の極力回避と原則立会検査の実施、それらの手続きを守ることができない受注者に対する契約解除も辞さない判断基準の明確化、発注時の施工者の能力の適正な判断、入札不調時においても競争参加資格要件の緩和は最後の手段にすること――などからなる当面の再発防止策を発表した。中間とりまとめの内容や記者との質疑の中では、当該元請会社である大島産業が、自主検査もできておらず、検査書類も提出されず、「元請さえ把握できていなかった状態で現場が動き続けた」という異常な状態であったことが示された。
今回、施工不良が起きた現場は、中央自動車の本線橋3橋(天神橋、国立橋、大谷第二橋)と中央道を跨ぐ4橋(原山橋、北原橋、絵堂橋、緑橋)のロッキングピアを有する橋梁の耐震補強である。ヒンジ構造を解消するため、橋脚をRCで巻き立て壁化、ラーメン化するなどして補強するロッキングピアの標準的な耐震補強である。
(NEXCO中日本発表資料より抜粋、以下同)
まず緑橋のA1橋台(下り線側)のコンクリートでひび割れが発見され、調査した結果、鉄筋の不足が判明した。その後、同橋のA2橋台(上り線側)、北原橋のA1橋台(下り線側)、絵堂橋のA1橋台(下り線側)においても鉄筋の不足が判明した。
調査委員会の中間とりまとめを時間軸に従ってまず、「契約の適正性」から読み解いていくと、NEXCO中日本の苦渋が見えてくる。2018年度の橋梁耐震補強の入札不調率は26.7%と工事全体平均よりも高く、応札企業の不足に苦しんでいたこと、今回の工事案件も2度の入札不調が発生した後、発注単位の変更及び競争参加資格要件の緩和により漸く2社の応札があったことが示されている。付け加えると、その後の記者との質疑でも明らかにしていたが、耐震補強設計も(応札者不足で)遅れており、発注までに(精査する)時間が少なかった。その中で応札した2社のうち、当該元請は低入札の重点基準を下回る73.8%で応札した。しかし、その後の5回にわたる契約変更で工期は当初から372日も長い792日に、契約額は当初の約6億円から7.3億円増の13.3億円にまでに増えた。それでも竣工検査時に書類不備が見られ、不合格となり、修正通知書による催告にも従わず、緑橋以外の2橋についても施工不良が見つかったことから、当該元請による工事の完遂はかなわず、契約を解除した。
現在はグループ会社の中日本ハイウェイ・メンテナンス中央が工事を引き継ぎ、緑橋については年内に補修を完了し、残る2橋についても1月末までの補修完了を目指して工事を進めている。
さて、次に工事の施工に関する管理及び検査状況に関してである。ここで重要なのは、受注者が低入札で応札したことおよびNEXCO中日本の工事は初受注であったことである。加えて高速道路を跨ぐロッキングピアの耐震補強などそうそうあるものではない。この時点でかなり警戒を要すべき現場であったといえる。その後の施工管理についても中間とりまとめでは厳しい事実に基づいた指摘がなされている。「監督員の始動にも関わらず、品質や工程の管理に関する書類の未提出、工事工程の遅延、手薄な現場管理の改善が見られず、(NEXCO中日本は)改善措置計画の提出を求めたが提出は2か月以上も遅れ、提出計画が守られることもなかった。」「工程表の未提出(1割以上)、定期工程会議の欠席(2割弱)立会検査願を提出しない(後付けが約3割)」「緑橋A1橋台で立会検査願が未提出のまま2019年12月に鉄筋組立てが行われ、その後の立会検査や自主検査も行われず、2020年1月に最終工程であるコンクリート打設が実施されていた」という筆致である。
緑橋の現場がいかに異常な状態であったかが分かる
受注者だけではなく、監督者であるNEXCO中日本側にも指摘がある。「2019年9月に担当者(施工管理員)が交代していた」という記述は、その後の問題が生じている現場において、引き継ぎ時に危機感の共有があったのか? という指摘と読み取れる。また、「施工不良の発生した緑橋と3跨道橋の一部については、一部竣工検査が実施され、合格と認定されていた」とある。不良の露見が無ければそのまま使用されたかもしれない、ということだ。
また、記者との質疑では、立会検査願や受注者から出される工程表が無ければ、工事がどんな状況にあるのか、発注者側が具体的に把握できず適切な時期に立会検査ができないということも示された。現状の月間という長いスパンの工程表、自主検査というのは、受注企業側がコンプライアンスを守った場合は有効だが、そうでない場合は機能しなかったといえる。
調査によって明らかになった事実や課題から、NEXCO中日本は当面の再発防止策をまとめた。まず契約の適正性については、入札不調時の再発注においても可能な限り発注単位、工程の見直しを行い、競争参加資格要件の緩和は最後に行うこととした。今次の案件課題内容に鑑みて、土木補修工事に等級区分(下表)を設定し、発注規模、技術的難易度に応じた適切な発注を実施すること、地域要件の設定に関する基準を明確化し、統一的な運用を図ることなども示された。
また、低入札で応札し、かつ初受注であった会社の施工能力を監督するため、経営事項審査の結果を活用し、完成工事高、技術職員数を把握し、施工能力の有無を確認すること、複数現場で同時に施工する必要のある工事については、各現場に配置する技術者氏名、保有資格、経歴。現在の工事従事状況などを確認する、下請を含む施工体制計画の確認については、契約書など必要な書類を提出させ、工事施工体制が確保できることを確認するーーこととした。
次に施工管理体制の強化については、週間工程表の提出義務化による検査漏れリスクを回避すると共に、原則立会検査を実施し、それが難しい場合でも遠隔臨場(遠隔立会)の活用など発注者側が介在する検査を行い、集中工事など人員が不足する場合のバックアップ体制も構築し、自主検査を極力排することとした。また、立会検査の実効性を担保するため、抜き打ち検査についても検討していく方針だ。
週間工程表の提出が滞るなど、受注者の工程把握が不十分な場合は、工事の一時中止などを行うと共に、明らかな契約違反行為があった場合は、契約解除を含む厳格な手続きが取れるように判断基準の明確化を図っていく方針だ。
今後も調査委員会では、残る下請契約を含む施工体制の適正性に関する調査なども進め、最終報告書をまとめる方針であり、再発防止策も、最終報告書を反映して追加・修正を行っていく。(2020年12月30日掲載)