葛西高架橋(山側)、京浜大橋(海側)も優先対策
国道357号 荒川河口橋鋼床版の補修補強方針固まる
国土交通省関東地方整備局東京国道事務所は3月26日、同事務所内で第3回鋼床版疲労対策検討委員会を開催した。同事務所管内の国道357号線の鋼床版を有する橋梁のうち荒川河口橋をはじめ10橋中7橋で鋼床版に疲労亀裂が見つかっていることを受けて検討を進めているもの。今回はSFRCの効果検証、荒川河口橋の補修方針、国道357号線全体の維持管理計画、亀裂の発生傾向の分析(中間報告)などについて議論された。なお、同委員会は当初、今回で国道357号線全体の維持管理計画を策定する方針だったが、議論を延長し、平成27年秋に最後の委員会を開催した上で方針を決定する。
SFRC厚さは75㍉
亀裂につながる負曲げを大きく低減
SFRCの効果検証
効果検証は、すでにSFRC(75㍉厚)による補強が済んでいる区間を含む荒川河口橋(山側)BY-1区間(2径間連続鋼床版箱桁)を対象にモデル化し、FEM解析によりSFRC施工前後の応力を比較検証した。着目箇所は溶接ルート部の横リブ交差部、角折れ防止材交差部、支間中央部、角折れ防止材溶接部の角折れ防止材交差部。また、車両の通行位置における主応力の変動をさらに詳しく調べるため、載荷パターンを新たに2つ追加し、ルート部のデッキ側と縦リブ側の各要素に着目してSFRC施工個所と未施工個所の主応力を比較調査した。
SFRCによる補強概要図
その結果、SFRCを舗装した個所は載荷位置の違いによる応力変動の幅をルート部デッキ側で16~22%(未施工個所比78~84%の応力変動減)、ルート部縦リブ側で28~33%(同67~72%減)、角折れ防止部で45%(同55%減)に抑制できることが検証できた。また、主応力の変動もルート部デッキ側で20~33%(同67~80%減)、ルート部縦リブ側で36~73%(同27~64%減)と75㍉のSFRC層が応力変動を抑制している(すなわち亀裂損傷につながる負曲げを抑制している)ことを検証することができた。
SFRCを75㍉厚にしているのは、土木研究所の輪荷重走行試験の結果示されたデータを基にしている」(東京国道事務所)。また、「当て板部は厚さが15㍉ほどあり、そうした部分を考慮すれば75㍉の厚さは必要」(森猛・法政大学教授)であるため。
貫通亀裂発生箇所は当て板、未発生個所はSFRC
亀裂貫通していない個所対策はさらに検討
荒川河口橋の補修・補強方針(デッキプレート)
SFRCの補修・補強効果を検証した上で国道357号線の中で最も疲労による損傷が進む荒川河口橋では最も舗装への影響が生じやすいデッキプレート対策について、①デッキプレートに貫通亀裂が生じている個所は従来通り当て板による補修を行った上でSFRC補強を施工する、②亀裂が生じていない個所もしくは比較的短い個所はSFRCのみの補強で対策を行う――方針が示された。貫通はしていないが亀裂長さが長い個所については当て板による補強を行うかSFRCによる補強のみで良いかをさらに検討する。
鋼床版のデッキプレート疲労損傷概要図
これは「デッキプレートに貫通亀裂が生じた場合(そのまま)SFRCによって補強した場合の耐久性は未解明」(同事務所)であることが理由。また、当て板補修は亀裂の進展がプレート下面からの亀裂が相当進展した後に上部にも(下部の亀裂に対応した)亀裂が生じ、最終的に貫通亀裂としてつながるという想定をしていることから、「亀裂が目視によりデッキプレート上面に確認された段階で施工する」方針だ。
施工ステップは①亀裂調査、②当て板補修、③SFRCの打設。現状は内在亀裂についてUT(超音波探傷)調査、亀裂個所調査についてMT(磁粉探傷)調査を行っているが、調査に伴う工期の短縮や仮舗装の設置・撤去を省略するためUTやMTによる調査を効率的かつ少なくする方向にできないか検討している。
より具体的な施工手順は、鋼床版の点検後、当て板補修を行った上で、ショットブラストなどで表面を研掃、SFRC用の接着樹脂を鋼床版表面に塗布し、SFRCを打設。SFRCの上にアスファルト系の塗膜防水を施工し、35㍉厚のアスファルト表層舗装を行った上で完成となる。これを交通量の多い現場で短時間に行う必要がある。
亀裂長さ400㍉、リブ高1/2で判断
荒川河口橋の補修・補強方針(縦リブ)
縦リブについては、ビード進展亀裂では首都高速道路での実績を考慮し、亀裂長さにより補修方法を選定する。具体的には亀裂長さが400㍉以上であればSFRC補強+ストップホール+当て板(コーナープレート)を施工し、400㍉未満はSFRC補強とストップホールのみで済ます。縦リブ進展亀裂、角折れ防止材についてはリブ高の1/2以上に進展していればSFRC補強+ストップホール+当て板(コーナープレート)、1/2未満であればSFRC補強+ストップホールのみとする。
縦リブの亀裂
現在の荒川河口橋の補修補強工事進捗は平成25年度に山側の150㍍、26年度に山側の70㍍および海側の90㍍について合計12億円強を投じて対策している。今後、残部を従来工法で施工した場合50億円の費用がかかることから、コスト縮減を図っていく方針だ。
葛西高架橋(山側)、京浜大橋(海側)を優先
国道357号線全体の維持管理計画
荒川河口橋については、平成25年度に施工した個所(施工後2年経過)と平成26年度に施工した個所(施工後1年経過)について①MTによる亀裂の進展調査、②SFRC層の横領低減効果を確認するための定点ひずみ計測、③アスファルト面(SFRC補強箇所は、基層代わりにSFRCを75㍉厚施工した上で35㍉厚のアスファルト表層舗装を施工している)の路面変状調査を行う(詳細は下表、フロー図)。なお、②についてはひずみゲージおよび応力聴診器による応力計測を採用し、補強後の中立軸の位置を確認し、点検の際の初期値(変状がある場合は中立軸が縦リブ側に移動することを想定)として活用することを目指す。
また、③については路面性状測定車から撮影した画像を確認することでクラックの状況を管理する手法を採用する予定だ。
国道357号線全体としては鋼床版を有する橋梁のうち損傷が発生している残り6橋は2グループに分けて対応する。具体的には葛西高架橋(山側)、京浜大橋(海側)は荒川河口橋と同様の傾向があるため、同様の亀裂対策工を行う。残る羽田Bランプ橋、同Gランプ橋、鳳橋については推定亀裂数も少なく重大な損傷も起きていないことから「優先度は低いが、将来的にSFRCによる対策工を実施する」方針だ。
各橋梁の推定亀裂の発生数と割合
亀裂は輪直下の縦リブに多く発生
亀裂の発生傾向の分析
葛西高架橋(山側)と京浜大橋(海側)の橋梁定期点検の分析から、亀裂は輪直下の縦リブに多く発生し、横リブ交差部および縦リブ継手を有する支間中央部に特に多く集中していることから点検時はそうした個所を重点的に確認する。また、「SFRC層の長期耐久性や亀裂の抑制効果については(実橋で長期的に)確認された事例はない」(東京国道事務所)ことから、SFRC層の健全性確認方法、SFRC層が損傷した場合の補修方法・補修時期、亀裂が進展した場合の補修方法・補修時期、仮舗装を設置・撤去せずに貫通亀裂を調査する方法について検討していく方針だ。
SFRC補強のモニタリング個所
モニタリング方法