六郷教授 今後は近接目視を絞り込むスクリーニングに使える
岐阜大学SIP ロボット点検技術を橋梁点検にどのように生かすか
岐阜大学工学部
社会基盤工学科
名誉教授
特任教授
六郷 恵哲 氏
橋面交通規制を10日から4日に大幅に短縮
いつでも見ることができる詳細記録は貴重
――メリットを総合的にまとめると
六郷 実務レベルでのロボット技術活用の効果として、超大型点検車による橋面交通規制を10日から4日に大幅に短縮できた点が大きいと考えます。点検技術者からは、「限られた時間の中で見落としのない点検を実施することのリスクとプレッシャーから解放された」、橋梁管理者(自治体)からは、「いつでも見ることができる詳細記録は貴重である」とのコメントを頂きました。
各務原大橋でのコスト縮減効果と規制日数短縮効果
2019年度から、地方自治体の橋梁定期点検では、ロボット技術を活用できるよう「道路橋定期点検要領」が改定されました。この改定の動きに対して、岐阜大学チームの活動の成果もよい影響を及ぼしたものと思います。今回は、ロボット技術を事前調査技術として使いましたが、(要領が改訂された)2019年度からは、点検前のスクリーニング(近接目視点検箇所の絞り込み)として使うことが期待されます。
地方自治体の橋梁点検における課題
(左)ロボット点検技術について二種類の手法を調査した/(右)狭域調査の要求内容と検証方法
具体的には、性能が認められた橋梁点検用ロボット技術を単独あるいは組合せて用いて、点検データを取得し、点検技術者が診断を行い、必要なところについては、橋梁点検用ロボット技術によりさらに詳細な調査を行ったり、人による近接目視調査を行うことで、橋面交通規制が少なく、低コストで、安全な、より合理的な点検が行われるようになると期待しています。
実施例
技術を組み合わせていく
――実装に当たっての課題をフジ建機リースの大型移動足場車との比較も踏まえて、答えていただけますか
六郷 現在の近接目視点検の課題は、大型橋梁点検車のレンタル費用(回送費等を含めると70~100万円/日)の軽減、交通規制期間の短縮(渋滞解消)、高所で危険な点検作業の削減と認識しています。また上部工に複雑な形状を有している橋梁では、点検車のアームの展開が難しいこともあります。そうした個所では足場費用もかさむため、ロボット点検技術は効率的であると考えます。
橋梁点検技術として、ロボット技術の有用性と将来性を今回のSIPで明らかにできました。今後は、橋梁の特徴(形式、規模、経年数等)に応じて、最適な点検技術を組合せて適用するのが合理的で、そうしたことができる仕組みや組織が早期に確立されることが望まれます。また、長大で広い幅員を有する橋梁では、ドローンの取得データの位置を特定するためにも、点検のしやすさを追求するためにも、予め目印となるマークをシールなどで張り付けるというようなことをした方がよいと考えます。
――ドローンは稼働率からなかなか積算を決めるのが難しいという面もありますが
六郷 現状ではそうです。そのため時季や作業する時間帯を鑑みて、風ができるだけ弱い時に集中して使うことが必要でしょう。ただしドローンの性能も上がってきますから、今後は作業も徐々に時季や時間に関わらず安定していくと考えています。
――最後に付言して
六郷 2年半前にSIPインフラを開始し、成果を上げることができ、本当に良かったと思います。新技術の導入というのは大学が関わらないと難しいことですが、それもSIPインフラという大型プロジェクトがあったからこそできたことであり、今後もこうしたプロジェクトが必要です。ロボット技術を用いた点検等で、新しい技術が使われにくい理由としては、先に述べたように、法令に合わない、未完成でまだ使えない、使い方がわかりにくいといったものがありましたが、これを官学民がSIPインフラの中で対話しながら対策を立てていくことで、一つ一つ改良していくことができました。今後もこうしたプロジェクトは技術の発展のためにも必要ですので、SIPに代わるものを何とか国に望んでいければと思っています。
――ありがとうございました(2019年4月15日掲載)
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