道路構造物ジャーナルNET

4つの重要な改定点

国交省 新道路橋定期点検要領の重要改定点とその狙い

国土交通省 国土技術政策総合研究所
道路構造物研究部
橋梁研究室長

白戸 真大

公開日:2019.04.10

「必要な知識及び技能を有する者」とは?
 最終判断者は人間

 ――定期点検の体制として「道路橋の定期点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者がこれを行う。」という一文がものすごく重みを増していると感じました。点検における新技術導入の余地が増えているように見えますが、実際にはインハウス、民間両者ともが技術的研鑽を今まで以上に深めることができなければ、基本に拠るべしと伝えているように感じます
 白戸 道路管理者が定期点検を外部委託するとしても、個別技術と契約するのではありません。最終的に健全性の診断を行うのは、人間です。新しい技術についても現場に応じて最適に組み合わせたり、新しい技術が示すデータを解釈したりするのは人間です。そういう意味で、知識と技能を有する者の役割は大きくなっていくというのはそのとおりです。
 ソフト面やハード面でも新しい技術はたくさん出てきていますが、目視や打音の支援、非破壊検査、過去の診断結果のデータベースやAIによる分析等、新技術については、大いに使っていただきたい。むしろ、人手不足などを鑑みればどんどん活用していくべきと思います。そのためには、知識と技能を有するものが、使用目的に応じて選べることが重要です。そこで、今回の改定のタイミングに併せて、点検支援技術の性能をカタログ化するという試みも進めました。
 たとえば支援技術で計測した結果を活用するためには、どんな条件では何が見えないのか、何をどのような確率で見逃すのか、計測誤差はどの程度なのか、それは条件で変わるのかということがわかることが重要です。また、持って行ったら寸法が大きすぎて橋の隙間に入れられなかったとか、旋回できなかったというのではムダな作業になります。機器の諸元や性能の表記方法の統一、充実が課題と考えます。

定期点検の質の向上図る
 ケーブル有する橋梁、水中部など

 ――他には
 白戸 2点目は、定期点検の質の向上、特に、特徴的な変状への対応です。
 吊橋や斜張橋などケーブルを有する橋梁については「引張材を有する道路橋の損傷例と定期点検に関する参考資料」を作成し、コンクリート埋め込み部、鋼材の腐食、PC鋼材の突出、定着部のケアなど、特に損傷が起きやすい個所について留意点を示しました。また、水中構造においても「水中部の状態把握に関する参考資料」を定め、洗掘や腐食(主にパイルベント橋脚)における留意点を示しています。なお、水中部については、これまでも、診断を行う知識と技能を有する者が直接状態を把握するのではなく、ダイバーが替わりに調査した結果も見ながら診断することもあったと思います。これと同様に、水中カメラなども活用してもらえるように、活用上の注意点を示しています。これは質の確保と作業負担の軽減の両立でもあります。そして、第三者被害については、コンクリート片の剥落だけに限らず腐食片等、様々な落下物が考えられます。この他、点検要領本体の付録にも、非破壊検査等を検討するのが良い例をいくつか挙げています。


特徴的な変状への対応

 3点目は、記録についてです。
 活用の目的が明確であれば、必要な量、質の記録を取ればよく、記録については、メリハリをつけられると考えられます。管理者によって扱っている構造物の内容(橋長、形式など)や量もばらつきがある一方で、取得するデータの内容や量は自由です。そこで、記録内容については、元々画一化することは難しい側面もあります。そのため、4つの記録様式メニューを提示し、より道路管理者が内容を選びやすくできるようにしました。

4つの記録様式メニューを提示

 ――もう少し具体的にいうと?
 白戸 たとえば法令では、橋毎に健全性の診断をすることになっていますので、その結果と根拠なる写真等の総括するためものもあれば(様式A)、加えて、道路橋健全性を診断するに際して着目した変状の抽出、スケッチ、変状写真ごとの種類や寸法・範囲の概略を残すことも考えられます(様式B)。
 また、省令や告示では、必ず取得しなさいとはなっていませんが、実際の維持管理を考えれば、定期点検時点である程度、補修補強等が必要な部材の数量なども把握したい場合が大半と思います。そこで、広く行われているとおり、部材単位で、損傷の種類や診断結果を記録することを想定した様式の例も入れています(様式C)。加えて、劣化傾向の分析ごとに必要な詳細単位での客観的な情報を記録する様式(様式D)を用意しています。たとえば詳細な損傷図を記録するための様式や、基礎データ収集要領等で用いている要素単位での損傷の種類と程度を記号化して記録をするための様式です。損傷図については、これから機器等の活用で、作成の時間・手間・費用の削減が期待できるのではと想像しますし、診断の参考にもできる情報です。また、損傷程度の評価についても、複数の橋の予防保全を進めていく上で、その経年変化の平均的な性質も参考にしながら中長期の維持修繕計画を作成するときに参考にできるものです。


記録の充実

記録様式例(Aの一部)

「措置」の定義を明確化
 措置には、補修補強以外の対応も含む

 ――橋梁の長さ、形状、架橋条件や自治体の財政状況によって対応にはどうしても差ができる、そうした現況を反映し、道路管理者の自由度を上げたものですね。さて4点目は
 白戸 4点目は「措置」の定義を再度明確にしました。
 ――「道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずる。」と書いていますね。具体的にはどう読み取ればいいのですか
 白戸 措置はあくまで道路管理者が決定するものです。健全性の診断を行った結果は、道路管理者が措置方針を決めるための重要なデータを提供するものです。メンテナンスサイクルとしては、放置されず、各管理者が何らかの対応措置を施すことが求められます。定期点検は2巡目に入りますが、極論すれば、措置は今が1巡目であるということになります。
 措置としては、損傷を受けた部材に対して適切な補修・補強を行い、たとえば元の強度を回復することができれば、構造物としてみれば最良でしょう。しかし、多くの構造物が措置の対象となれば、全ての構造物について元の強度に戻すことをせず、当面の安全性が維持できるような他の対応をし、次の定期点検時点であらためて措置方針を見直すことも選択肢としてあり得ます。したがって、措置には、補修補強以外の対応も含むことを明確にしています。
 たとえば、定期点検時点以上に状態を悪化させないような補修を行ったり、荷重の制限を行ったりした上で、状態が悪化し続けていないことを監視するなども考えられます。または、見つかった損傷が仮に大きく進行したとしても、橋が予兆無く致命的な自体に至らない、通行者に危険が生じないのであれば、監視をして、安全性の懸念が見られれば必要な規制をすることなども考えられます。


「措置」例:(左)荷重制限をかけた橋梁、(右)歩行者自転車のみの通行とした橋梁

通行止めとした橋梁(上記3枚はいずれも富山市提供)

 措置の実際は多様であることを明確にするよう技術的助言を充実しましたので、道路管理者は、構造物の安全を維持し続けながら、強度等を回復させるための補修補強を計画的に進められるのではないかと思います。
 また、個人的には、点検を支援するための機器としてこの5年で多くの開発がされてきたものは、監視でこそ活躍できるのではと期待しています。

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