有馬新社長 新しい視点から働きやすい職場づくりを
日本ピーエス 来年は創業65周年
株式会社日本ピーエス
代表取締役社長
有馬 浩史 氏
保全分野を売上の4割、80億円目指す
WUTやスーパープレテンション橋など独自技術駆使
――新設事業が減少する中で、これからどのような分野を伸ばしていきますか
有馬 公共事業全体の総額は変わらないにしても、保全分野の占める割合が高くなっていくことは必然であり、当社としても補修補強には特に力を入れてやっていきたいと考えています。但し、今まで培った技術を生かした形で関わりたいと思っていまして、補修補強もあくまで「橋梁」を対象としていきます。10年後には新設6:保全4という割合になることを予想しています。保全分野の売り上げは現在20億円程度ですが、これを80億円程度にしたいと考えています。
――保全分野を4倍にするわけですがその実現性は
有馬 今年のPC建協の総会でも3000億円台の売上を回復したことが話題になっていましたが、そのうちの1/3をNEXCOの新設事業が占めるわけで、早晩それは無くなっていくことが予想されます。市場全体は2400~2500億円程度で推移することになっていくでしょう。一方でNEXCOの大規模更新事業が本格化していくため、必然的に保全分野が拡大します。市場の4割程度、約1000億円程度に増えるのではないでしょうか。当社もその流れに乗っていきたいと考えています。
保全については、調査・診断から設計・施工に至るまで一括して担っていきたいとも考えています。調査診断技術では、例えばPC構造物のグラウト充填状況を確認できる広帯域超音波法(WUT)に基づく非破壊検査技術を保有しており、こういった当社の強みとなる技術を生かして事業領域を広げていくことを検討しています。
広帯域超音波法(WUT)に基づく非破壊検査技術
判定方法
判定結果例
敦賀発電所のフライアッシュを活用
また、新設橋の品質向上や今後の更新事業を見据えて、フライアッシュコンクリートを用いたPC桁およびプレキャスト(PCa)PC床版を積極的に展開しています。フライアッシュに対応可能な生コンプラントを2年前に投資決定して建設を初め、昨年完成させました。フライアッシュは北陸電力の敦賀火力発電所から産出されるものを地産地消という形で使用しているものです。フライアッシュコンクリートを用いたPCaPC床版はNEXCO中日本の日野川橋床版取替工事や富山新港の北陸電力の桟橋に採用されています。また、福井県が発注した大月橋(橋長12㍍、幅員5.3㍍のPCプレテン中空床版橋)において県内で初めてフライアッシュコンクリートをPC橋に適用し、先日工事が竣工しました。福井県内では、地域的な特性から同技術の活用に理解を示していただいている自治体が多く、これからもできるだけ多く提案していきたいと考えています。県外についても同様に提案していきます。
大月橋、富山新港の桟橋床版にフライアッシュを活用
スーパープレテンション橋 LCCの更なる向上へ
架け替え分野では、当社独自の技術である「スーパープレテンション橋」を展開しています。これは、小規模橋(最大支間24㍍)を対象に高強度コンクリートを使用することで塩害および中性化を抑制でき、なおかつ桁高を抑制できるため耐震性、経済性を向上させ、構造物のスリム化により環境負荷も低減できることを特徴とするものです。既に全国各地で施工中を含め8橋の実績を有します。
具体的には80Nの高強度のコンクリートと高強度PC鋼材を組み合わせて製作していますので、コンクリート中の塩分拡散係数が小さく、それを評価されてLCCの低い橋梁形式として採用されています。また、主桁の軽量化によって運搬・架設機の小型化、下部工構造の省断面化が図れる点も発注機関から評価いただいており、架替・更新事業での適用検討を進めているところです。
スーパープレテンション橋の実施例
組立式PC桟橋
迅速かつ供用下での桟橋架け替えに活用
――道路橋ではないですが、組立式PC桟橋というものも開発していますね
有馬 これは顧客からのニーズにより開発した技術です。海岸縁の桟橋は寿命が50年と言われていますが、現実には30年ほどで損傷が著しくなり更新時期を迎えているものも珍しくありません。見た目は傷んでなくても桁下を観察すると傷みが激しいというものも多くあります。しかし、こうした桟橋の中には供用しながら架替を進めたいという条件的に厳しい個所も少なからずあります。
実際に三重県の津松阪港で、地元ゼネコンが既存の桟橋を撤去し、場所打ちのRCで新しい桟橋を構築しようとしたところ、施工中に潮位の変動で沈んでしまい、コンクリートが打てずに施工が困難になった事例があり、桟橋の全面供用中止をせずに施工をできる方法がないか、当社にご相談をいただきました。当社ではそうした要求事項を踏まえ、杭頭部、梁、床版の全てをPCa化し軽量化することで、既存の杭を更新せずそのまま用いることができるようにして現地で組み立てた後、プレストレスを導入して一体化する組立式PC桟橋工法を開発しました。
組立式PC桟橋施工手順
一部分を撤去してプレキャスト部材をセットしてプレストレスを導入して更新するという手順を繰り返すため、他の箇所は使用しながら施工できます。PC構造物のため塩害にも強く、(現場打ちではないため)波をかぶりながらでも施工できます。こうしたことから工期は3分の2強に短縮できます。
反面コストが高いため、港湾を供用しながらの早期施工が必要な所に限られます。潜在的な需要は多いと考えており、これも積極的に採用を働きかけていきたいと考えています。
日野川橋の床版取替を受注
――NEXCOの大規模更新分野への取り組みについて
有馬 日野川橋の床版取替工事(工事場所:福井県南条郡南越前町(今庄IC~武生IC間)、 供用年次:1977年、橋長:300m、形式:鋼2径間連続鈑桁(A1~P2 )+ 鋼3径間連続鈑桁(P2~P5)+鋼3径間連続鈑桁(P5~A2)、床版取替延長:113m(300mうちP2~P5の113mを取替))は当社にとっても重要なパイロット事業であると考えています。大規模更新事業における床版取替工は未だ新しい取り組みであり、当社でも手探りの感があります。工事を安全かつ安心に施工することはもちろんですが、一工程、一工程をしっかりと確認しながら施工することで、経験を蓄え、今後の生産性の向上を図っていきたいと考えています。
――大規模リニューアル事業はNEXCOのみならず、各都市高速道路なども時期が一致するため、ピーク時には人・モノの取りあいが顕著になることが予想されます。技術の売り方・体制の強化(保有技術のライセンス販売や工法協会の設立、外部業者の囲い込みなど)などについてどのようにお考えですか
有馬 公共事業という性格上、パテントのみによって大きな収益を出すというのは難しく、材料供給を含めた一連のビジネスモデルを検討していく必要があると考えています。囲い込みというのも難しいですが、今まで協力体制を築いてきた業者の皆様と保全分野についても一緒に方針を立てて臨んでいきたいと思っています。
十郷橋 土木遺産として活用
供用後63年経った今も現役 高欄を復元へ
――最後に印象的な現場は
有馬 1つは当社の原点である十郷橋です。1953年に福井県坂井市のJR丸岡駅近くの十郷用水に架橋した橋長7.85㍍の国内初のPCポストテンション橋です。完成後63年を経ていますが、今でも供用されています。2013年に調査した結果では、コンクリート強度が設計37Nに対して実強度は76Nを測定しました。また、WUT、電磁波レーダーでグラウト充填状況も調査しましたが不良個所は一箇所も発見されませんでした。
完成当時の十郷橋(左モノクロ)と現在の十郷橋
――それはすごいですね。よほど丁寧に打設されたのですね
有馬 同橋はフランス人技師セルジュ・コバニコ氏の指導のもとで当社が施工した橋梁ですが、非常に丁寧に施工したことが 資料でも残っています。スランプは2~3㌢だったそうです。また同橋はセグメント工法を用いており、その意味でも国内初橋梁と言えます。
――間詰めコンクリートも損傷していないのですか
有馬 損傷していません。間詰コンクリートはスコップで投入され、木製の突き棒で締め固めました。養生は藁をかぶせて行っており、2013年の調査でも異状は認められませんでした。共同で調査に当たっていただいた宮川(豊章・京都大学特任教授)先生曰く、「丁寧に施工したらコンクリート橋は持つ好例」とのお墨付きを頂きました。
同橋は2013年に土木学会の選奨土木遺産に認定されており、今後、高欄を建設当時のものに復元する計画もあります。
もう一つは新天門橋です。
――熊本県発注の鋼・コンクリート複合中路式アーチですね
有馬 そうです。橋長463メートルのソリッドリブ中路式鋼PC複合アーチ橋で、ソリッドリブ形式としては国内最長の橋梁です。側径間のPC桁部を担当しています。
当社は今まで土木学会田中賞を受賞した経験がなく、新天門橋で(受賞できるよう)期待しています。
新天門橋完成パース
――他には
有馬 中国地方整備局で先日局長表彰を頂きましたが、コンクリートの細骨材に廃瓦を用いたPC橋を施工しています。山陰道浜田・三隅道路の折居跨道橋です。こうした素材を用いたのは、コンクリート内部にある程度水を含有した素材があった方が良いという考え方から使用したものです。廃瓦を利用した細骨材は通常の材料に比べ吸水性が高く、ある程度水を含有させておくことで、内面からコンクリートの養生効果を高めることが期待できます。もちろん同地は石州瓦の生産地であり、廃瓦の再生利用を促進する側面もあります。今後、こういった環境負荷低減を考慮した事業活動に取り組んでいくことも重要だと考えています。
石州瓦の廃瓦を細骨材に用いた
――ありがとうございました