北部区間を中心に今年度から3カ年で再塗装を実施
――鋼橋の損傷については
能登谷 北部の区間を中心に、今年度から再来年度にかけて再塗装を行っていきます。桁端部の一部で局所的に酷い損傷が見つかっていますが、全体的には健全と言えます。しかし、せっかく足場をかけるため、橋梁全体を塗り替える方針です。ケレングレードは1種を予定しています。旧塗膜はPCBの含有はありませんが、鉛を含んでいる可能性はあるため、施工前に塗膜の成分を確認した上で、ケレン方法を選定します。もちろん、飛散防止養生などは万全の態勢で臨みます。
――塗替え面積およびケレン手法は
能登谷 今年度は6橋で約44,000平方㍍、来年度は8橋で約70,000平方㍍を予定しています。ケレン手法は従来からの乾式ブラストを考えていますので、施工環境について十分配慮して行う予定です。
床版の傷みは比較的少ない
――大規模更新に伴う床版の取替えは
能登谷 現状ではありません。
――管内の交通量はどの程度あるのでしょうか
能登谷 前橋までは8万台以上の交通量があり、それから北に向かうにつれて減少し、片品川橋では3万台ほどになります。大型車混入率は関越道で2割弱、上信越道で3分の1程度、北関東道で20%強です。
――凍結防止剤の散布量も多く交通量もそれなりにありますが傷んでいない、と
能登谷 そうです。理由としては比較的高い個所、開けている個所を走っているため風が抜けやすく湿気が籠りにくいことが寄与しているのではないかと考えています。当事務所管内でも欝蒼とした森に囲まれて湿気が抜けやすい個所では損傷が生じていますが、未だ深刻なものには至っていません。
片品川橋の上部工耐震補強が進捗
――耐震補強の実施状況は
能登谷 下部工の耐震補強は平成22年度で完了しています。上部工は片品川橋と入沢橋の耐震補強を行っています。両橋梁とも形式は鋼トラス橋です。今後、他の上部工耐震補強の予定は今のところありません。
耐震補強を行っている入沢橋
――支承やジョイントの取替えは
能登谷 耐震補強としての支承の取替えは、片品川橋、入沢橋の2橋で行っています。ジョイントの取替えは行っていません。
P4、P5付近にブレーキダンパーを採用
P4、P5以外は、1500㌧ジャッキを使用して免震支承に交換
――片品川橋の補修補強の詳細について
能登谷 片品川橋は橋長1033.85㍍の鋼3径間連続トラス橋×3連の橋梁です。最初に支承交換を行います。具体的には既存の鋼製ピンローラー支承およびピン支承を免震ゴム支承に置き換え、弾性支承による固有周期の延長化を図ります。但し、P4およびP5(アーチ断面が最も大きい部分)については、支承交換が難しいと判断し取替を行いません。さらに地震力によって入ってくる部材の軸力を補うために当て板補強したり、部材字体を新材に取り替えていくという対策を進めるわけですが、当然、剛性が高くなってきます。力が収束できない部分(P4、P5付近)にはエネルギー吸収能力に優れるブレーキダンパーを用いることで対応します。また、A2支点部には桁端部と橋台の衝突を避けるために制震ダンパーを用いています。
片品川橋概要写真
P4、P5以外は支承交換
P4、P5には制震ダンパーを設置
支承の交換には巨大な上部構造を支える必要があり、1支点部に付き平均1,000㌧以上、最大1,466㌧の荷重がかかることが想定されます。そのため最大1,500㌧の荷重にも耐えることのできるジャッキを特注して使用しています。なお格点部はジャッキアップの際にかかる力で損傷しないよう、鋼板接着あるいはRC巻立てにより補強した上で支承交換の工事を行っています。ただ、ジャッキアップの際の対策だけでなく、桁端部のバランスをとることで支承へ懸かる力が偏在を防ぐため、RC巻立てを行うような工夫も施しています。
(左)1,500㌧ジャッキを用いた支承交換/(右)交換した支承
支承交換に際しては格点部を補強した(RC補強部)
移動足場を用いて補強工事を進めている
下部工の補強は完了しています。補強工種としてはP1だけRC巻立てし、P2~P8 は炭素繊維シートにより補強しました。橋脚を遠望すると、一部でモザイク状の色を有する箇所が見えますが、これは端部からの凍結防止剤を含んだ漏水によりコンクリートに塩害が生じたため、損傷部をWJではつって断面修復を施し、その上で炭素繊維シートを巻立てた部分です。
ワンサイドボルトを採用
――上部工の補修補強をする際に閉断面の部材や高所作業の安全性を増すために、長大橋ではワンサイドボルトを用いて補強鋼板を添接するといったことが見られますが、片品川橋ではどうですか
能登谷 片品川橋でもワンサイドボルト(※編注 高力ワンサイドボルト)を使用しています。
ワンサイドボルトによる補強材の添接(箱型部材など閉断面の部材に採用している)
利根川橋 横締PCで定着部付近に塩害
橋軸直角方向の下勾配部を中心に漏水による損傷あり
――PC橋の上縁定着部付近の塩害損傷はありますか
能登谷 上縁定着部では見つかっていませんが、利根川橋(1984年3月供用、橋長560.8㍍(支間長80㍍)、PC2+5径間連続箱桁、P&Z工法により架設)の横桁の横締PC定着部で塩害による損傷が見つかっています。対策工事はすでに発注しており、どのように損傷部をはつって補修すべきか現在、対策の細部を詰めています。定着部のコンクリートをはつってしまうと当然、力の構造系が変わってしまいます。しかし削らないと直せない場合もありますので、過圧縮になっても大丈夫な程度を最初に見極めた上ではつらないといけません。そして構造系が変わった状態でコンクリートを戻すわけですが、(補修後の)完成形で構造物として成り立っているのかどうかのチェックをかけています。仮に塩分浸透が非常にデリケートな個所にまで到達していた場合は、一度工事を止めて対策を抜本的に検討しなおすことも必要になります。
利根川橋の損傷部
補修工事に着手した
また、利根川橋は、箱桁同士の掛け違い部においてジョイントの非排水構造が損傷しており漏水が生じていました。上を補修せずに橋脚の耐震補強を行っていましたが、橋脚上部(沓座面や側部)にはクラック、浮き、剥離が生じていました。現在は応急的にネットで覆い剥落を防いでいますが、ジョイント部の補強を行うとともに橋脚上部コンクリートの補修およびPC横締定着部の補修に着手した状況です。
――管内の橋梁で橋軸方向のPC定着部では損傷は見られませんか
能登谷 現状では見られていません。そもそも主桁の背面は水が流れることは少なく、横断方向の下勾配側、即ち高低差の低い方からの漏水が専らになっています。実際にピアも下勾配側の側面は損傷していますが、上勾配側はほとんど損傷していませんでした。こうした現象からも橋軸方向のPC定着部の損傷は比較的少ないと考えられます。
――大規模更新・大規模修繕について
能登谷 大規模更新対象となる橋梁・トンネルはありません。大規模修繕は埼玉・群馬両県境の神流川渡河部にある神流川橋(橋長約780m、橋梁形式は、単純RCホロー+単純鋼鈑桁橋+2径間鋼鈑桁橋+3径間鋼鈑桁橋×4、床版防水面積は大凡1万平方㍍)において高性能床版防水工を行う予定です。
――ありがとうございました