特定の技術に拘らず全てのレーザー施工技術の包含めざす
レーザー施工研究会 橋梁の1~2割20~30万㎡がターゲット
一般社団法人レーザー施工研究会は、土木・建築分野に新たな市場を作ることを目的に、安全性や施工品質を確保するためのマニュアルや品質上守るべき最低限の基準を設けることなどを目的に設立された研究会である。鋼橋の防食において塗膜の除去や除錆・除塩・素地調整の確保など塗装前の下地処理は古くて新しい課題である。とりわけ耐候性鋼材に生じている課題は、年々その厳しさを増している。レーザー技術を使って、鋼橋防食の下地処理をどのように行っていこうとしているのか、同研究会副会長の豊澤一晃氏と専門家理事の西川和廣氏に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
加盟組織は100社弱 6~7割が施工会社
西川和廣氏が6月に専門家理事に就任
――一般社団法人レーザー施工研究会について、目的と会員数について
豊澤副会長 研究会を作った目的は、レーザー技術を用いて土木・建築分野に新しい市場を作ることです。レーザー市場は(全世界で)2兆円近くの小さな市場です。製造工場でのカッティングや溶接に使われるのが主流で、一部レーザークリーニングという溶接前の表面処理であるとか、油落としなどに使われています。また美容脱毛やレーシック手術などの医療分野への活用も行われています。
そうした中でレーザー技術を屋外に持ち出し、社会インフラ構造物へのメンテナンスという建設土木の分野で全く新しい活用ができないだろうか、と私は考えました。15年近くその目的を追求してきました。
従来のレーザークリーニング装置による除錆は、工場内での金型や薄物板金の表面処理に活用されていたものを建設土木の分野に持ち出し適用を図っていますが、私は従来の方法ではこの分野で求められる、インフラ構造物に生じた分厚い錆や塗膜をきれいに速く除去するには不十分であると感じ、これまでカッティングや溶接に用いられていた高出力のCW(Continuous wave)レーザーに着目しました。更に、堅牢性など建設分野で求められる装置仕様に応える装置開発を行ってきました。
また、こうした新しい技術を使うには安全面や施工品質、積算などを確保するための資格づくりが必要です。そうした施工のための安全標準の策定や施工マニュアルの整備などを行うために結成したのが当研究会です。加盟組織は97社・団体です。内訳は6~7割が施工会社です。1割ぐらいが発注者、2割ぐらいが学術会員や大学機関、装置メーカー、設計コンサルタント系です。
国土交通省で国総研の所長や土木研究所の理事長、橋梁調査会の専務理事などを務められた西川さんには、この6月に専門家理事に就任していただきました。
レーザー施工研究会概要
CoolLaserに拘らない レーザー施工技術全体の安全性向上など目指す
まずは安全面の規格やガイドライン制定し、資格講習も行う
――研究会は豊澤副会長が社長を務めるトヨコーが開発したCoolLaserを普及するための会なのでしょうか
豊澤 CoolLaserに絞っている研究会ではありません。あくまで土木・建築分野のレーザー施工技術全体の安全性向上、施工品質確保など4つのテーマを目的としています。
①レーザー施工に関する安全ガイドラインの策定・公表事業、②人材育成事業、③レーザー施工に関する課題と対策の研究事業、④レーザー施工に関する普及啓発事業です。
まずは①と②について集中してやってきており、これからは③、④についての充実を図る予定です。
――レーザー施工に関する資格とは
豊澤 やはり光学や現場の知識など一定の専門知識は必要になります。施工者は『レーザー照射処理施工士(以下、施工士)』、それを管理する『レーザー照射処理管理技士(以下、管理技士)』という資格を研究会で独自に設けて、1年に1回認定講習を行っています。
現在は施工士が72人、管理技士が59人程となっています。
安全部会と、人材育成部会で、現場における労働安全的な安全ガイドラインは制定しています。現在はレーザー装置の安全標準を今年中の策定を目指しています。加えて技術検討部会を立ち上げて、知見があまりないレーザーの施工について、普及するにあたっての実際の施工事例などの具体的な課題について活発に議論していきます。
西川専門家理事 技術検討部会の議論の進展によって、安全や人材育成の課題や解決策を会員各社が共有できます。もう一つは、これから現場で使ってもらって様々な経験をしたり、うまくいった事例や改善すべきことがらが明らかになっていきます。それを積み上げて仕事を実際に受注することにつなげるフィードバックを行っていければと考えています。
今のところ会員さんは橋梁分野が殆どなものですから、橋梁補修の現場でのこうした取り組みが増えてくると思います。
6kWの出力有する新型機も上市
素地調整の可能の有無でグレード分けが適当
――実績は
豊澤 道路、鉄道、通信鉄塔、プラントなどで施工実績を有します。
――本格的に技術が使われるためには防食便覧への反映を目指す必要がありますね
豊澤 6kWの出力を有する新型機(CoolLaser® G19-6000)も開発し、量産化を目指しています。同機を使った現場施工事例を増やすことで、品質面でもしきい値を示し、防食便覧等への早期の反映を目指していきます。
NETISも登録済
6kWの出力を有する新型機(CoolLaser® G19-6000)も開発し、量産化を目指す
――レーザー施工技術は出力方法も、出力の強弱も異なる様々な技術が示されています。これらをどのように統一して、鋼橋の塗替市場に示していきますか
豊澤 グレードを何段階かに分けて、すみわけしていく方法が最適かなと思っています。当社としても200W、500W、1kW、2kW、3kW、6kWと時間をかけて出力の強化を図ってきました。
――グレードは、塗膜だけをとれるもの、塗膜をとり塩分も除去できるもの、ブラストのように素地調整も可能なもので分ける感じですか
西川 実際の現場では、素地調整までできるかどうかで付加価値が全く違うと思います。素地調整が出来るものとそれ以外のものでグレードを分けるのが適当かと思います。
――現場では古い橋梁の狭隘箇所や閉断面でブラストや塗膜剥離剤が使用できない場合があります。そうした箇所にもレーザーは到達できるのでしょうか
西川 現在のノズルではそれは難しいですが、レーザー光は屈折できますので、ノズルの小型化などと組み合わせて、場合によっては施工できる可能性はあります。
豊澤 そうした箇所に対応できる技術開発は当然考えています。
新型機は3台、早期に2桁台までの生産を目指す
国内で生産しているためメンテナンスも容易
――機械の数は
豊澤 6kWの出力を有するCoolLaser® G19-6000は3台、3kWの出力のものが5台となっています。現在、装置製造には半年~1年かかりますが、速やかに最新機種を2桁台に持っていきたいと考えています。
レンタル大手のアクティオもデモの共同運営で協業しており、同社の営業網を使って様々なニーズや需要を吸い上げ、市場の拡大に努めていきたいと考えています。
我が社は、日本で装置製造しており、これは強みです。過酷な環境で用いる建設機械は、時として故障することがあります。我々は国内で開発・製造していますので、メンテナンスも速やかに対応出来ます。他のレーザークリーニング装置メーカーは海外から輸入していることが多いため、故障時の速やかな対応には限界が出て来るかと思いますので、この差も重要であると考えています。
レーザーは塗膜が早期劣化しないレベルまでクリーニングできる
酸化被膜や素地調整の課題も新型機でクリアできた
――さて、西川さんが研究会の専門理事になった経緯は
西川 8年前にレーザー照射による鋼材表面処理に関するJISの委員会に専門家として呼んでいただいたのが同技術を知ったきっかけです。その時に、腐食で架け替えになってしまう鋼橋を、かなりの割合で助けることのできる技術なんじゃないかと直感しました。
塩分環境が厳しい環境や部位で酷い錆が生じている鋼橋は全国に少なくない数存在しています。しかし、そうした鋼橋においてしっかりと錆をとり、かつ塩分を除去して、塗装が早期劣化しないレベルまでクリーニングして、かつ調整が出来る方法はありませんでした。これまでは、電動工具で一次処理し、さらにブラストを行った上で高圧洗浄も行っていますが、それでもまだ塩分が規定値以下に取り除けない箇所が残ります。必要な箇所はそうした工程を2、3回繰り返して、さらに戻り錆も軽くブラストしてやっと、塗装に入れるという状況でした。
個人的には、若い研究員のころ鋼橋の維持管理負担を軽減するために、一所懸命耐候性鋼材を普及させようとしていました。ところが公共事業費削減圧力が強かった2000年代初頭、インフラのコストを一律10%下げるよう政府から言い渡され、コスト縮減にこたえるため、現場は一斉に鋼橋の塗装を省略する方向に走り出し、耐候性鋼材を使うことが適当でない所にまで使ったりしたケースもありました。さらに平成になってからは路面に凍結防止剤として塩を撒くようになったので、桁端部などの条件が厳しい部位は、耐候性鋼材を使用していても塗装するという対策を示していたにもかかわらず、対応が不十分であったため、かなりの割合で耐候性鋼橋の水処理が不十分な桁端付近には異常な錆が出ています。
耐候性鋼材に発生する錆は非常に硬く、電動工具や通常のブラストでは刃が立ちませんが、レーザー施工ならば硬さに関係なく除錆できます。また、レーザー施工では除錆だけでなく除塩もできます。動力工具やブラストでは、ややもすれば塩を錆の中に叩き込んでしまうことがありますが、レーザー施工では錆や塩に熱を持たせて気化させてしまいます。これだったら完全な素地調整まで持って行ける道具になりそうだと感じました。
1台のシステム車にコンパクトに各社設備を積載できる
CoolLaserによる実際の鋼桁の既設塗膜除去、素地調整状況
ちょうどその頃、土研の理事長になって2、3年だったと思いますが、官邸から土研に、ベンチャー企業に対する一種の無利子融資事業を行うことを命じられました(いつもながらかなりの無茶振りでした)。CoolLaserの開発がまさに融資要件にぴったりだったので、第1号として採択し、5年間据え置きの無利子融資を実施したので、助言をすることも可能になりました。
昨年3月に土研理事長を退任し、最初は疲れ果てて何もしないつもりでしたが、暑くなる頃から少し元気が出てきて、時おり現場実装に向けたアドバイスをするようになりました。特に今年の2月に新型機が出て高出力になってからは、それまで懸念していた酸化被膜や素地調整の問題もクリアになりました。これは少しでも早く鋼橋の保全を確実に行うために背中を押さなくてはいけないな、と感じ、今年の3月から一歩踏み込んで、トヨコーの顧問という立場で中に入って応援することにしました。
私の立場はこの技術をどうやって現場に適用させていけるかを考えることだと思っています。その辺を意識しながら、現場で実際に使っていただけるにはどうしたら良いか、どういう風に説明するのが効果的か、ユーザーあるいは管理者の期待などを的確に伝え、レーザー技術の更新にフィードバックさせるようにしたいと思います。それが鋼橋を1橋でも多く助けるという私のライフワークに資すると考えています。
――ライフワークですか
西川 様々な橋梁の維持管理対策に携わってきましたが、どうしても残ったのが塩でやられた鋼橋の腐食です。その対策にレーザー施工技術により道筋が出来たというのは、自分としては嬉しかったです。「最後」の仕事にするには最適の技術だと考えています。