1号線から4号線の全25kmを管理 高低差は最大で200m程度あり、凍結防止剤散布地域も
広島高速道路公社 床版の取替や高性能防水を本格化
広島高速道路公社は高速1号線から4号線の約25kmを管理している。山陽道等の高速道路や副都心地区と市街地とを結ぶなど重要な都市高速道路であり、河川及び海岸に沿った市街地と丘陵地などに整備されていることから、橋梁とトンネルの比率が非常に高くなっている。供用から37年が経過した1号線の橋梁は、建設時の床版防水が部分的にしか施工されていないこと、また標高が高い区間では凍結防止剤を多く散布していることなどから床版が損傷を受けており、今年度から床版取替工事に着手している。その他、床版防水の補修なども含め、同公社の米田泰治保全管理部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
1号線 馬木から間所は供用から37年が経過、凍結防止剤の散布が多い
3号線 仁保JCTから宇品は23年が経過、海が近く、対策が急務
――広島高速道路の各路線の建設年次とその特徴から教えてください
米田部長 当公社が管理している広島高速道路は1号線から4号線の総延長約25kmです。供用開始からの経過年数が最も長い路線が1号線の馬木から間所までの4.2kmであり、上り線が37年、下り線が27年経過しています。3号線の仁保JCTから宇品までの2.6kmは23年、4号線の全区間4.9kmが22年経過しており、管理区間の概ね半分が供用から20年経過しています。
とりわけ環境の厳しい路線が1号線です。市街地北東部に位置する山麓の緩斜面を通過する路線で、高低差が200m近くに達します。冬季は、広島東JCTから温品PAの区間は降雪しやすい環境となり、凍結防止剤を散布する頻度も高いため、塩害による橋梁構造物の損傷進行が速く、維持管理面での抜本的な対策が急務となっています。
2号線は、市街地東部地域の南北を結ぶ路線で、2010年に供用しました。1号線と一体となり、市街地北部を通過する山陽自動車道と、国道2号東広島バイパスや市街地南東部に位置する海田大橋、広島呉道路及び3号線(広島南道路)といった主要幹線道路とを連絡します。路線のほとんどが河川沿いに位置し、海上の仁保JCTで3号線や他機関道路と接続しています。ほぼ全区間が橋梁のため、将来的な損傷発生が懸念されます。
3号線は、臨海部の都市機能の向上や、市街地と周辺地域の連携などを強化するために整備されており、広島港沿いなど臨海部に位置する全区間が橋梁の路線です。当該路線は段階的に供用しており、2000年にⅠ期区間として仁保JCTから宇品まで、次いで2010年にⅡ期区間として吉島まで延伸し、2014年には観音までの全区間が供用しました。Ⅰ期区間の仁保JCTから宇品までは、経過年数が1号線についで長く、また、海沿いに位置することから、対策を要する損傷が比較的多く発生しています。
4号線は、市街地北西部地域に計画的に開発された副都心地区(ひろしま西風新都)と市街地中心部とを結ぶ路線です。延長4.9kmのうち約8割がトンネル(約3.9km)となっています。市街地中心部側は太田川放水路を渡河する大規模橋梁ですが、現時点で大きな損傷は発生していません。
今年5月に開催されたG7広島サミットでは、広島高速道路が大きく貢献しており、各国要人の安全で円滑な移動手段として延べ117回活用されました。
1号線は山がちな地形である/2号線から3号線への分岐部(井手迫瑞樹撮影)
3号線の象徴的な橋梁である宇品大橋(井手迫瑞樹撮影)
断面交通量は多い区間で2万台超 床版防水を部分的にしか施工していない箇所も
橋種別は鋼橋が96橋、PC橋が24橋
――交通量や大型車混入率は
米田 交通量が多いのは1号線と3号線の仁保JCTから宇品までの区間で、断面交通量は、年度や月により変動はありますが、日あたり2万台を超えます。4号線でも日あたり1.5万台程度の利用があります。とりわけ山陽自動車道と接続する1号線は交通量が多い路線です。
大型車混入率は、路線や区間によってばらつきはありますが、主要な区間では約15%であり、周辺の高速道路等と比べると低い状況です。
各路線の開通の変遷と交通量推移
――橋梁の橋種別およびトンネルの工法別内訳を教えてください
米田 全体橋梁数120橋の橋種内訳は鋼橋が96橋、PC橋が24橋です。市街地を通る都市高速道路のため、施工性の観点などを総合的に考慮し、鋼橋を多く採用しています。鋼橋は鈑桁橋が54橋、箱桁橋が39橋です。残る3橋の鋼橋として、1号線に鋼方杖ラーメン橋が2橋(上り線及び下り線の平林大橋、125m)、4号線に7径間連続鋼床版斜長橋が1橋(広島西大橋、約477m)あります。またPC橋24橋の内訳は、ポステンT桁が13橋、中空床版橋が11橋となっています。
トンネルについては全5トンネルを管理しており、全てがNATM工法によるものです。
1980年代供用が14橋、90年代供用も11橋
単独橋梁の橋長は宇品大橋が最大で約550m
――供用年代別等、橋梁とトンネルの内訳の詳細について教えてください
米田 先ず、橋梁について説明します。
供用年代別では、2000年より以前に開通した橋梁が25橋(全体120橋の約21%、以後、同割合)あります。このうち1980年代供用の橋梁が14橋、90年代供用の橋梁が11橋あります。続いて2000年代が26橋、2010年代が69橋となっています。
延長別では、700m以上800m未満の橋梁が1橋、600m以上700m未満の橋梁が1橋、500m以上600m未満の橋梁が1橋あります。なお、これら3橋は、いずれもJCTランプ部の複数橋梁で構成されています。
続いて400m以上500m未満の橋梁が6橋、300m以上400m未満の橋梁が5橋、200m以上300m未満の橋梁が42橋、100m以上200m未満の橋梁が33橋、100m未満の橋梁が30橋となっており、200m未満の橋梁が全体の約半数を占めています。
単独の橋梁として最長のものは、3号線の宇品大橋です。橋長550mの単弦ローゼで補剛された鋼3径間連続鋼床版箱桁橋であり、中央支間長270mは桁橋として国内最長です。路線別では、ほぼ全区間が高架橋となる2号線が40橋(約33%)、3号線が48橋(40%)となっています。
続いてトンネルについて説明します。
供用年代別では、1990年代が1トンネル、2000年代が4トンネルです。延長別では、約3.9kmが2トンネル、約1.0kmが2トンネルで、残りは約240mです。路線別では1号線が3トンネル、4号線が2トンネルです。最長は4号線の西風トンネルであり、延長約3.9kmは道路トンネルとして県内最長です。
――広島高速道路での道路構造物の維持管理や更新について教えてください
米田 公社では、管理施設を効率よく維持管理するため、広島高速道路公社インフラ長寿命化計画(行動計画)を策定し、構造物の点検~診断~措置~記録といったメンテナンスサイクルの構築によって長期の安全性を確保する取組みを進めています。
具体的には、点検・診断の実施、その結果に基づき、予防的視点も取り入れた必要な修繕を適切な時期に実施し、これらの取組を通じて得られた構造物の状態や対策履歴などの情報を記録し、次の点検・診断などに活用するものです。
定期点検一巡目ではⅢ判定が7橋、二巡目は同8橋
トンネルは覆工の損傷によりⅢ判定
――橋梁及びトンネル定期点検の実施状況と構造物の診断結果について教えてください
米田 2014年度から18年度までの一巡目橋梁点検に基づく診断結果は、Ⅰ判定(健全)が1橋(約1%)、Ⅱ判定(予防保全段階)が112橋(約93%)、Ⅲ判定(早期措置段階)が7橋(約6%)でした。なおⅣ判定(緊急措置段階)はありませんでした。
一巡目の点検結果
橋梁の点検状況
Ⅲ判定とした7橋の路線内訳は、1号線が4橋、3号線が3橋です。
1号線では、当公社での経過年数が最も長い上り線に3橋((鮎信橋、85m)、(法道寺大橋、100m)、(須賀谷上橋、75m)、全てRC床版鋼鈑桁橋)、次いで供用年数が長い下り線に1橋((法道寺大橋、100m)、RC床版鋼鈑桁橋)でした。また3号線では、Ⅰ期区間に2橋((G6橋、255m、RC床版鈑桁橋)、(G9橋(宇品大橋))、Ⅱ期区間に1橋(G14橋、100m、PC中空床版橋)でした。
トンネルの一巡目点検は2018年度に実施しており、覆工の損傷から全てのトンネルをⅢ判定としました。
トンネル点検状況
2019年度からの二巡目橋梁点検については、昨年度までに全120橋のうち、108橋の点検(進捗率90%)を終えています。
現時点における診断結果は、Ⅰ判定が5橋、Ⅱ判定が95橋、Ⅲ判定が8橋となっており、Ⅲ判定8橋の路線内訳は、高速1号線が5橋、高速3号線のⅠ期区間に3橋です。
1号線では、一巡目点検に基づく診断を踏まえ大規模修繕等によって対応することにした4橋の他、新たに上り線の1橋((長伝寺大橋、109m、RC床版鋼鈑桁橋)をⅢ判定としました。また3号線については、一巡目点検ではⅡ判定であった3橋((G10橋、146m、RC床版鋼箱桁橋)、(G11橋、111m、RC床版鋼鈑桁橋)、(宇品出橋、205m、PC中空床版橋))をⅢ判定としたものです。
二巡目の点検結果
二巡目のトンネル点検については今年度実施中です。
――定期点検から見えてきた、損傷傾向について教えてください
米田 橋梁の損傷傾向としましては、供用開始からの経過年数が最も長い1号線上り線の馬木から間所の鈑桁橋において、コンクリート床版への床版ひび割れ、うき・剥離・鉄筋露出、漏水・遊離石灰が散見されます。また主桁等の鋼部材については、塗装が剥がれ防食機能の劣化が生じています。損傷発生の要因として考えられるのは、当該区間の建設時期が道路橋示方書において防水層設置が明記される以前であったため橋面防水が全面施工ではなく、凍結防止剤を含む水がコンクリート床版内部へ浸入したことによる塩害劣化です。また、鋼部材は、経年劣化に加え伸縮装置の桁端部からの漏水も影響しています。
1号線鮎信橋(上り線)のRC床版裏面損傷状況/1号線法道寺大橋(上り線)の鋼桁塗膜劣化状況
次いで経過年数が長い3号線Ⅰ期区間の橋梁の損傷は、前述の1号線に比べ程度は軽微ですが、コンクリート床版の裏面や端部水切り部周辺の一部に、床版ひび割れや剥離が発生しています。また一部の鋼製橋脚に防食機能の劣化が生じています。損傷発生の要因としては、橋面防水の機能低下等に伴うコンクリート床版内部への雨水浸入に加え、臨海部に位置する路線であることから、飛来塩分による塩害も考えられます。
3号線Ⅰ期区間橋梁の損傷状況(RC床版・鋼製橋脚) 左がG6橋、右がG12橋のP37橋脚
――トンネルの損傷傾向は如何ですか
米田 前述した覆工目地部周辺への、うきや剥離については全てのトンネルに発生しています。また、1号線の福木トンネルには覆工からの漏水が生じています。なお、第三者被害が懸念される箇所については速やかに補修対応しており、その他の損傷の補修については、今年度内に終える予定にしております。
トンネル覆工の損傷状況 左が4号線(西風トンネル)、右が1号線(福木トンネル)