道路構造物ジャーナルNET

高所であっても、人間が地に足を付けてできるものは何でもできる

特殊高所技術 山本正和新社長インタビュー

株式会社特殊高所技術
代表取締役

山本 正和

公開日:2023.03.14

 橋梁や風力、水力発電設備など通常の手法では近接困難な高所での点検・補修についてロープを用いて近づいて行う『特殊高所技術』を主業務として活動している特殊高所技術の新社長に山本正和氏が就任した。山本社長は、同社を和田前社長(現会長)と2人で創業し、以降、15年半の間専務として支え続けてきた。現在は44歳と社長としては若い部類に入るが、経験は深く、見識もある同氏に抱負などを聞いた。(井手迫瑞樹)

2人で創業して15年 親子3代で働いてくれるような会社に
 蓄積しているヒヤリ・ハット事例に対して原因を徹底的に検証

 ――社長就任の経緯から
 山本新社長 和田(会長)と2人で創業して15年を超えましたが、和田が50歳になった(昨年に)契機に、「2人で会社を創業したのだから山本にも社長を経験させたい」と言われ、社長に就任することになりました。
 ――さて、社長就任の抱負は
 山本 従業員が生まれ変わっても働きたいと思うような会社にしたいですね。また、親子3代で働いてくれるような会社にすることが夢です。
 そうするために待遇面に力を入れています。年間休日は昨年から今年にかけて11日増やしました。土曜出勤は、クライアントとの公約である月1回の安全管理研修は外せませんが、そのほかの土曜は休みにしました。給与面でも今年の8月から増額改定する予定です。
 ――特殊高所技術は便利ですが判断を誤ると危険な作業でもあります。安全管理研修はどのようなことを行っているのですか
 山本 蓄積しているヒヤリ・ハット事例に対して原因を徹底的に検証し、改善策を共有することや、道具に関する正しい知識の教育によって、仕組みや力学的な理屈を再教育し、更なる理解を促進すること、この他にも、他社事故事例を共有したり、熱中症対策等の安全衛生に関する事柄などを学んだりと、多岐にわたって実施しています。
 特殊高所技術はロープと支点を使って昇り降りしながら構造物を点検していきますが、現場の形状は様々です。それをどこで支点を取ればいいのか? なども議論します。ただ知識として持っているだけでは駄目で、意識の部分に訴えかける必要もあります。安全管理研修はそれを徹底し、現場で活用できるようにしています。


最近では多摩川スカイブリッジの竣工間際での点検でも活躍した(井手迫瑞樹撮影)

日本有数のRCアーチ橋である別府明礬橋や、首都高速道路のレインボーブリッジでも点検に従事している

売上比率は橋梁約7割、風力2割弱で、水利構造物の調査が1割弱
 スポットリフレ工法についても活用の場を広げていきたい

 ――現在の分野ごとの売上比率はどのようになっていますか
 山本 橋梁が約7割、風力が2割弱で、水力発電所など水利構造物の調査が1割弱、他、急崖や落石の調査などを行っています。


風力発電機の点検

 ――今後はどのような方向に会社を伸ばしていきたいですか
 山本 当社でもドローンを購入しましたが、その使い方を試行錯誤しています。

 また、首都高速道路などと共同開発したスポットリフレ工法についても活用の場を広げていきたいと考えています。
 スポットリフレ工法は、特殊高所技術とブラスト工法および独自の飛散防止ボックス『リフレくん』および超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料『Brushable-S』などを用いた小規模塗替工法です。


スポットリフレ工法

 工程はまず特殊高所技術を用いて補修塗装を行う現場に到達し、ついでリフレくんをラチェットで下から押しつけて固定した上で桁とボックスの際の部分をガムテープで養生し、次いでボックス下部からは除去した塗膜や錆、研削材を吸い込むためのバキュームホースを取り付けます。側面の孔からはブラストヘッドを挿入し、上部についているガラス製の窓から内部を見つつ、ブラストを行います。ブラスト施工後は、素地を確認した上で刷毛などを用いて『Brushable-S』を塗布するというものです。
 首都高速道路や本四高速の現場で試験施工していますが、これをもっと拡大していきたいですね。

 ――現在はどのような営業をしていますか
 山本 一般にはあまり知られていませんが、我々は人間が地に足を付けてできるものは何でもできます。高所における点検だけでなく、コア抜きや非破壊検査も、補修工事もできます。むしろ単純な点検だけでなく、そうした非破壊検査や、補修工事の比率を上げてゆきたいと考えています。


大島大橋(長崎県)ではクラック補修も行っている

ヘリによる空撮が主だった時代に、ロープを用いた近接点検を行っていた
 2010年には福岡営業所を設置し、今では20人の大所帯に

 ――さて、創業時の話に転じますが、和田さんとはどういう風に知り合ったのですか
 山本 15年以上前、2人とも個人事業主として、京都の地質調査会社のお仕事を請け負っていましたが、それが縁です。京都の地質調査会社では、現在の技術に繋がるロープを利用した点検技術により、道路の斜面やトンネルの崩落現場、崖地、長大法面の調査などを行っていました。
 ――15年以上前というと、道路防災総点検があった時期に重なりますね
 山本 まさにその時期です。崖の上の調査などを行うにもドローンがない時代でしたから、ヘリによる空撮が主だった時代に、我々はロープを用いた近接点検を行っていました。
 ――こうした高所を近接して点検する技術に巡り合うまではどのようなお仕事をされていたのですか
 山本 私は地元が愛媛なのですが、高校を卒業後は建築・土木両方で用いられる型枠大工の仕事を8年ほどやっていました。その後、将来性を考慮し、人がやれない特殊な仕事をしたいと考えていたところ、レジャーでなく仕事としてロープを使い、構造物の点検を行うという現在の特殊高所技術に繋がる仕事に魅力を感じ。この世界に入りました。この技術を習得して、ゆくゆくは地元に帰り起業したいと思っていました。
 ――それが特殊高所技術を創業することに
 山本 その会社に関わるようになって1年ほど経った07年初頭に和田から創業を持ち掛けられて、「じゃあ」という感じで、スタートしました。和田は工務店の経営経験もあったので、社長をお願いすることにしました。
 ――現在も自宅のある福岡営業所と本社を行き来する日々ですが、福岡営業所の設立はいつ頃ですか
 山本 2010年10月です。本社から若い従業員を2人引き連れていき、設立しました。妻が熊本の出身で、福岡市内での生活が長かったこともあり、東京か福岡かという選択肢があったのですが、福岡にしました(笑)。
 ――最初は3人でしたが、現在の福岡営業所の陣容は
 山本 現在は20名程の所帯になっています。


関門橋での点検状況

桑鶴大橋……熊本地震の余震の絶えない中での作業
 「特殊高所技術」の価値を痛切に感じた

 ――社長が今まで経験した特殊高所技術を用いた仕事の中で一番「しびれた」現場を教えてください
 山本 熊本地震時の余震が絶えない中、大きく被災した桑鶴大橋の現場を調査したことでしょうか。
 こうした状況下では、誰かが危険を冒しても調べなくてはいけないことがあります。高所における困難な調査を行える『特殊高所技術』を持つ自分たちの価値をあれほど痛切に感じたことは初めてでした。実は桑鶴大橋は、震災前にも点検で訪れており、縁を感じる橋です。


桑鶴大橋での特殊高所技術による調査状況(上段2枚と下段左は当サイト既掲載、下段右は特殊高所技術提供)

阿蘇長陽大橋の点検

 ――ご家族や趣味などについて教えてください
 山本 家族は妻と小学6年生の双子(男女)、小学1年生の男の子の5人家族です。
 趣味は橋の撮影とスノーボードです。南国愛媛出身ですが、愛媛も峻険な山が多く、冬季は良くすべりに行っていました。今では、小学1年生の息子もスノーボードにハマりお父さんに付き合ってくれています(笑)。
 ――ありがとうございました

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