鋼橋塗替え 今年度は24橋で実施
歴史的名橋である長浜大橋の修繕・塗替えも進む
――ここ3年の鋼橋塗替え実績と2022年度の鋼橋塗替え予定について教えてください。また塗替えの際の新技術・新材料の導入や、有害物質を含む既存塗膜の処理方法についても教えてください
近藤 鋼橋塗替えについては、2020年度は96橋、21年度は70橋を発注しています。22年度は24橋で塗替えを予定しています。
具体的には、主要地方道長浜中村線の大洲市内の肱川河口部に架かる長浜大橋で2020年度から補修と併せて鋼橋塗り替えを行っています。同橋は1935年に架けられた開閉式の鋼単純鈑桁2連と鋼単純トラス橋5連からなる橋梁です。「赤橋」の通称で親しまれ、現存する中で稼働するバスキュール(跳ね上げ)式道路可動橋としては日本最古で、国の重要文化財に指定されています。一方で同橋は竣工後82年に渡り、幾度かの補修・改良工事を実施してきましたが、肱川河口部の過酷な気象条件(塩害および気嵐など)や老朽化に伴い、2016年度の定期点検では、鋼部材の防食機能の劣化やコンクリート部材のひび割れ、鉄筋露出などの損傷(判定区分Ⅲ)が確認されました。
長浜大橋
そのため、文化財保護の観点に立ちながら「歴史的鋼橋の補修・補強マニュアル(土木学会)」などを参考にして保全方針を立案し、事業を進める必要がありました。
既設塗膜は基準値以上の鉛が含まれているため仮囲いを行ったうえで、湿式の剥離剤(パントレ)を使用して、有害物質の拡散を防止する対策を実施しています。また本橋梁は戦前にリベット結合を採用していることからできる限りリベットを残し補修を行う(リベット再施工下請け成和工業)ことで技術の継承に努めています。現在は塗装および補修工を施工中です。塗装の素地調整についてはブラストではなく二種ケレンを採用しています。
損傷状況
塗膜剥離材(パントレ)を用いた既設塗膜の剥離状況
長浜大橋の上塗り状況
設計は芙蓉コンサルタント、補修工事は小手川工業、塗装工事は井上塗装工業の各社に担っていただいています。
本県では横断歩道橋の補修も進めています。例えば、主要地方道壬生川丹原線の西条市内に架かる堀越横断歩道橋では、法定点検の結果、主桁、床版継手部に小規模な腐食が確認され、主桁内部、全橋脚の梁部に広がりのある防食機能の劣化が確認されました。現在は主桁内部に外部から水が浸入した形跡はありませんが今後も経過観察が必要であると考えています。また、蹴上部に広がりのある著しい腐食も確認しており、現時点では歩道橋の機能に支障は生じていませんが、早期に措置を講じることが望まれることから、補修と塗装の塗替えを行いました。
PCBや鉛など有害物を含有する既設塗膜の処理については、原則として湿式工法の中から選定しています。また、ばく露防止対策は仮設工に計上、呼吸用保護具(電動ファン付き粉塵用呼吸保護具など)は安全費に積み上げ計上するなど、塗装の除去工法に関しては適法かつ経済的な工法を決定し、必要に応じて労基署と協議しています。
こうした塗膜除去の上で、基本的にはブラストによる1種ケレンで素地調整して塗替えを進めることにしています。鉛やPCBが含まれていない橋梁については、基本的に3種ケレンで対応しています。
耐候性鋼材の一部で腐食
当て板とブラストを併用して塗装処理を施す
――耐候性鋼材を採用した橋梁の維持管理状況は
近藤 Ⅲ判定となった橋梁は、主要地方道伊予松山港線の伊予市内に架かる新川橋、一般県道中山砥部線の伊予市内に架かる平成橋、一般県道鳥井喜木津線の伊方町内に架かる柿ヶ谷橋などがあります。
新川橋は1993年に架設された耐候性鋼材を使用した橋長32.5mの単純合成床版橋です。鋼材表面に幅10mm程度のうろこ状の錆が確認されています。過年度の補修設計業務の詳細調査結果において、著しい板厚減少は見られませんでしたが、塩害環境下で安定錆が形成されていない状態にあります。
新川橋の損傷状況
平成橋は93年に架設されたプレートガーダー橋ですが、橋座周辺の主桁や支承に健全な安定錆が形成されておらず、腐食による板厚減少が見られています。
柿ヶ谷橋は、3径間の鋼鈑桁橋ですが、格径間の床組鋼材(横桁、横構のガセット部周辺)に層状の腐食を確認しています。範囲は局所的ではありますが、鋼材の隅部に著しい断面減少が確認されています。
こうした腐食を伴う錆が生じている場合はブラストして錆を落とし塗り替えようと思っていますが……。
橋脚や地覆部は補修している
――耐候性鋼材の錆びは硬く、ブラストではなかなか落とせませんよね
近藤 そのためブラストと、板厚が著しく進行している個所については当て板を併用し、その上で塗装を行うことにしています。
異常気象への対応 道路法面対策は緊急輸送道路を優先
河川部局との連携も重要
――全国的に生じている異常気象によって、道路も大きな被害を受けています。愛媛県もその一つであり、西日本豪雨による被災は記憶に新しいところですが、県として道路に面している斜面や古いのり面、橋梁の洗掘対策などをどのように行っていくのか教えてください
近藤 県管理道路の法面については、2018年度までに自然斜面を含む全箇所が対象とした道路防災点検を実施し、地形・地質などの要因、対策工の状況、落石などの履歴などについて対策の要否を判断しています。要対策と判断された箇所では、緊急輸送道路を優先的に落石防護工などの整備を順次進めています。ただ、その数は多く(2,588箇所)、全てやるのは時間がかかるため、緊急輸送道路に焦点を当てて事業を進めています。また土地取得も必要な箇所があり、その所有者を調べたり予算的手当てが多く必要になる場合もあります。そうした事態を防ぐため、土地を買わずとも対策できる道路側で対応できる工法の選択も検討しています。
とりわけ、グラウンドアンカー工については、2020年6月に国道380号内子町寺村において、地滑り対策のアンカーが破断し、斜面崩壊が発生するなど、年月の経過に伴い、部材の劣化や地盤の変形が進行し、整備当初の機能が発揮できていないものが出てくる可能性があります。そのため、23年度以降、定期点検および措置に取り組むことにしています。
グラウンドアンカーの損傷状況
法面崩落状況
法面対策状況(グラウンドアンカー工)
――河川部局との連携はどのように考えていますか
近藤 各出先機関(土木事務所)では職員のパトロール結果について、道路維持課のデータであろうと河川部局のデータであろうと管理課というセクションが一体的に管理しており共有しています。しかし橋で申し上げますと、定期点検の時に橋台、橋脚の洗掘状態も確認しなければいけませんから、その中で河川護岸でも異常があれば、伝えることが出来ますし、その逆もありうると思います。
――河川下部工の洗堀防止対策を増杭や根固め工の設置を予防保全的に行うことなどは考えていませんか
近藤 新設橋梁については、今後そうした洗掘も考慮に入れた設計や施工は行っていくと思いますが、保全については古い橋ともいえども、予防保全的に行うことはなかなか難しいですね。但し定期点検で洗堀が見つかった個所には何らかの対策が必要でしょうし、場合によっては架け替えも選択肢に入れる必要がありますね。
――新技術やコスト縮減策または県独自の新技術・新材料などの活用について教えてください
近藤 県では、今年度に南予建設部において、発注する国道320号と国道197号の6トンネルにおいて、走行型点検車両を用いたトンネル定期点検委託業務を発注したほか、橋梁点検業務においては「点検ロボットカメラ」や「かんたんひび割れ調査システムオートくん」などの新技術の活用を予定しています。こうしたICTを点検分野に使っていかないと、労働人口が減っていく状況に対応できないと考えています。
――ありがとうございました