2022年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑫日本鉄塔工業
今年5月に「創業100周年」 鋼材価格の上昇が大きな課題
日本鉄塔工業株式会社
代表取締役社長
有田 陽一 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。最終回となる今回は、日本鉄塔工業の有田陽一社長と日立造船の鎌屋明執行役員の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境と現状について
有田 当社は、今年5月に創業100周年を迎えることができた。ひとえにお客様、サプライヤーや取引先、社員やその家族など大勢の皆様に支えられての100年間であり、まずは紙面をお借りして心から感謝を申し上げたい。
業界の現状では昨年9月末に、福岡市の天神ビッグバンの「規制緩和第1号」となる天神ビジネスセンター(右写真)が竣工した。当社はこのうち外観上最も重要なポイントとなる高難度箇所を施工した。成長著しい福岡市の新たなランドマークとなるビルの竣工に貢献できたことを嬉しく思っている。
橋梁では、大阪湾岸道路西伸部プロジェクトに期待を持っている。また、新設分野のみならず保全分野の重要性がますます高まっている。さらに、激甚化する災害への対応も喫緊の課題である。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に沿って課題解決に取り組んでいきたい。
大きな課題として鋼材価格の上昇がある。業界として、採算への影響を注視する必要があろう。
――昨年度の業績は
有田 橋梁では関東地整「圏央道館野高架橋その2」、中部地整「1号清水立体尾羽根第2高架橋」、福岡県「国道422号宮ノ尾橋」、九州地整「県道人吉水俣線西瀬橋上部工復旧工事」などを受注した。
このうち西瀬橋は、令和2年7月豪雨による球磨川(熊本県)の氾濫で被災した橋梁のうち、国土交通省が復旧を行う10橋の中で最初の本復旧工事となる。現在、応急組立橋を設置して交通を確保しているが、健全な部分を活用することで、被災した1径間分の本格復旧を目指す工事である。地域社会の生活の早期復興に向けて全社一丸となって最優先で取り組んでいる。
――今年度の見通しは
有田 新設橋梁の発注量は昨年度と同水準となるものと見込んでいる。技術提案や積算精度の向上に努め、着実に受注につなげていきたい。また、保全工事の比率がより高くなることを想定して、これまで以上に保全工事への取り組みを進め、独自開発の特許技術などを活用したマーケティングに取り組んでいく。
当社が参画した沖縄総合事務局「平成31年度数久田ICオンランプ橋鋼上下部工事」が先日、全建賞を受賞した。本橋を含む名護東道路は、沖縄自動車道と接続し、北部地域と那覇空港や那覇港などの広域交流拠点を結ぶネットワーク道路である。名護東道路の開通により、北部地域の活性化や名護市街地の交通混雑緩和が期待される。微力ながらその一翼を担えたことを名誉に思う。同じく全建賞を受賞した新阿蘇大橋とあわせ、社員の働きや協力関係者の貢献が評価されたことに感謝申し上げたい。
――今年度の重点活動は
有田 設備投資、研究開発では環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のESGを重視したい。「環境」では、気候変動問題への対応だけでなく、廃棄物の削減、水資源の有効活用などに積極的に貢献したい。「社会」では、多様性や格差、労働問題といった社会課題を解決する責務を果たしたい。「ガバナンス」では、一寸の隙もない誠実・健全経営を継続していく。
――材料・副資材など価格上昇への対応策は
有田 昨年から高騰していた材料・副資材だが、今年に入っても、ウクライナ情勢、原油をはじめとするエネルギー価格高騰などにより、値上げが継続的に行われている。企業努力で吸収できる範囲を大幅に超えており、お客様に粘り強く説明し、ご納得頂く努力をしている。
――DXへの取り組みは
有田 コロナ禍で社会一般にウェブ会議が普及し、業務はパソコンさえあれば、どこでもできるようになっている。
当社は、社員の健康を第一に考え、新型コロナウィルス感染拡大の初期に、社員の誰もがどこにいても効率的に業務可能な環境を整備した。お客様や取引先との面談では原則、ウェブ会議を用いることとしている。結果的に、コロナ禍前よりも面談、商談の機会が大幅に増加した。さらに国際的な商談の場も増やすことができている。
(聞き手・大熊稔、文中・敬称略)