2022年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑥JFEエンジニアリング
海外大型案件が漸く出件に ICTリテラシーの底上げを
JFEエンジニアリング株式会社
取締役専務執行役員 社会インフラ本部長
川畑 篤敬 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。3回目は、JFEエンジニアリングの川畑篤敬取締役専務執行役員と川田工業の川田忠裕社長の記事を掲載する。
――業界を取り巻く需要環境・業界の動向は
川畑 21年度の国内新設鋼橋の発注量は18万tで、ほぼ横ばいとなった。今年度は20万tを期待している。更新などの保全事業は年々増加傾向にある。この傾向は今後も続くとみており、高速道路を中心に大規模更新が期待され、今年度も21年度より発注量は増加すると予測している。
ただ、新設橋梁がないと工場稼働率を維持することが難しい。当社でも津製作所の操業を維持するため、海外橋梁をはじめ、セグメント、海洋構造物、コンテナクレーンなどを製作している。
――今期の状況は
川畑 今年度の目標は受注高約720億円で橋梁約590億円、その他約130億円。売上高は約750億円で橋梁約630億円、その他約120億円。
なかでも、高速道路の特定更新等工事は2015年度から15年間の計画で開始され、現時点での事業総額は約5兆4,000億円と当初比134%増となっている。折り返し地点を迎えるが、今後、補修補強工事や床版取替工事がピークを迎えると見込んでいる。
上半期では、R4圏央道三坂新田高架橋上部その2工事(関東地方整備局)、新名神高速道路富野高架橋(鋼上部工)工事(西日本高速道路)、東北自動車道天狗橋耐震補強工事(東日本高速道路)、東北自動車道白岡宮代線橋(鋼上部工)工事(同)などを受注した。
――海外事業については
川畑 コロナ禍で過去2年間程度停滞していたODA案件の発注もついに始動、南アジアや東南アジア、アフリカなどで100億円超の大型案件の発注が予定されている。過去に応札した案件の契約交渉も進み始めており、市場環境面ではようやくコロナ禍から脱却し、正常化がみえつつあると感じている。
上半期では、ガーナ共和国のガーナ道路公団から「第二次テマ交差点改良工事」を受注した。スリランカやモンゴルなど海外での立体交差橋梁の施工実績や建設技術が高く評価され、受注に至った。今後もアジア・アフリカ地域を中心に新規案件に対応していく。
ミャンマーのJ&Mスチールソリューションズでは政変以降も駐在員や現地社員の安全に対して最大限配慮をしつつ、国内向け事業を中心に事業継続している。とりわけ、国内の架設や施工など現場業務、加工図や詳細図作成などのエンジニアリング業務にも注力している。
ケラニ高架橋(スリランカ)
――今後の展開は
川畑 ここ1~2年はアジアやアフリカなどで鋼橋を採用したODA案件の発注が見込まれている。その先の市場は不透明感があることから、各方面と共同して市場規模の拡大を図っていく。高耐久・短工期などの鋼橋の優位性について発注者やコンサルタントへ理解を促し、採用を推進するための活動を展開していく。
――DXの推進については
川畑 DX教育には力を入れている。昨年度は現場勤務の若手担当者50人を本社に集め、ドローンを用いた点群計測、ARによる部材確認、CIMを用いた施工シミュレーション手法などについて実習を実施した。今年度はさらに内容を充実させ、「画像認識AIを用いた高力ボルトの締め付け検査システム」などの各種ツールのハンズオン実習を行う。組織全体のICTリテラシーを底上げすることで現場発のアイディア創出や組織文化の変革につなげていきたいと考えている。
――その他には
川畑 キャリア技術者の不足が喫緊の課題といえる。キャリアは新設橋梁の設計から架設・施工までの経験を積み重ねることにより蓄積されるもの。多種多様な形式の橋梁建設に携わることにより、大規模更新や改修工事にも必要な経験を積み、求められる人材となる。社会インフラとしての重要性はもちろん、技術の伝承やキャリア技術者育成のためにも長大橋の建設は必要といえる。
(聞き手・佐藤岳彦 文中敬称略)