当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。3回目は、川田工業の川田忠裕社長とJFEエンジニアリングの川畑篤敬取締役専務執行役員の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境について
川田 公共事業ではここ数年、新設橋梁全体の発注量が20万tを下回り、やや低調な状況が続いている。民間工事では当社が建築鉄骨のターゲットとしている大型物件はおおむね計画通りに推移している。ただ、原材料費や燃料費、輸送費等の高騰や、設計段階での遅れが懸念材料といえる。
――今年度の状況は
川田 橋梁の発注量はほぼ横ばい、建築鉄骨の発注量はやや上向くとみている。新設橋梁は受注競争が依然激しい情勢にあり、現時点では高速道路会社や地方自治体の工事を受注できたものの、満足できる状況ではない。また、保全・改修工事の割合が増加しており、今後もこの傾向は続くとみている。
建築鉄骨については、首都圏を中心に大型再開発計画が始動するとともに、札幌、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏でも大型プロジェクトが計画されている。さらに、西日本地区での半導体工場なども出件しており、当面は堅調に推移すると見込んでいる。引き合い案件は多く、山積み面では悪い状況ではないが、いつ期ずれが起こるか分からない状況にあることから、慎重に進めているというのが現状である。
収益面は鋼材費を中心とした原材料費や、燃料費、輸送費などの高騰による原価の増加などから減少すると見込んでいる。
ただ、ここ数年、大型工事を受注できたことから、工場操業率は再来年までは順調に推移する。
――設備投資については
川田 栃木工場では生産性向上、生産品種の拡充を図るため、昨年から生産ラインをはじめ全体レイアウトの見直し、4面ボックスラインの増強、拡張などを引き続き進めている。これにより作業効率がアップし、生産能力が向上すると考えている。
――DXの取り組みについては
川田 川田グループが持つIoT、AI、ロボティクス関連技術について、現場や工場のニーズにマッチングさせることを心掛けている。
データ整理などの単純な繰り返しで行われる作業をロボットで自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の活用も積極的に展開している。例えば、数日かかっていた作業が数時間で完了することもある。それらの活用成果を社内でオープンにし、他部門でも応用展開できるようにしている。
また、現場と店社が連携し、現場で写真や音声などにより作成したデータを店社で書類化する作業も開始して成果が出始めている。さらに人型ロボットを活用し、工場での受付業務や現場や工場での品質・出来形管理業務へ応用し、効率化を図る展開を積極的に進めている。
現場アバターロボットとパイロット(洗地川橋(下り)で使用)
数久田ICオンランプ橋(左)/新阪本橋上部工事(右)
――新技術・製品開発については
川田 画像処理によって溶接部を可視化するXDR溶接部可視化技術を開発した。この技術を溶接マスクに組み込むことで、溶接者の視野を多数で共有することが可能になった。溶接技能教育のDXを目指し、社内利用および事業化を推進中である。
――海外事業については
川田 日本市場だけでは生き残ることが厳しいことから、海外事業展開を進めるための検討を開始した。本年、北米と東南アジアに出張し、現状を視察してきた。どう具体的に進めていくかはこれから検討する。地政学的なリスクヘッジも考慮しながら、ローカルパートナーとの協業や技術支援なども視野に入れている。
――このほかには
川田 本年5月にグループ創業100周年の大きな節目を迎えることができた。いろいろな方々に支えていただいたからこそであり、大変感謝している。当グループは自分たちのスキルを使い、お客様のご要望に応えられるよう技術を培ってきた。これからもこの気持ちを忘れず、社会のニーズに技術で応えていくという考え方で進めていく。鋼構造物ならば、橋や建築鉄骨以外でも工場の技能者が腕を振るえるものがあるなら、チャレンジしていきたい。
これからはグリーン&デジタルを会社の進むべき道としてシフトしていく。創業の頃からの変わらない姿勢で、変化を恐れず、常にチャレンジを続けていきたい。
東京ミッドタウン八重洲
富山1号倉庫新築工事/東京都北区立王子第一小学校新築工事
(聞き手・佐藤岳彦、文中敬称略)