2022年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ②IHIインフラシステム
鋼橋需要は堅調の見通し 塗装工場が完成、効率化に
株式会社IHIインフラシステム
代表取締役社長
上田 和哉 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。1回目は、IHIインフラシステムの上田和哉社長と、横河ブリッジの吉田昭仁社長の記事を掲載する。
――2021年度業績は
上田 業界全体でみると、鋼橋の発注は18万t台にとどまった。当社の売上高は約600億円、純利益は約33億円となり、20年度比では売上高が17%増加したが、純利益は25%減少した。21年度は20年度に続いて国内橋梁の受注金額が伸びた。一方、コロナ禍により鋼材価格や海上輸送費が上昇するなど生産コストが増大し、純利益に影響した。
――今年度の見通しは
上田 22年度の鋼橋発注は20万tを超える見通しだ。大阪湾岸道路西伸部事業のほか、高規格道路の4車線化工事もあり、今年度、来年度は堅調な需要が見込めると想定している。
コロナ禍以降、止まっていた海外の新規案件の入札も今年度から動き出した。アジアやアフリカのODA案件などで、受注につながることを期待している。
ただ、中長期的には新設鋼橋の需要は減少していく見通しのため、保全事業をはじめとする他の事業も拡充していく必要がある。近年は大雨による水害も増えていることから、災害時に早期復旧できる橋梁の需要もあり、受注を増やしていければと考えている。
――保全事業について
上田 海外では鋼橋新設時に、完成後の保全事業も含めて発注する形態が多く、国内でも将来的にはこうした発注形態に変わっていくことが予想される。海外での施工経験で得たノウハウをもとに、将来的な保全も含めた提案ができる体制づくりを進めていきたい。
近年は関連会社のIHIインフラ建設とともに、既存の社会インフラの維持管理や保守点検、緊急時への備えなどの提案も強化している。
具体的には、橋梁の点検業務から補修工事の発注までを支援する統括マネジメントシステム「BMSS」や水門点検支援システム「GBRAIN」を提案。また、大雨による橋梁の崩落に備え、短期間に緊急車両が通行できる復旧用の橋梁をIHIインフラ建設では受注している。今年度からは農業用水門の効率的な維持管理を目的とした研究開発を他社と共同で進める。
技能者の高齢化や人手不足が進むなか、社会インフラの維持管理を効率化するとともに、非常時への備えを強化することが重要となっている。国の進める社会インフラの維持管理対策と協調しながら、民間企業としても提案を進めていきたい。
2022年2月末に竣工した上平井水門耐震補強工事(発注者:東京都)
――設備投資について
上田 工程管理の効率化を目的として、堺工場の北ヤード部分に建設を進めていた塗装工場2棟がこのほど完成した。
屋根付きの塗装作業場はこれまでにもあったがキャパシティーが少なく、雨天時には塗装作業を中断せざるを得ないことも多かった。塗装工場の完成により、天候による工程阻害影響が軽減でき、工程管理の効率化につながった。
このほか、堺工場内に新事務所の建設を進めており、来年初夏に移転入居の予定だ。IHIインフラ建設も入居する。これにより、事業構造改革の加速、成長事業の収益拡大に向け、関連会社も含めた社内の連携強化、人材の交流やノウハウの共有化などを進めていく。
――今後の取り組みは
上田 長期間の保守点検も含めた橋梁建設の提案にはBIM活用の推進が不可欠だ。関係者間でひとつのモデルを共有する体制づくりは海外のほうが先行しており、国内でも率先して推進していければと思う。海外での現場施工で培ってきた技術力やノウハウは、国内での事業により生かしていきたい。
一方、海外事業では海上輸送費の増大や為替変動などもあり、こうしたリスクへ対応していくため、情報を先取りして迅速な判断を下す必要がある。現地エンジニアリング会社とのパートナーシップを構築し、長期の事業展開を見据えた「地場産業化」をさらに進めたい。
熟練のとび職人などの技能者が持つ知恵は、安全かつ確実な施工に欠かせない。将来的に現場施工業者の技術やノウハウを数値化し、伝承できる仕組みを作っていきたい。
(聞き手・八木香織、文中敬称略)