橋梁、トンネルの更新だけでなく、耐震や巨大岩塊の除去も担う
NEXCO東日本長野工事 上信越・長野道のリニューアル専門事務所
岩塊除去の際の落石を防護するために仮設のロックボルトを1,200本設置
東京側坑口に配置した仮設桟橋延長は実に480m
――ここまでで5年ですか……
小暮 現場が急峻山地なため、アプローチの確保が大変でして、仮設構造物構築に時間を費やしています。本当に慎重にやらねば大きな事故に至ってしまう現場なのです。
表面には絶対に落石を生じさせないように岩塊除去の際の落石防止のためのロックボルトを約1,200本設置しています。足場だけで16億円、仮設だけで180億円を費やしています。また岩塊を除去する箇所まで高さがあるため、2台のダンプを同時に運ぶことが可能なインクラインを岩塊の裏側に設置して(延長は実に150m!!)除去工事がスムーズに進むようにしています。崩すのはあくまで背後からです。背後は落石が起きても岩塊がトンネルなど第三者被害箇所には絶対に到達させないようになっています。
北野牧工事の現況(長野側坑口)/仮設足場兼防護を岩塊の上まで立ち上げていく
――長野側坑口にも配置したクレーンは何に使うのですか?
小暮 仮設ロックボルトを設置するための斜面足場や防護柵、シェッドなどを設置するためのものです。今後ロックボルトを施工するために1年弱かかりますので、背面から本格的に掘削するのは来年の6月ぐらいになります。このように仮設でロックボルトを1,200本も打ったことはかつてありません。
――東京側に作った工事用道路の長さは
小暮 480mほどです。全て仮桟橋構造です。場所によっては施工効率を上げるためLIBRA工法を採用しています。通常は5~6mに1か所杭を打ち、その上に桟橋をかけますが、その杭間隔を倍の約12mに伸ばして架設に要する期間を短縮できるような施工計画にしています。
一部の仮桟橋ではLIBRA工法を採用した
――防護足場は
小暮 間隔を短くして少し部材を太くしています。通常の橋梁工事で使っている足場よりは若干ごついものを用いています(3Sシステム)。
落石対策工法概要図/長野側工事進捗状況
ロックボルトとロックシェッドの二重防護
トンネルの高さから60mを防護 削岩機はビッガーを採用
――長野側の下り線直上にロックシェッドも設けていますが規模は
小暮 3×5mで屋根にクッション材が入っています。大きい落石の恐れはロックボルトで抑えて、それでも削岩時に生じるかもしれない小さな落石に対してロックシェッドで防護するという二段構えを考え ています。
防護兼ロックボルトを打つための足場は現状よりもさらに上がっていきます。上までエレベーターを付ける予定です。(一番下から)山頂までが70mぐらいあります。トンネルの高さからでも60mはあります。そのため足場も特殊なものを使っています。橋梁で使っているような足場ではありません(日綜産業製)。ピッチが短い、くさび式足場を用いています。
北野牧工事の現在の進捗状況
――削岩機は何を使うのですか
小暮 圧入破砕のビッガーです。大型ブレーカーで崩してもいいのですが、岩盤内部の挙動が把握しきれないため、なるべく振動を与えないようにしたいためです。
――今は表面の防護と仮設設備の設置を行っているということですね
小暮 そうです。
――掘削に要する時間は
小暮 約10万㎥全部掘削するのに約3年を見込んでいます。さらに仮設備をすべて取り除くのに2年かかるため、掘削開始後はさらに5年程度施工に要する予定です。
――掘削後の斜面はどのような対策を施すのですか
小暮 落石のゆるみ領域を崩し、安定勾配で切り崩し表面はコンクリートの吹付です。アンカーなどは打ちません。
――施工会社は
小暮 大林組です。
蓬平 1,600本の土留めアンカー設置も変状続く
本線はカルバート設置して防護し、抑え盛り土で安定化
――次に蓬平のリニューアル工事の概要と進捗状況を教えてください
小暮 同工事は本線を供用するにあたって、本線の右手に大規模な斜面があり、ここを切り土したところ、地滑りのような形の変状が起きてしまいました。その対策として約1,600本のグラウンドアンカーを打ち込み補強したのですが、その後も変位が続いている状況にあり、あるいはアンカーが突き出るような現象も出てきました。そのためアンカーだけで対策することは難しいと判断し、有識者委員会を開いて検討した結果、本線はカルバートを構築し、変位している個所は自然法面に戻すことで安定化を図ることにしました。現在は、本線上にカルバートの構築を行っているところです。
グラウンドアンカーの突出
蓬平地区動態観測平面図
――問題となる切土の岩質はどのようなものだったのでしょうか
小暮 一部凝灰岩と頁岩の互層で、カルバート構築のために部分的に既設の大型ブロックを取り壊したところ地山が劣化している状況が見えました。やはり劣化する地質なのかなぁと感じました。頁岩や凝灰岩が卓越している地形で、かなり風化や亀裂が進んでいました。ブロックのところでちょうど撤去しようとしたら、かなりがさがさとしているので、取り除いた後、速やかに切土補強と吹付けを行いました。
切土法面における安全率の設定
――工事延長や工事の進め方など詳細を教えて下さい
小暮 対象となる施工延長は538mで、そのうち門型ラーメンカルバートを設置して抑え盛り土を施工する区間は291mです。その他仮設土留め工も1,440㎡施工します。
門型カルバートの標準断面図/STEP図(クリックして拡大してください)
工事は、まずリニューアル工事を行うための支障となる、坂城町管理の御所沢橋という跨道橋を撤去することから始めました。御所沢橋の撤去完了後は、門型ラーメンカルバート構築にあたり、本線(上下線)を下り線側に約4.4mシフトする必要があるために、仮設土留め工を行いました。下り線側の第1のり面を掘削後、2018年10月からH型鋼打設に着手し、翌年1月上旬には完了しています。
H型鋼(H-350)は、バイブロハンマーをクレーンで吊下げ、振動力をH型鋼に加えて周辺摩擦力・先端支持力を低減させて地中に慣入させる「バイブロ工法」を用いて、166本を長さ9~12mで打設しました。坂城町管理の蓬平橋の下は杭頭制限があるため、鋼管(D508)を8mの長さで9本打設しています。
その上でカルバートを設置するための基礎となる鋼管杭を打設しました。
鋼管杭の打設および躯体の構築状況(上り線)
鋼管杭の打設および躯体の構築状況(中分)
鋼管杭 杭径は上下線の両側がφ1,000mm、中央は1,500mmを使用
ジャイロプレス工法を採用することで交通への影響を避ける
――鋼管杭の杭長および杭径はどのくらいですか
小暮 杭長は15mとそんなに深くありません。継手は溶接にて行います。杭径は上下線の両側が1,000mm(杭本数は上下合計で436本)、中央が1,500mm(同170本)です。供用しながら非常に狭小なヤードで施工しなくてはいけないため、杭の搬送・吊込み・圧入という連続作業をすべて完成杭上で行うことができるジャイロプレス工法を用いて施工しました。車線は最大4.4m程度シフトして、供用線への影響を絶対に避けるような形にして工事を進めました。その次に各基礎の上に門型のポータルラーメン構造のカルバートを構築します。
施工ステップ図
壁部分は現場打のRC構造、屋根部分は鋼合成頂版を採用
鋼重は約2,800t、コンクリート打設厚は120cm
――ポータルラーメン構造という事ですが、壁や頂版の構造と施工方法を教えてください
小暮 壁部分は現場打のRC構造で、上り線の壁の躯体構築は8月に完了しており、順次中央部、下り線についても躯体構築を行っていきます。
カルバートの壁部分が完了すれば屋根部分は鋼合成頂版の底鋼板に当たる部分を上部に設置していきます。
――架設方法は
小暮 トラッククレーンを用いて柱の間に鋼製の蓋をしていくような形で架けていく手法を用います。架設する幅は10mほどです。
――頂版部の架設の際は、規制が重要ですね
小暮 長期の交通規制になってしまうので、一旦車線を寄せて対面通行規制を行い、施工しようと考えています。
――ラーメン構造という事ですが剛結はどのように行うのですか
小暮 真ん中の柱にT型の型枠代わりの桁が来て、L型の部材で繋いで剛結します(中央部に構築した中壁丁部にT型鋼製部材を、上下線路肩部に構築した側壁丁部にはL型鋼製部材を設置し部材同士を剛結することで門型カルバートを構築します)。
――そして鋼合成頂版の底鋼板の上に生コンを打設していくわけですか
小暮 そうです。底鋼板は鋼床版の下に剛性を上げるH鋼がついている構造と考えて下さい。それを添接板で止めていく構造です。つなぎ目からの漏水が起こることが懸念されるため、シリコーン材などを使ってつなぎ目を埋める漏水対策をしっかりと行っています。
――底鋼板の上にはジベルやリブがあるのですか
小暮 生コンはあくまで間詰材として用います。その後の埋め戻し盛土に対する荷重は主に鋼桁部材が対応します。橋梁床版と違い輪荷重がかかるわけではないので、そうした部材は必要ありません。ただ壁の立ち上がりと桁と言われているものはしっかりと接合する構造にしています。
――頂版上の生コン打設の厚みはどの程度になりますか
小暮 120cmほどです。もともとコンクリートのボックスカルバートを作りたかったのですが、頂版の現場打ちが必要になってくることから、頂版という形の型枠を作り、それを足場代わりに使ってコンクリートを打設したほうが合理的になると考えました。生コンの打設は上下線で一発打ちします。
――鋼製部材の鋼重は
小暮 約2,800tです。
抑え盛土量は約18万㎥に達する
千曲川の浚渫土や各種造成工事で生じた土を使えないか調整中
――この上に載せる抑え盛土の量は
小暮 約18万㎥(342,000t)です。元の山の形の3分の2にもどるイメージです。
着手前全景写真(左)と完成後イメージ(右)
――運転する利用者によってはトンネルのようなイメージですね
小暮 そうです。トンネルと同様の設備を設けます。
――盛り土はどこから持ってくるのですか
小暮 北野牧の岩塊除去の現場でも掘削土が発生しますが、現場までは遠いので、台風19号の豪雨災害によって新たに計画されている千曲川の河川拡張工事の発生土や各種造成工事で生じた土を使えないか調整中です。現在の設計は北野牧の岩塊を約10万㎥運んで盛ることを考えていました。しかし工程が少しでもずれると仮置き場所の確保などが必要になってきます。そのため経済性や効率性の観点から若干の見直しが必要です。現在では公共残土を受け入れた方が良いと考えています。現在協議中です。
――完成目標はいつ頃ですか
小暮 あと3年程度はかかると考えています。今秋から上り線を対面通行規制にして、下り線に鋼合成頂版の架設・打設を行い、来年春には同様の規制を行い、上り線の鋼合成頂版の架設・打設を行う予定です。それがスムーズに施工できれば、工事の完了が見えてきます。
――施工会社は
小暮 フジタとエム・エム ブリッジのJVです。