橋梁、トンネルの更新だけでなく、耐震や巨大岩塊の除去も担う
NEXCO東日本長野工事 上信越・長野道のリニューアル専門事務所
NEXCO東日本長野工事事務所は、上信越道富岡IC~信濃町IC間約147kmおよび長野道安曇野IC~更埴JCT間約43kmのリニューアル専門の工事事務所として昨年10月に新設された事務所である。この種の工事事務所は関東支社では初めての事務所で、NEXCO東日本全体でも札幌工事事務所に次いで2例目となる。現在は橋梁の床版取替工事やトンネルのインバート設置工事に加えて、蓬平地区においては脆弱な法面に面する切土にカルバートを設け、抑え盛り土をかぶせて疑似トンネル化する工事、軽井沢近くの北野牧ではトンネル坑口に面する崩落危険性のある岩塊を取り除く工事も進めている。ほか、特殊長大橋の耐震補強の進捗も含め管内の詳細について小暮英雄初代所長に聞いた。(井手迫瑞樹)
2路線合計190km 膨大なリニューアル事業を専門的に担う
――まず、事務所の概要から教えてください
小暮 当事務所は、上信越道と長野道の一部、上信越道富岡IC~信濃町IC間約147kmおよび長野道安曇野IC~更埴JCT間約43kmまでを所管しています。富岡IC~下仁田ICまでは、国道254号に並走して、丘陵地帯を西進します。下仁田ICからは妙義山を左手に見つつ、松井田妙義IC付近から国道18号と並行して横川SAを通過し、このあたりから線形が厳しくなってきます。
この付近が妙義荒船佐久高原国定公園内で、急峻な山間をトンネルや橋梁の連続した構造物群で縫い、建設時に難航を極めた日暮山トンネルや、群馬・長野の県境に位置する最長かつ最高標高点の八風山トンネル(延長3,998m、標高932m)等の長大トンネルを抜けると、目前に佐久平を一望できる佐久平PAに至ります。
その後、右手に浅間山を仰ぎつつ、山麓を抜け、小諸市、上田市に入ります。上田市から太郎山を貫いて坂城町に入り、さらに五里ヶ峰などの山岳地帯をトンネル群で貫いて千曲市に入ります。更埴JCTから北上をはじめ、千曲川と沿うように長野市・須坂市を通過し、水田地帯やリンゴ畑を抜けて小布施町を経て、山間部をトンネル5本で抜け、信濃町の丘陵地に至ります。
関東地方と長野県北信地方、新潟県上越地方を結ぶ高速道路の最短ルートとなるため、関東北陸間の物流の動脈としての役割も担う路線です。
――今までは長野管理事務所と佐久管理事務所が所管していましたが
小暮 この二つの区間は合計190kmに達します。その区間のリニューアル工事が今後膨大になることから事業を確実に遂行するための事務所として昨年10月に開所しました。NEXCO東日本管内では札幌工事事務所がこの種のリニューアル工事専門事務所として該当しますが、関東支社管内では初めてで、管理時代の工事事務所といえます。担当区間は延長に占める橋梁やトンネルの割合が非常に多く、高速リニューアルが生まれてくる素地が大きいといえます。内容は橋梁更新(床版取替)、土構造物補修(落石・地滑り対策)、トンネル補修(インバート設置)、橋梁耐震補強、スマートインターチェンジの新設工事などです。
340橋、76チューブの構造物
橋梁は2橋、トンネルは28チューブが1km超
――具体的な構造物の内訳を橋梁から
小暮 長野工事事務所管内では、340橋の橋梁と76チューブのトンネルがあります。
橋種別ではPC橋が152橋と全体の44.7%を占め、次いで鋼橋が146橋(42.9%)、RC橋が42橋(12.4%)となっています。橋長別では50m以下が、130橋と38.2%を占めますが、100m以上の長大橋も159橋に達します。1kmを超える橋梁も2橋あります。供用年次別は31年~40年が14.1%を占め、21年~30年が81.8%、20年以内が4.1%です。路線別では上信越道が250橋と7割以上を占めています。
――同様にトンネルは
小暮 トンネルの工法別ではNATM工法が74チューブとほとんどを占め、残り2チューブも開削工法であり、在来矢板工法で建設したトンネルはありません。延長別では1kmを超えるトンネルが28チューブと全体の3分の1を超えています。さらに501~1,000mが20チューブ、251~500mが17チューブとなっています。
供用年次別では、21~30年が59チューブと全体の4分の3を超えています。次いで11~20年が14チューブ、31~40年が経過したトンネルも3チューブあります。
橋梁は44橋、トンネルは44チューブが健全度Ⅲ
凍結防止剤に含まれる塩分の浸透が劣化の大きな要因
――構造物の定期点検結果はどのような結果を示していますか
小暮 補修対応が必要な健全性Ⅲは44橋(12.9%)で、供用後30年が経過すると、健全性Ⅲが増加する傾向にあります。健全性Ⅱは291橋で、健全性Ⅰは5橋しかありません。
トンネルは44チューブが健全性Ⅲとなっており過半数を越えています。供用後20年が経過すると増加する傾向にあります。健全性Ⅰは0、Ⅱは32チューブとなっています。
――部位別や路線ごとの劣化傾向について教えてください
小暮 健全性Ⅲの橋梁では、床版下面におけるひび割れ、浮き、剥離や、伸縮装置からの漏水による主桁端部に浮き、剥離といった劣化が多く発生しています。経年劣化のほか、凍結防止剤に含まれる塩分の浸透が劣化の大きな要因と推察されています。
――確かに寒冷地でもあり凍結防止剤由来の塩害による損傷は多そうですね
小暮 長野自動車道や上信越自動車道でも凍結防止剤の散布量は多く、長野自動車道での散布量は約1,100t/年(過去5年平均:H29~R3)上信越自動車道での散布量は約2,400t/年(過去5年平均:H29~R3)、また2050年頃には、管内すべての区間において凍結防止剤累計散布量は1,000t/㎞となると予想されます。梁の各部位に凍結防止剤由来の塩害が発生しています。特に劣化した伸縮装置からの漏水による桁端部の劣化が多いため、伸縮装置に止水材や樋の再施工の他、橋梁排水管による導水対策を進めています。塩害により劣化したコンクリートについては、内在塩分量調査を行い、ウォータージェット工法などにより塩分を含んだコンクリートを除去した後に、必要に応じて亜硝酸リチウムや塩分吸着材を混入させた断面修復材による部分補修を行っています。
伸縮装置からの漏水の他、舗装からの浸透により床版上面のコンクリートの剥離やこれに起因した舗装のポットホールといった劣化も発生しています。床版の劣化は、床版下面にひび割れや遊離石灰が発生していない場合でも、上面から進行している可能性があります。これらの床版劣化は、舗装補修の際に舗装を剥がして初めて発見されることもあり、舗装面から電磁波レーダーなどによる非破壊検査を行うことで、床版上面の劣化状況を把握し、合わせて上面の開削調査による目視、打音検査、塩分量調査を行い、床版取替を含め床版の補修方法を検討しています。
管内の中曽根橋の床版上面(左)および下面(右)の損傷状況写真
トンネルでは、経年劣化による覆工目地の劣化やひび割れ、剥離などが発生しています。また、地山が長期的に強度低下を示す岩種や膨張性を有する岩種である1988年以前に建設されたインバート未設置のトンネルでは、路面隆起などの変状が発生しています(いわゆる盤膨れ)。これらの対応として、インバート設置やロックボルト、炭素繊維シートによるトンネル覆工の補強などの対策を進めていきます。
トンネルは壁面の損傷や路面の隆起などが生じている
インバート未設置のトンネルは11チューブ、延長13km
更新事業全体の進捗率は予算ベースで14.5%に着手済み
――対策が必要なトンネルはどれくらいあるのですか
小暮 現在、対策が必要なトンネルは11チューブで、延長は13km、また、これらのトンネルのうち対策が完全に完了しているものはなく、急激な路面隆起に対応した部分的な200m程度しか対策できていません。
――さて、管内におけるリニューアル工事の進捗状況を教えてください
小暮 2022年3月末現在、事業全体の進捗率は予算ベースで着手済み14.5%、工事完了率0%という状況です。今後3年間では、土工改良2箇所、6橋の床版更新工事、8チューブのトンネルインバート設置工事を計画しています
北野牧工事 岩塊を10万㎥切り崩していく
落石の危険性のある岩塊表面に防護工施工した上で裏側から除去
――リニューアル工事について、まず土工改良工事からお願いします
小暮 まずは北野牧工事から紹介します。碓氷軽井沢ICの近くに北野牧トンネルがありますが、その長野側坑口の大規模落石対策を行っています。1996年の豊浜トンネル崩落事故を受け改めてのり面を点検したところ、さらに落石する恐れがあるのではないかと懸念されました。自然環境下における風化によって剥がれて落下する恐れと、震度5以上の中規模以上の地震でも落下する恐れがあることが有識者に参加していただいた委員会で明らかになったため、そうした恐れのある岩塊を取り除くための工事を行っています。
北野牧の現場位置図と岩塊の状況(NEXCO東日本提供、以下注釈なきは同)
――北野牧の岩塊除去の詳細について
小暮 北野牧の岩塊撤去工事(撤去量は約10万㎥)は、工事のためのアプローチ道路がようやくできた状況です。同地は北野牧トンネルの下り線長野側坑口がかかる、岩塊がある箇所の下を通っており、岩塊がトンネル際に聳え立っている状況です。岩塊を調査した結果、剥がれ落ちる危険性があることが分かったため、現地にはシェッドを設けています。
変状の詳細
岩塊は背面の東京側坑口側から掘りますがそれでも落石の危険性があるため、長野側坑口の落石の危険性がある岩塊の表面を覆った上で、東京側坑口側からアプローチして、裏面から岩塊を除去していく必要があります。岩塊のある箇所は、セパレートしている上下線の間にありますので、長野側坑口の上下線の橋梁間に軽量盛土と仮桟橋(プレガーダー工法を採用)で構成された作業台(桟橋A:295m 桟橋B:185m 桟橋D:93m 軽量盛土D:39m)を作って、クレーンを据えています。まず長野側坑口の表面を覆う防護工を施工していこうと考えています。ここまでに5年を要しています。
北野牧工事の施工内容(平面図)
同(鳥観図)