ジャストは、1972年7月に建築における鉄骨溶接部の超音波試験を行う会社として産声を上げた。その50年の節目となる今年、同社では43歳という若々しい角田賢明社長が就任した。若いが経歴は重い。慶応大学理工学部を卒業後、日本IBMに入社しITの現場で働き、さらに三菱UFJモルガンスタンレー証券ではM&Aを担当した。ジャストには2015年に入社し、18年10月に取締役、20年4月に代表取締役副社長を経て、6月に社長に就任したもの。建築の構造物検査・調査・診断では大きなシェアを有する同社であるが、土木も20年ぐらい前から、コンサルタントの下請けとして検査業務に関わってきたことはあまり知られていない。2015年には土木部を作り、さらに2022年7月には橋梁点検調書作成用のクラウドアプリ『タテログ』(クリックするとリンクに飛びます)を上市するなど土木分野の強化に力を入れる角田社長に就任の意気込みを聞いた。(井手迫瑞樹)
新築高層建築分野の検査業務シェアは7割に達する
各種非破壊検査の技術者も多数そろえる
――ジャストは、どちらかといえば建築分野の鋼構造診断専門会社として知られています
角田社長 当社は50年前、鉄骨溶接部の超音波試験を行う会社として創業されました。現在、新築高層建築分野の検査業務は約7割のシェアを有しています。
――技術者もかなりの人数を揃えています
角田 UT(超音波探傷)はL(レベル)3が91人、RT(放射線透過試験)はL3が25人、L2が38人、MT(磁粉探傷試験)はL3が11人、L2が79人、PT(浸透探傷試験)はL3が27人、L2が91人、ET(渦電流探傷試験)はL3が6人、L2が22人、それぞれ資格取得者がいます。
各種非破壊検査点検手法
――売上および分野別割合は
角田 2000年以降、売上に占める新築の割合が減り、既存構造物の維持管理の割合が増える傾向が続いています。現在は新築が3分の1、維持管理が3分の2をそれぞれ占めています。また、検査する構造分野として鋼だけでなくコンクリート構造分野も増加しています。それに伴い、コンクリート関連の資格取得者も増やしています。コンクリート診断士は46人、コンクリート技士は53人、一級建築士も30人まで増加しています。
技術者の育成だけでなく、X線照射装置(リガク製)や、電磁波レーダーを用いたコンクリート内部探査機(KEYTECおよびプロセク製)も多数導入し、ソフト・ハード両面の充実に努めています。
土木分野の人員も拡充 本社12人 全社36人体制に
2030年度には全社売上の1割 10億円目指す
――土木分野も充実させようと考えていると聞いていますが
角田 建築分野の非破壊検査で培ってきたこうした技術は土木にも十分活用できると考えています。20年以上前から土木分野の点検業務は行ってきていますが、下請けが主でした。しかし2015年に建設コンサルタント登録を行い、主に橋梁の点検および詳細調査、補修設計までを行えるようにし、本社のある神奈川県内の政令市や基礎自治体の業務を元請として積極的に受注するよう努めています。また、そのほかの地域においては、今まで同様、コンサルタントの下請業務を継続して行っています。
――土木部の人員体制は
角田 現在、当社では技術士建設部門(鋼・コン)の資格を有している技術者が6人いますが、そのうちの2人を含め、RCCM2人、コンクリート診断士5人、鋼構造診断士1人、コンクリート構造物診断士2人などを充て、本社で12人、全国の支店網を合わせ36人体制となっています。
コンクリート試料を用いた微破壊試験のためのコア抜き
――売上などの目標値は
角田 現在の土木分野の売上は3億円弱(2021年度)で、全社売上の5%弱ですが、2030年度にはこれを10億円、全体売上の10%まで上げていきたいと考えています。それを達成するためには橋だけでなく、一般道路やトンネルなど入札できる領域を広げると共に、コンサルタントや発注者への営業をさらに強化し、現在手薄になっている地方への営業も進めていきたいと考えています。さらに当社の技術的な「強み」も使っていきたいと考えています。
橋梁点検調書作成の手間を7割削減できるアプリ『タテログ』
AIによる点検効率化を目指すと共に、人間との技術的境界線を見極める
――ジャストの強みとは
角田 創業来、技術を積み上げてきた鋼・コンクリートの非破壊検査技術ノウハウと技術者数に加えて、建築/土木技術を熟知した技術者が多数在籍しており、品質の高いサービスを提供できることです。また、様々な機器を組み合わせた最適な手法を検討する提案力も評価されています。さらにはデジタル技術(各種撮影技術や画像合成技術およびAI)にも強みがあります。当社ではイノベーション・マーケティング部という部署もあり、ITエンジニアを10人抱えていると共に、ITの要素を持った人員も所属しています。その成果が最近出てきています。
――具体的には
角田 橋梁点検調書作成の手間を従来の7割も削減できるクラウドをも用いたアプリケーションである「タテログ」です。過年度の点検調書と点検結果(数量やCAD対応した損傷図)をクラウドにアップするだけで点検調書の大部分が作成できるものです。正式にはこの7月から発売しましたが、既に試験的に橋梁コンサルタントの各社に使っていただいております。また、橋梁以外には下水管向けの調書作成アプリも開発しており、これも近日中に上市できる見込みです。
タテログ 損傷入力画面例
同部材材料および要素番号表示例
――どちらかといえばソフト面の充実が著しいようですが、ハード面の開発などは行っていますか
角田 社内に研究開発部門があり、新しい非破壊検査技術を開発しています。商用化に向けてハードウェアの製造会社と業務提携しながら進めています。また、AI(デイープラーニング)を活用し、今まで当社が培った技術情報を教師データとしてどんどん投入し、点検精度を上げていく技術開発も進めています。但し、依然として点検においては、最終的に人が介在しなければ、確実な点検はできないと考えています。AIによる効率化を進めると共に、人間による目視(・打音)点検との技術的な境界線がどこにあるのか見極めることも大事であると思っています。
徹底的な実地を模擬した「ブートキャンプ」により自社技術を叩きこむ
技術資格習得のための環境を整える
――技術継承について
角田 ジャストは技術の会社です。若手・中堅にはそれを支える各種技術資格を積極的に取得していってほしいと考えており、会社も最大限、支援出来る環境を整えていきます。お金だけでなく、各種技術士や診断士を取得するための「授業」も識者を招いて充実させるよう努めています。また、資格取得者には各種祝い金や資格手当などを出し、インセンティブも与えます。
新入社員および中途採用社員については所定のOJTを行います。ベテラン従業員を中心とした教育も充実しており、実際の構造物を模した試験体を使った点検手法の訓練などを行い、徹底的な実地を模擬した「ブートキャンプ」により当社の技術を叩きこみます。
実際の構造物を模した試験体を使った点検手法の訓練
人間関係の円滑化のためには一定期間の出勤は必要
――ポストコロナの働き方改革についてはどのように考えておられますか
角田 業務によって困難な場合もありますが、可能であれば在宅勤務を選択できるような環境を作っています。通信機器などそのために必要な設備も会社により負担します。介護や育児などを抱える従業員に対するロイヤリティ確保を考えても、リモート勤務は有用であると考えており、コロナが収まったからと言ってリモートを廃止するという事は考えていません。但し新入社員や中途採用の入社に当たっては一定期間、出勤していただくことは、技術面でも人間関係の円滑化においても必要であると考えており、その方針は堅持していきます。もちろん必要な期間が過ぎれば、そうした従業員にもリモート勤務を選択していただくことを可能にしています。
――ありがとうございました