WJなどマイクロクラックを出さないはつり方法の徹底、低弾性断面修復材の採用が柱
名古屋高速道路公社 コンクリート床版上面の補修要領(案)を制定
名古屋高速道路公社
メンテナンス事業部長
沖森 克文 氏
補修の是非 音の違いや変状を映像により明確にし、現場で統一的に運用
動画は、今回の改訂案を運用する肝
――補修要か不要かという判断の見極めはエンジニアリングジャッジに委ねられるため、ばらつきが出そうですが
沖森 1㎡未満の異常範囲においてはつるべきか否かの判断は、マニュアルを作った公社が、実際の作業の動画を作成し、音の違いや変状を映像により明確にし、現場で統一的に運用していきます。また、浮きは生じているがはつるほどの変状ではないと判断された個所もマーキングし、次回点検では重点的に診る個所と決めています。
この動画は、今回の改訂案を運用する肝であると考えています。公社の監督員や施工管理員の意識を統一することはもちろん、舗装会社の技術者も呼んで、同じ動画を見てもらい、説明をして理解することで、認識を統一することを実施しています。
さらに現場では舗装会社の技術者が緑色のチェックを付け、その後に公社の監督員が確認し、最後床版を出した時に、どこまではつるのかは公社の監督員が決めます。ここで一番もめるのが、一度はつった後にもう一回、公社の別の監督員が見て、はつる範囲を広げることです。これは手戻りが生じるので、問題になります。それが生じないように、監督員と舗装会社の技術者が、施工の初めにはつる程度の明確化を意思統一した上で施工することが大事です。最初は難しいですが、これを繰り返すことで熟度は上がっていくと思います。
はつりの有無の判断例
電磁波レーダー 径間ごとのスクリーニングに使う
床版下面の補強対象37.9kmのうち、2021年度末で6割が完了
――電磁波レーダーの使い方について
沖森 目的は床版上面の浮いている個所の確認と被り厚の把握です。現状では、浮き個所をピンポイントで当てるというのは難しい状況です。径間単位でどれだけ悪くなっているかをスクリーニング的に測定する精度ではないかと感じています。それだけで運用することは難しいので、コアを抜いて調査するなど微破壊検査と併せて使っています。
電磁波レーダーを用いた床版上面からの非破壊検査手法の開発も進めている
また、電磁波レーダーはAIの活用も考えています。名古屋高速道路公社独自の教師データを取得し、それを使って学習させることで名高速で損傷を判断する箇所に対する精度を上げていこうと考えています。現在ニチレキさんと共同研究として進めています。
――床版下面補強が終了している状況を鑑み、上面補修・防水との兼ね合いはどう考えますか
沖森 大高線は床版下面補強が終わっていますが、その中で上面が再度劣化している状況でした。順序としては上面を補修・防水したのちに下面補強することを基本としています。今回、WJを採用しましたが、施工の際に水が残るようでは床版内がプール化するため、水を吸い取る能力の高いバキューム付きのWJを要求しています。これは車線規制をしている状況で、水が供用車線に行かないこと、今後のリフレッシュ工事においても、下面に貼り付けているアラミド繊維製補強シート(および接着樹脂)に悪影響を与えないためです。
下面補強したアラミド繊維シート補強(写真)に悪影響を与えないように施工する必要がある(井手迫瑞樹撮影)
――今年度のリフレッシュ工事及び下面補強工事の施工予定は
沖森 昨年度に施工した大高線の逆向き(南行き)を施工します。施工面積はほぼ昨年度と同じ規模(10万㎡超)です。
床版下面の補強については、現在、環状線、東山線、大高線、万場線、楠線で施工していますが、補強対象37.9kmのうち、2021年度末でその6割が完了する見込みです。
――複合床版防水を施工済みの路線はどれだけあるのですか
沖森 一宮線、清須線、東海線は建設当時に施工したシート防水です。東山線の一部は塗膜防水です。あとは全て複合床版防水を施しています。距離でいえば5割程度となっています(下図参照)。
鉄筋を引っかけたような違和感がある場合には直ちに作業を中断
鉄筋の補修や再施工などに関して特記仕様書に明記
――前回のリフレッシュ工事では、バックホウの操作などにより既設床版の鉄筋が巻き上げられるなど70本以上損傷し、現場での鉄筋の継ぎ足しを余儀なくされました。この再発防止をどのように考えますか
沖森 ヒューマンエラーによって生じたものでありますので、既設床版で切削後の残アスファルトをバックホウなどで除去する際は、以前の舗装切削により被りコンクリートが削られて薄くなっている個所があり、鉄筋をひっかけてしまう可能性があるため、鉄筋を引っかけたような違和感がある場合には直ちに作業を中断すること、鉄筋の補修や再施工などに関して特記仕様書に明記します(例えばD19を用意しておくなど)。また、当公社側としても被り不足個所の事前明示を舗装会社側にしっかりと伝えると共に、その危険性の認識を発注者・施工者間はもとより、元請けから協力会社さんへの間でもしっかりとした意識付けが重要と考えております。
また、電磁波レーダーは被りのあるなし(鉄筋露出あるいは極度に被り厚が減少している個所)の精度については、比較的高いため、事前に予測して舗装会社に伝えると共に、そうした個所はバックホウによる施工を省略して、WJで最初からはつるという手法を取っていきます。
既設床版の鉄筋が巻き上げられるなど70本以上損傷
緊急補修状況
――今回のトラブルは、報連相が有効に働かなかったところも被害を大きくした一面があったと思いますが、そこはどのように改めますか
沖森 請負った会社の対応に問題もあると思いますが……。今後は施工前の代理人への説明会の中で、この失敗を経験したことで詳細に事前説明できますので、トラブルがあった時は速やかに報告して欲しいということは、伝えます。また、今回のような事故が起きないような監視体制の強化も行う必要があります。加えて特記仕様書に今までの施工上のトラブルをピックアップして、各トラブルの対応策を明示し、トラブルが起きた時の準備を施工計画書に記載させることを考えています。
――補修範囲が広い個所では床版の取替を検討すべき個所もあるのではないですか
沖森 名古屋高速道路において床版の取替が必要な個所は、現在のところありません。
――ありがとうございました