道路構造物ジャーナルNET

高性能で、より効果的な補修、補強ができる

繊維補強コンクリートを活用するための性能照査や施工時の配慮事項などを示した指針を作る

土木学会
コンクリート委員会
⾼強度繊維補強セメント系複合材料の構造利⽤研究⼩委員会
委員長

内田 裕市

公開日:2022.05.26

 土木学会コンクリート委員会⾼強度繊維補強セメント系複合材料の構造利⽤研究⼩委員会は、より軽量で高い耐荷性能が要求される場合、塩害等に対し高い耐久性が要求される場合、あるいはより効果的な補修、補強が要求される場合などにおいて有望な材料の一つである繊維補強コンクリートをさらに各社の有する技術力により開発・活用しやすくするための指針作りを行っている。同小委員会の内田裕市委員長(岐阜大学教授)に、その狙いや指針作成後の期待される波及効果などについて聞いた。(井手迫瑞樹)

前身の346委員会で2期5年にわたって議論
 繊維補強コンクリートの魅力は、繊維やマトリックスの組合せが自由に選べること

 ――土木学会コンクリート委員会高強度繊維補強セメント系複合材料の構造利用研究小委員会の設立の経緯と目的から教えてください
 内田委員長 繊維補強コンクリートについては、現行のコンクリート標準示方書(施工編)にも特殊コンクリートとして10ページ程度の記述がありますが、実際に繊維の補強効果を利用した構造物の建設が本格的に始まったのは、2004年9月に土木学会の超高強度繊維補強コンクリート(UFC)設計・施工指針(案)が発刊された以降です。同指針が発刊されたことで、歩道橋をはじめとして、道路橋や鉄道橋の桁に適用され、羽田空港新滑走路ではUFC床版として大規模に利用されました。また最近では、高速道路の床版の更新にも用いられようとしています。

床版取替に用いられているUFC床版(井手迫瑞樹撮影)

大規模更新においてプレキャストPC床版の打ち継ぎ目などにも使われている(当サイト既掲載)

 UFC指針は鉄筋を用いずにコンクリートの引張を期待するという非常に斬新な材料でしたので、設計者がこの指針に基づいて設計する際に戸惑うことなく、ただちに設計できるように、材料がしっかりと限定されています。また、コンクリートの強度発現や耐久性の確保のために熱養生も規定されており、材料と製造、施工方法が規定された材料限定型の指針となっています。そのため、UFCを利用しようとする会社は、この指針ができたことによって、指針に適合する材料を開発してUFC指針にしたがって設計、施工をしているのが実情です。

 一方、繊維補強コンクリートの魅力は、繊維やマトリックス(モルタルあるいはコンクリート)の組合せが自由に選べることです。繊維の種類、長さ、径、マトリックス、強度などのバランスが必要になりますが、利用者は目的に応じて、材料と配合を自由に選んで、様々な繊維補強コンクリートを作ることが出来るはずです。しかし、現行のUFC指針では材料と施工方法が限定されていますので、この指針を用いる限り、材料および材料特性を任意に選択することはできません。

 そこで、土木学会コンクリート委員会の346委員会(繊維補強コンクリートの構造利用研究小委員会)では、2期5年にわたって繊維補強コンクリートの有効利用とそのための指針について議論してきました。今後、より軽量で高い耐荷性能が要求される場合、塩害等に対し非常に高い耐久性が要求される場合、あるいはより効果的な補修、補強が要求される場合などには繊維補強コンクリートは有望な材料の一つであり、各社の技術力を活かすためにも材料に限定されない指針案が必要と考えました。


委託の背景

 このたび、建設会社、セメント会社、繊維メーカーなど17社からの指針作成の委託を土木学会が受け、コンクリート委員会に指針作成のための委員会(254委員会:高強度繊維補強セメント系複合材料の構造利用研究小委員会)を立ち上げていただきました。委員会には、委託側の企業の他、識者である大学の先生方、国、鉄道ならびに道路会社などの発注者の方々に参画していただいています。委員会は昨年10月1日に発足し、2年間で指針案を作成する計画になっています。

UFCの範疇以外の材料をカバー 対象となる圧縮強度は60~150N/㎟
 指針には材料特性値や応答値、限界値の求め方や考え方を示す

 ――この指針が対象とするコンクリートの圧縮強度は60~150N/mm2程度という認識でよいですか
 内田 その通りです。今回作ろうとしている指針はUFCの範疇以外の材料をカバーしようというものです。UFC指針は150N/mm2以上で繊維長、径、混入量もほぼ限定されており、UFC指針の範疇の材料はUFC指針に任せます。

 ――コンクリートまたはモルタルなど材質を問わないのですか
 内田 委員会の名称にもあるとおりセメント複合材料ですからコンクリートの場合もあり、モルタルの場合もあります。マトリックスの種類は限定しません。

 ――指針の概要と方向性、範囲について説明してください
 内田 性能照査に必要な項目を示すととともに性能照査に必要な情報を提供します。また、施工するうえで配慮すべき事項についても必要な情報を解説します。
 想定する活用方法ですが、この指針を使って直接設計することは想定していません。材料を限定しませんので具体的な材料の特性値を示すことは出来ませんし、応答値、限界値を求めるための具体的な設計式も示すこともできません。したがって、実際の設計を行う際には、この指針だけでは設計できません。
 指針には材料特性値や応答値、限界値の求め方や考え方を示していきます。特に、繊維の架橋効果を考慮する考え方、方法を示します。また、耐久性や補修補強に関しても考え方や配慮事項を具体的に説明したいと思います。さらに適用例として、例えばプレキャストの接合部や隅角部の配筋の合理化などについても紹介したいと考えています。なお、すでに十分に確認がなされている既存の材料については参考資料に掲載し、新しい材料を開発、適用する場合の参考にしてもえるようにしたいと考えています。

 ――新しく開発された材料は、次の段階としてどのように普及させていけばよいと考えていますか
 内田 普及させるためには、それぞれの材料について独自の設計施工マニュアを作成していく必要があると思います。例えば新しい材料を開発して、単一の構造物、あるいは製品のみに適用するのであれば設計施工マニュアルは必要ないかもしれませんが、それでは普及しません。新材料を汎用的に様々な用途に適用していくのであれば、その材料に限定した設計施工マニュアルを作成した方が効率的だと思います。さらに、その設計施工マニュアルを学会などで評価してもらえれば、さらに普及すると思います。

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