2021年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑪宮地エンジニアリンググループ
アセット・ライト経営へ選択と集中 聖域なしの改革改善を推進
宮地エンジニアリンググループ株式会社
代表取締役社長
青田 重利 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。最終回となる今回は、宮地エンジニアリンググループの青田重利社長と、日立造船の鎌屋明執行役員の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境・現状について
青田 新設橋梁はここ数年で発注される「大阪湾岸線関連の大型工事」があり、世界的な斜張橋も含め久々に夢のあるビッグプロジェクトだ。一方、橋梁市場は新設から大型更新・保全工事へのシフトは確実に進んでおり、グループでの対応を強化して総合エンジニアリング力を発揮し、経営資源を新設橋梁、ミッシングリンク解消案件、大型更新・保全工事、開発商品の拡販等、バランスの良い選択と集中へとシフトしていく。橋梁業界は総合力『経営資源の量』があるか否かで二極化が確実に進んでいく。今後とも聖域なしの改革改善を進めていく考えだ。
今後の橋梁業界、建設業界を考えるに当たっては、谷口博昭・土木学会長の提唱されているインフラの「ビッグピクチャー」構想は重要だ。グローバル経済と国土保全において、質の高いインフラが必要と説く提言は全体を俯瞰し、多方面との連携と投資額の明示で具体的プロジェクトの創出を導き出し、建設業界の技術開発を促進し、国際競争力をアップすることが期待できる。何よりもこれからの日本を担う若手・中堅技術者へ夢と希望を与える提言で、実現に向けて弊社グループも微力であるが努力したい。
――今年度の需要環境見通しは
青田 今年度の国交省の新設橋梁の発注量は回復基調で10万t以上。阪神高速関連の大阪湾岸線西伸部など世界的斜張橋を含むビッグプロジェクトの発注は15万t程度が今年度から来年度へかけて発注され、NEXCO3社の発注量も、前年から5割程度増加して6万t程度と予想している。
一方、大規模更新、大規模保全工事の発注は今後10年程度続くため、グループとして取り組み体制を強化し、ポートフォリオの1事業として確立させる。
――設備投資計画は
青田 経営資源を新設橋梁、ミッシングリンク解消案件、大型更新・保全工事、開発商品の拡販等とバランスの良い選択と集中へとシフトしていかなくてはならない。すなわち、装置産業でのアセット・ライト経営は事業環境が求めている必然的施策と考えており、18年8月に発足した千葉工場改革プロジェクトで追求している生産性向上の施策とコラボレーションさせ、高い収益力を上げる工場を完成させる。千葉工場改革プロジェクトで開発したヤード管理プログラムにより、生産の効率化や工作法、溶接技術の改善などは順調に進んでおり、21年1月から稼働している塗装用移動ハウスの増設の効果も予定通り表れている。今後は、塗装一貫体制構築で計画しているブラスト設備への投資で終了し、本格的なアセット・ライト経営への転換を進める。
完成した「塗装移動ハウス」
――DXへの取り組みについては
青田 社内DXについては、受注時情報・設計情報・製作情報・検査情報のデータを共通のプラットフォーム上で管理する仕組みを一部で試行しているが、まだ業務効率化への効果を評価するまでには至っていない。今後の課題は現場まで含めたプラットフォーム上での管理とお客様のDXデータの社内DXへの連動によるさらなる業務効率化への作業を加速していく。
――新技術開発などについては
青田 事業拡大のため、グループとして「大型更新・保全工事」に戦略的に取り組んでいく方針とし、大規模更新工事などの分野をポートフォリオの1事業として確立させる。
開発製品・開発技術として、FRP製品、無水ワイヤーソー、構造物傾斜管理システム、スタッド溶接ロボットなどを開発しているので、さらに製品・技術の良さを理解していただき、安全・安心なインフラ整備で貢献していく。
――部門ごとの課題と具体的対策・戦略は
青田 東証の市場再編成を控え、企業価値の向上のため、監査等委員会設置会社への移行、指名・報酬委員会の設置、MECとMMBのコラボレーションによるシナジーの創出の見える化の重要性から、新たにIR室を新設し、株主との対話や情報開示を積極的にしていく体制とした。「JPX日経中小型株200社」に選定されたこともありIR室設置の重要性を改めて認識している。
(聞き手=佐藤岳彦、文中敬称略)