2021年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑦IHIインフラシステム
20年度は国内受注割合が増加 保全関連事業を拡充へ
株式会社IHIインフラシステム
代表取締役社長
石原 進 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。5回目は、IHIインフラシステムの石原進社長と、JFEエンジニアリングの川畑篤敬取締役専務執行役員の記事を掲載する。
――2020年度業績と主な物件は
石原 当社の売上高は512億円で、19年度比で若干下回ったが、利益率は19年度と同程度の水準となった。営業利益は44億円。20年度は国内での受注割合が多かった。
業界全体でみると、鋼橋の発注は20万tには到達しなかったが、19年度に比べて回復した。加えて保全工事も増加しており、当社受注でも保全事業の割合が新設を上回った。防災・減災を含めた保全工事の需要は今後も高水準を維持するとみている。
保全事業では、トルコ共和国で施工した「第1・第2ボスポラス橋大規模修繕プロジェクト」が第4回JAPANコンストラクション国際賞の建設プロジェクト部門で国土交通大臣表彰を受賞した。2つの吊橋の大規模修繕工事で、世界初となる全240本の斜めハンガーロープから鉛直ハンガーロープへの取替えを、交通開放した状態で実施。吊橋主ケーブルの補強に加え、送気乾燥システム設置による予防保全の組み合わせで、コストを抑えた長寿命化が評価を得た。吊橋の新設は国内では長らく途絶えており、施工を通じて吊橋の保全技術やノウハウを蓄積できた点でも意義を感じている。
――今年度の見通しは
石原 21年度の鋼橋発注は20万tを超える見通しだ。大阪湾岸道路西伸部事業をはじめ、新設鋼橋も複数の案件が具体化する見込みとなっている。
また、大型保全事業でプロジェクトの設計段階から施工者の技術力を設計内容に反映させるECI方式での発注も増えており、保全に関する総合的な提案力が施工業者に求められているといえるだろう。保全事業に関しては施工実績を生かした技術に加え、新しいサービスの提案にも取り組んでいく。
亀山西JCTランプ橋
――保全関連事業について
石原 橋梁の維持管理を支援する統括マネジメントシステム「BMSS」を開発した。橋梁の定期点検、補修設計、補修工事などのデータを集約し、点検業務から補修工事発注までの各業務の効率化を図るものだ。地方自治体では技術者の高齢化や人手不足が進んでおり、発注までの業務効率化が必要となっている。同システムは過去の補修実績を基に、点検で得た損傷データから必要な補修工事や技術を提案し、補修工事の発注作業を支援できる。
また、大規模更新工事の効率化を目的に自走式新型床版取替機「Sphinx(スフィンクス)」を開発した。既設床版の撤去から新床版の架設までの一連の作業を1台でこなせる装置で、立体交差部など、上空に障害物がある箇所でも施工できるのが特徴。吊荷移動や運搬走行などはリモート操作が可能で、効率化・省人化にもつながる。すでに実工事での適用を開始しており、今後、大規模な床版取替工事などで施工実績を重ねていく。
このほか、大型構造物の経年劣化や損傷の点検管理を効率化できるパノラマカメラビューアシステム「Panoca(パノカ)」をスタートアップ企業と共同で開発した。広角カメラを6台搭載しており、暗部でも構造物を鮮明に360度撮影することが可能。損傷位置を3次元的に把握し、損傷情報を画像とリンクさせることもできるため、過年度比較や健全度判断がしやすいのが特徴だ。保全事業については、関連事業も含めて幅広く手掛けることで、潜在的な需要の掘り起こしや自社の保全技術向上などにつなげていきたい。
――設備投資計画は
石原 塗装作業の品質および効率向上を目的に、屋根付きの塗装用ブースの整備を進めている。また、堺工場内に新事務所を建設する計画を進めており、完成後には関連会社のIHIインフラ建設も同居する予定だ。
コロナ禍によりリモートワークが増えるなど、勤務形態は多様化している。こうした変化に対応し、業務を円滑に進められる環境を整える必要がある。また、関連会社との連携強化により、人材の交流やノウハウの共有化なども進めていきたい。
(聞き手=八木香織、文中敬称略)