リニューアル工事 全体の進捗率は着手済み18%、工事完了5%
設計ストックと確固たる施工計画を増やし発注増を目指す
――高速道路リニューアル工事について、全体の進捗状況と今年度(2021年度)の施行(予定)は
髙橋 2021年3月末現在、事業全体の進捗率は予算ベースで、着手済み18%、工事完了5%となっています。現在まで、詳細調査や工事の技術的な検討、詳細な施工計画や交通規制計画の立案、関係機関との調整などを行いながら、順次工事着手しているところです。
今年度は、22橋の床版更新工事、3本のトンネルインバート設置工事を計画しています。また、その他の工事として高性能床版防水工の施行やのり面の長期安定性を確保するための各種対策も実施します。
2021年度リニューアル工事予定
――2021~2025年度の中期経営計画では、リニューアル工事として橋梁床版取替工事約200橋、橋梁修繕工事約300橋、土構造物修繕工事約450箇所、トンネル修繕工事約50トンネルを実施するとしています。床版取替工事でいえば、今年度が22橋ですから、5年間で約200橋を実施するとなると、事業展開の加速化が求められます。どのようなお考えで取り組みますか
髙橋 中期経営計画の約200橋は全体数量からするとまだ一部です。この5年間でようやく軌道に乗ってきましたので、今後はさらにボリュームを増やしていく予定です。毎年、点検を行っていくなかで、当初予期していなかった老朽化の進行が見つかることもあります。リニューアル事業の全体計画に加えて、新たに対応を求められるものも出てくると思いますので、つねに最適な計画に入れ替えながら、中期経営計画の数字を達成していきます。
リニューアル工事は新設工事と違い、通行止めを含めたさまざまな規制が必要で、適切な設計、工法を選択したうえで、関係機関とも協議しながら、実際に現場を動かせる状況にしていかなればなりません。そのためにはまず、設計ストックとしっかりとした施工計画が重要で、それらを増やすことで発注件数も増やすことができると考えています。
そのうえで、橋梁を含めた今後の構造物の市場は新設事業よりも更新事業のほうが圧倒的に規模が大きくなることを前提に、施工業者の方には更新事業に対する技術力とともに社内体制を作って工事に参加していただきたいというお願いをしています。リニューアル工事の専属チームを作っていただいている会社もありますので、施工側の体制も整いつつあると思っています。
発注方式についても業界団体と意見交換をしながら、入札・契約制度の改革を進めています。継続契約方式や異工種工事などの導入でWIN-WINの関係となるように、整備をしています。
――設計ストックやしっかりとした施工計画が重要とのことですが、社内体制はどのように
髙橋 リニューアル工事や維持修繕の現場となる管理事務所については、体制を強化しています。さらに、仕事のやり方も効率化しなければなりません。これまでは管理事務所が主体になって設計を進めてきましたが、それでは工事量に対応できない場合があります。
ロッキング橋脚の耐震補強工事では、支社の構造技術課が各事務所の設計を一元的に行うことで効率化を図りましたので、リニューアル工事においても専門技術者を支社に配置して、現場をフォローしていく仕事のやり方に変えていくことが必要だと考えています。一部ではすでに実施していますが、近い時期に全社的なものとします。
道央道で大規模リニューアル工事を実施
第1弾は大谷地IC~札幌南IC間の連続高架橋約2.3km区間
――継続契約方式や異工種工事などの導入で大型発注も増えますね
髙橋 今後、増えていくと思います。これまでは助走段階でリニューアル工事を単発的に行っていた部分もありましたが、本格的にやるためには大型工事が必要ですし、まだ首都圏が本格的に動いていません。首都圏では集中工事が必要になるかもしれませんし、ある程度、大規模に行っていく区間も出てくるだろうと考えています。
先ほど申し上げた社内体制強化の一環として、昨年7月に札幌工事事務所を新設しました。小樽JCT工事なども担当しますが、道央自動車道のリニューアル工事を一手に行い、大規模なロットで工事を出していきます。
その第一弾が、「道央自動車道 大谷地地区橋梁リニューアル工事」です。大谷地IC~札幌南IC間の連続高架橋の約2.3km区間で、床版取替とそれにともなう上部工拡幅などを行う工事となります。重交通路線であり、RC橋、PC橋、鋼橋が混在する橋梁構造に加えて、高速道路と国道(札幌新道)が上下構造で住宅なども密集している現場条件から、設計段階から施工者独自のノウハウや工法などの技術協力が必要と判断して、発注にあたってはECI方式を導入しました。大林・鴻池・中山組・JFEエンジニアリングJVが受注して、設計を進めています。
今後、札幌工事事務所では同規模のリニューアル工事の発注を行っていきます。
道央道大谷地地区橋梁リニューアル工事概要
大谷地地区の連続高架橋
――連続高架橋とのことですが、対象となる橋梁は
髙橋 橋長約1,950mの大谷地高架橋(鋼鈑桁・中空床版・PC合成桁)と同約450mの厚別高架橋(鋼鈑桁・中空床版・鋼箱桁)となります。
――どのように施工する予定ですか
髙橋 大谷地IC~札幌南IC間(片側2車線)の交通量は約38,100台/日(2019年平均)と多く、渋滞発生を防ぐために日中(6時~20時)は小樽方面行き、千歳方面行行きの両方向とも2車線の確保、それ以外の時間帯は小樽方面行き、千歳方面行行きの両方向とも1車線の確保が必要となります。そこで、既存の中央分離帯部を拡幅することで、1車線の増加を行って車線を切替えながら床版取替工事を行っていく予定です。
――工期は
髙橋 実施設計期間が2022年10月13日までで、工事全体の工期末は2025年度末を予定しています。
――札幌工事事務所での他の大型発注では
髙橋 同じく道央道の「米里地区橋梁リニューアル工事」があります。札幌JCT~北郷IC間の連続高架橋(約1.7km)の床版取替を行います。橋梁名では、米里高架橋(橋長500m、鋼非合成鈑桁・鋼合成鈑桁・PC2主版桁)と北郷高架橋(橋長約1,200m、PC2主版桁・PC箱桁・PC中空床版)となります。
米里地区は大谷地地区の小樽側に位置しているため、現場環境はほぼ同様となっています。なお、当該区間の交通量は約43,100台/日(2019年平均)です。大谷地地区と同様にECI方式での発注を行い、10月に優先交渉権者を選定する予定です。施工についても大谷地地区と同様の計画をしています。
道央道米里地区橋梁リニューアル工事概要
米里地区。大谷地地区と同様に都市部でのリニューアル工事となる
横浜横須賀道路・釜利谷第二高架橋で首都圏初となる床版取替工事
中央分離帯部を車線として改良 車線切替えを行いながら半断面施工
――横浜横須賀道路(釜利谷JCT~朝比奈IC)の釜利谷第二高架橋で首都圏初となる床版取替工事を今年度に実施予定となっています。同橋の橋長、形式、当該区間の交通量を教えてください
髙橋 橋長140mの鋼3径間連続非合成鈑桁橋です。断面交通量は約60,000台/日となります。
――施工期間は
髙橋 2022年1月から8月までを予定しています。
――道央道のリニューアル工事区間以上の重交通路線となりますが、どのように施工していきますか
髙橋 当該区間は片側3車線となっていますが、片側2車線を確保しながら工事を行う計画です。施工方法は、あらかじめ中央分離帯を改良して車線数を増加させ、車線切替えを行いながら半断面施工を実施していきます。
――具体的な施工ステップは
髙橋 4段階での施工を考えています。ステップ1では、まず中央分離帯側にコンクリート防護柵による固定規制を設置し、車線部を外側にシフトさせ、中央分離帯部に作業ヤードを設けます。その次に、中央分離帯部のすり付け舗装および上下線の桁連結を行います。
ステップ2では、改良した中央分離帯部に上り線をシフトさせ、上り線外側の床版取換を行います。
ステップ3では、上り線をステップ2で取り換えた新設床版上にシフト、下り線を中央分離帯部にシフトさせ、下り線外側の床版を取換えます。
最後にステップ4として、下り線をステップ3で取り換えた新設床版上にシフトさせ、中央分離帯部の床版取替を行い、各新設床版を一体化させて完成となります。
なお、各ステップの切り替えは、夜間通行止めにて行う計画です。
――施工会社は
髙橋 JFEエンジニアリングです。
床版取替施工ステップ(案)
――重交通路線では、中央分離帯部を車線として改良して施工するケースが多いですね
髙橋 渋滞の低減を図るためには必要な車線数を確保する必要がありますので、現状ではそのようになっています。
現在、進めている北陸自動車道(三条燕IC~中之島見見附IC)の栄橋床版取替工事でも、中央分離帯を改良して作業ヤード以外に3車線分の幅員を確保しています。さらに、当該区間は上下線で交通量ピークの時間帯が異なることから、ロードジッパーシステムを活用して混雑時間帯に合わせた車線切替えを行い、さらなる渋滞低減を図っています。
北陸道・栄橋床版取替工事。ロードジッパーシステムを活用して車線切替を行った(右写真:井手迫瑞樹撮影)
――釜利谷第二高架橋のほかに都市圏での床版取替工事の予定はありますか
髙橋 大型工事としてはまだ検討段階です。設計や施工方法、規制計画などの点で首都圏が一番遅れています。
――中期経営計画のなかでの施工はありますか
髙橋 一部は行いますが、具体的なことは決まっていません。
UFCを用いた防水性能を有するプレキャスト床版を試験施工
今後3年間の施行計画を5月に初公表
――床版取替工事での工程短縮の取組みは
髙橋 UFC複合床版という超高強度繊維補強コンクリートを用いた防水性能を有するプレキャスト床版を開発しています。これにより、雨天時に施工できない床版防水工が不要となり、工程遅延のリスクを回避することができます。実際に、2020年秋に東北道(国見IC~白石IC)の宮城白石川橋(上り線)で試験施工を行いました。今後、この技術の効果検証を進めて適用拡大を検討していきます。
構造概要と排水イメージ
床版パネルと架設状況
――リニューアル工事には高性能床版防水工が含まれています。グースアスファルト舗装の採用については
髙橋 高性能床版防水(グレードⅡ)は施工に時間を要します。規制時間に制限がない箇所はそれでいいのですが、長時間の交通規制が行えない重交通路線の対応として、橋梁レベリング層用グースアスファルト(BLG)の適用を検討しています。
北陸道の三王渕橋(下り線)では、20時から翌6時までの車線規制可能時間のなかで、既設舗装切削からBLG、表層の施工(面積約600㎡)を完了することができました。これらの現場での施工ノウハウを蓄積し、その他の重交通路線の橋梁への適用を進めていきます。
ただ、BLGにしても一定程度時間がかかり、その時間さえも確保できない箇所も現実的にあります。床版防水については苦労し続けているので、引き続きいいものを求めていきたいと考えています。
三王渕橋(下り線)/BLGの施行と舗設完了
――2022年度のリニューアル工事予定を教えてください
髙橋 5月に今後3年間の施工計画を初めて公表しました。中長期の工事計画が分かればビジョンが立てやすいと業者の方から言われていましたし、我々としても円滑に工事契約をしていただきたいという考えから、2022年度から2024年度に予定している各事務所の発注見通しを明らかにしました。これまでそういう情報がありませんでしたから、役に立つと思います。
床版取替では、2022年度に9件の工事発注と5件の設計発注を行う予定です。
――PC橋のグラウト充填不良についてはどのような対応を行っていますか
髙橋 PC鋼材の変状が疑われる橋梁やPC鋼材を上縁定着させている橋梁を優先に、広帯域超音波法を用いた詳細調査に本格的に着手したところです。ただ、広帯域超音波法による調査を実施できる会社が限られているため、進捗を図るためには調査可能会社の増加や探査精度と速度を両立した新たな非破壊検査方法の開発が必要であるとも考えています。
調査により充填不足が確認された場合は、グラウトの再注入などの対応を行うなどして適切に対応します。
――グラウト充填不良ではどのような工法を採用していますか
髙橋 PCグラウトの再注入方法には、真空ポンプ併用式、圧入方式、自然流下方式などがありますが、注入する空洞部の状況や通気の有無、グラウト材料の充填性や施工性などを考慮し、適切な工法を選定します。